絶対無敗の俺が唯一負けたのモノ、それは君の【おっぱい】です
この世界には便利な言葉が存在する。
『事後』。ある事件が起きた時、事後だと言えばなっちゃったもんは仕方がないしなぁと若い内は済ましてくれるのだ。
今日もきっと、そうだろう。
「なぁ来夏よ、そろそろさぁ」
「ダメ。この変態」
「──悪かったと思っている。いや本当に、マジで。まぁ俺に勝てたこと、誇りに思えたまえ?」
自分の妄言に反応するのは、隣を歩く古都来夏。
茶髪ショートに、煌びやかな茶色の瞳。一見清楚に見えるが性格は鬼の様だ。そしてモデル顔負けと言わざるを得ない、ぴっちりぱちぱちとした美形スタイル。
そして牛かよとツッコミを入れても満足いかない巨乳を彼女は持っている。
「くぅ〜ムカつくっ!! 勝ったのは嬉しいけれど、貴方の敗因が私のおっ◯いに見惚れてて手持ちの時間使い切るとか⁉︎ 恥ずかしいっちゃありゃしないわ!」
俺、『白雪沢乃夜』はーー遊戯専科高等学校で最も優秀な生徒と名高い【三帝】のうちの1人である高校二年生だ。
絶対無敗なんていうめちゃカッコいい二つ名すらも持っている!!
学校の説明に戻るが。
そして、この学園内では優秀な生徒を作る為に、学園内のみで使用できるポイントを賭け金とした面白おかしく様々なゲームを取り行っているのだがーーー。
端的に言おう。
先程オレは、多量のポイントを賭けたゲームでコイツに敗北したのだ。
「まぁ貴方に勝ったお陰で私には……【96万ポイント】も手に入ったから感謝してなくもないけど」
「なんかこっちが許せなくなってきたぞ。テメェのおっぱいは一生恨む。牛乳が!」
「せめて"ぎゅうにゅう"って言ってくれない⁉︎」
いやどうでもいいだろ、そんなの。
因みにゲームの内容としては、ただ単にオセロをやったんだが……。
絶対無敗と謳われる俺がゲームに負けた理由──それも単純でただコイツの持つ牛みたいな乳に敗北したのだ。
ぐッッッ、このクソ巨乳が。
そう言いたくなる。
加えてこの学園内でのポイントは、1ポイントにつき一円の価値がある。そして96万ものポイントを持っていた俺はそれを全部賭けて。
「じゃあどっかの嬢だな。こんなにも搾り取ってきやがって、不純異性交遊は学校の外でやりやがれ!」
「な、なんて失礼な……⁉︎」
つまるところ、俺は初めてゲームに負けたのがおっぱいに見惚れていたという理由な挙句、四捨五入すれば百万円に相当するポイントを失ってしまったわけ。
高校生にとって百万なんて大金も大金だ。羨ましい。
「ぐぅ……貴方に勝ってみんなに自慢するつもりだったのに。うぐぐ」
「どうした、自慢すればいいじゃないか? それどころか百万もぎ取ってきたぜヒャッハー‼︎ ぐらい言えばいいんじゃないか?」
「……はぁ⁉︎ そんな事言ったら、どうやって勝ったんですか? とか絶対みんな聞いてくるじゃない!!!」
別にいいじゃん。いいや、良くない。
全然良くなかったわ。こんな美少女なんだから、コイツなりにプライドがあるのだろう。
「私が巨乳だったから勝ちました★」なんて事は口が裂けても言えないのかましれない。
もし俺が来夏の立場だったら、言っちゃうけどな。
「でも良かったじゃないか。人気者になれて」
「……は?」
「ほら見ろよ。学園の生徒達が噂を聞きつけたのか。『あの三帝に勝った生徒がいるって⁉︎』なんてな」
「ちょ、ちょ、ちょ⁉︎」
そう。俺たちはある場所で勝負を行なった。それは自身の部屋でもなく、特段プライベートが聞いている場所でもなく。
遊戯専科高等学校の校舎一階フロアに設置してある、あらゆる玩具が取り揃えられた遊技場。
そこはどんな生徒でも入室可能で、授業時間以外は良く生徒で賑わっている所だった。
そこで三帝と名高い有名人の俺が負けてその部屋からコイツと共に出てきた状況、それが今なのである。つまり、そんな状況の中廊下で話している我らが注目されるのは必然。
「あ、あの三帝が負けた⁉︎」
「ウッソだろおい……あの茶髪って転校生だよな⁉︎」
「俺見たぜ。あの転校生が今朝、登校してすぐに三帝へ挑もうと叫んでた姿を」
「凄い"お"ね」
時間が経過するごとに集まってくる観衆はかなり賑わっている。正直な所、邪魔以外の何者でもない。
こういうのが、問題の火種になるのだし。
「や、やばい……。どどどどうしよう、」
隣を歩く勝者は、年相応な挙動不審を起こしていた。
ジト目になりながら小声でコチラを見つめ、助けを乞うている。ふと可愛い、ドキッとしてしまうが溜息一つと一緒にその感情を鎮火した。
っったく、助けを求められる存在はキツいぜ。
───調子乗ってすいませんでした。
「ねぇ、ちょっと助けてよ、私こんなにも注目集められちゃうとかムリ! 全然ムリ!」
「じゃあ、俺の手を取るが良い」
「ふぁ?」
俺が差し出した手を、気が動転していた彼女は取った。暖かい体温がゆっくりと伝わってくる。
まるでぬるま湯に包まれているかの様な感覚だ。
「……ん、なんか滅茶苦茶震えてない? あんたの手」
「──正解だッッッ。悪いな。正直なところ、オレもこんなに注目を浴びるとかないんですわぁ。というか止めろ、インキャの俺がこんな状況で動けるとか、本当に思ってたの⁉︎」
「ぎょえええええぇぇぇぇえええ!?!?!?」
そして、そう。
それが真実だ。
こんな周りに人がいて、コチラを見ていて、こちらの話題で持ち切りの状況の中……インキャを極めし三帝が動ける訳がない。
少し視線が動くとしても、それは周りの生徒のおっ◯いに対してだけだ!!!!
ーーいや最低だな、オレ。
「しゃーない。事なきを得るには、動くべし! 逃げるぞ来夏!」
「?????」
しかし俺は目の前に立つ美少女、その手を強く握り締める。そしてなお、あんまり走る場面がなく停滞していた筋肉を再稼働させる脚で一歩踏み込んだ。
逃げるが勝ちだ、この世界は。
ーーー俺達は全力で辺りの生徒の群れを掻い潜り、逃走した。
◇◇◇
目の前に広がる紺碧の空。
その世界を表現するには『美しい』を通り越して、『薬物』と言わざるを得ないだろう。
それだけ、眼前に在る世界は美しい。
立ち入り禁止という文字が敷かれたドアの先、校舎の屋上にて。
自分は来夏と二人きりで、屋上にいた。
「なんで屋上なんかに来るのよ⁉︎」
「いやいや、仕方がないだろ。人目につかない所と言ったら、ここぐらいしか思いつかなかった」
「はぁ? 自分の部屋とかでよかったじゃない」
彼女は不満そうな表情をコチラに見せてくる。
この学校は完全寮生だ。
それは入学時に確認が取られている。絶対に寮に入るというのがこの学校のルールなのだ。
勿論、このオレも寮生の一人。
「いやそれじゃダメだ。というか俺の部屋は色々とまずい」
……なにせ今はゴミが溢れる、正真正銘のゴミ部屋だし。積みゲーが重なりに重なって、歩く場所すらないのだから。
そりゃあ、人に見せろとかムリだろ。
憤死するって、本当にさ。
「なんでよ」
「守秘義務。言わないぞ」
「……ちぇ」
彼女の反応は無視して、オレはオレが在る為にオレを貫き通す。
「違う、そんな事よりも大事な事があるって。お前理解出来ているのか?」
「うん??」
「お前はこれから、この学校で一番の注目を浴びる存在となるだろう。なんたって三帝のオレを、16.2秒で負かしたんだからな」
「よく数えてるわね」
来夏は屋上にある転落事故防止用の緑柵に腰をかけた。そんなあまり危機感のない来夏に対し、警告する様にオレは───彼女に壁ドンした。
「は、はわぁ⁉︎」
「お前はこの意味が分かるのか? これからお前は、全生徒の敵の中でトップとなる。恐れられる存在となる。そしてオレが負けたのは必然だがーーきっと他の相手には通用しないだろう。男以外、その『うしちち』は」
「む、なんかムカつくけど。確かに、そうね」
「つまるところ、お前は俺程度を一瞬で負かす事のできる圧倒的な実力者だという事を示さなければならない」
この刹那。
ようやくやっと、コイツが驚愕した様に口を大き開いて「えっ?」と間抜けだ声をあげた。
「つまりお前は最弱ながらに、『おっぱい』によって最強の座を得た女。ーーソレを他生徒には悟られていけない。騙し続けなければいけない」
「ちょっと、これってマジ?」
「ああ、マジだ」
全く能天気なヤツ。
やれやれ、遂に嘆息すら出てこなくなった。こういうのを別界隈では『沼』と表したりするのだろうな。
我が脳内では数多な交響曲が流れ始めている。
「それって私なんかじゃ出来ない気が……するんですけどぉ⁉︎」
「そうだろうなと思ったぜ(キリッッッ……ット」
「え、思っただけ? た、助け下さいよ!!!」
なんでだろうか。
勝者から助けてなんて言われてしまっている。
それ程までにオレも成長したんだな、神様ぁ!!!!
神様が居るかどうか知らないが、取り敢えず感謝の意を込めて敬礼しておいた。
というか気が付けば、おっぱいは涙目になってしまっていてーー俺の心臓が止まる。
「ならば……、俺と契約するが良い」
「け、けいひゃく?」
「そう、悪魔の契約だ! ──いやそれは嘘だけど」
「……チキったわね、貴方」
「うっせぇ! ちょっと悪魔の契約だとか言って良くわからん宗教団体が現れたりでもしたら、どうすんだって話だよこのおっぱい!」
「なっ⁉︎⁉︎」
来夏の顔が赤面してゆく。
そして何故だろうか。俺の頬は、その1秒後……見事なまでの平手打ちを食らっていて。
ああ、痛い。
無音の中に『バチンッ!!』と音が響いた。
「痛い⁉︎ 暴力反対、非服従!!!」
「あんたが私の事変な呼び名で呼ぶからでしょ!!」
「……悪い悪い。それよりも、どうするんだ? 俺に協力してくれるなら、具体的には俺が困った時にお前のその立場を利用して助けてくれるならーー」
「してくれるなら?」
「もし普段、お前に危ない輩が迫ってきてもお前の立ち位置が危なくなんない様に俺が助けてやる」
鬼の目がキランと輝いて、コチラを凝視している事に気がつく。
彼女はあまり理解していないのかもしれない。でも大事な判断だという事には気付いたようだ。
「な、なるほど……。分かったわ。でも一つ、私からも条件があるわ」
「ほう。その条件ってなんだ」
「そんなの単純だから安心して。ーーただ一つ、私と同棲しなさい!!!!」
「ん??」
しかし、何処か彼女はズレている。
まさか付け加える様に提案された案はあまりにも馬鹿げていて、意味が分からないモノだったんだから。
同棲するってどういう事だよ。
倫理的にも、学校の校則的にも色々と問題がありそうなんだが……。
されど。
「う、……良いだろう」
俺は了承する。
たとえこの先に待ち受ける未来が、絶望だとしても。おっぱいだとしても。このおっぱいの考えている事も、よく分からない……だとしても。
事後、事実は不変だ。
だとしても。
最強が最弱に成り代わり、最弱が最強に成り代わる。二人だけの秘密を胸に保ち続け、俺達は残り二年間の学校生活を『偽りだらけ』でも貫き通す。
それが、この学園で生き残る秘訣なのだから。
そして。
───俺はこの嘘を事実として、進み続けると決めたのだから。
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