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青き時間の朱い夏  作者: ジョジョ
初幕 Sunset
7/9

漆ノ話 追尾行・其ノ壱

そして事情説明全工程が終了したところで、(しゅう)が声を発した。

「分かった、手伝おう」

まぁだよなぁ。手伝うよな……て、え?


「手伝ってくれんの?」

「え? いや、そうだろう。今暇だし、別に断る理由もないからな」

間違っていたのは自分の周りに対する認識だったのだろうか? 翔太(しょうた)は自分の考えを疑った。

「ところで、早く行った方がいいんじゃないか? 逃げられるだろ」

「……それもそうだな」

聞いていますか先人(せんじん)の方々。渡る世間に思ったより鬼はいませんでした。

人を見ても泥棒だとは思わない世界になりましたよ。

……自分が今探してるのはその泥棒ではないか。

自分の脳内感動(なんかの脳内分泌物質の効果でこんなのありそうだよね)にけりをつけて、

翔太は「こっちだ」と修に言った。


「悪いな、こんなことに付き合わせて」

「別に良いよ。まだ日も浅いが、困ってる時はお互い様だろう」

あ、コイツが良いやつなだけかもしれない。

「そう言えば、犯人の特徴はないのか?」

「確か黒い長袖のコートにニット帽をつけていたと思うけど、流石に外してるだろうな。でも多分奪ったコトワリの(かばん)は持ってると思う。ちなみに黄緑色な」

「身長とかは?」

「あ、後ろ姿しか見てないけどかなり高かったな。185cmあるって言われても疑わない」

「そんな容姿ならすぐに見つかりそうな気もするが……」


その時、かなり身長が高そうな男が翔太とすれ違った。

ぱっと見、173cmの翔太よりも10cmは高いんじゃないだろうか。

「あ、丁度あの人くらいの」

「……え?」

修が怪訝(けげん)そうに翔太の方を見た。

「……あ」

翔太も自分の言ったことに気がついて、少し呆然(ぼうぜん)とした。


「「アイツだ!!」」

よく見たらご丁寧に黄緑色の鞄も持っている。まるで証拠のバーゲンセール。

不意に鴨が(ねぎ)背負(しょ)ってきたみたいな感覚に襲われた。

普通に考えて黄緑色の鞄なんて持ってる人そういないだろうし、何よりあの身長。まぁ間違いないと見て良いだろう。

アイツだ!! と叫んだのが聞こえたのか、男は歩きから走りに変え加速した。

「追いかけるぞ!」

「分かってる。行こう!!」

翔太と修は互いに見合わせて男を追って走り出した。



『運動日和』を『晴れた日』と定義したのは誰だろうか。

別にそれに面と向かって反抗する気はないが、兎角(とかく)暑すぎる今日は運動日和なんだろうか。

今は雲一つない晴天となっているが、翔太は全く運動する気など湧いてこなかった。

なのにマラソンを今しているのも何故なんだろうか。

先ほどシャワーを浴びたよね!? と言われんばかりの汗をかきながら、翔太は修と男を追いかけて走っている。

見れば修も汗だく。よくもまぁこうなることは分かっていたのに手伝ってくれたものだ。


「ヤバイよ、一向に近づける気配がない」

息も絶え絶えに修が言った。

「アイツ最初は簡単に追いつけそうだったのに……」

あのスピード上下もブラフというなら、かなりの知能犯。手放しで立ち上がって拍手したい。

そして「その鞄何も入ってないので返してください」と叫びたい。

いや、いっそのこと叫んでしまおうか。

うん。それ、結構良いんじゃないか? 我ながら名案かもしれない。

それを心に決めた翔太は、その場に急停止して、叫んだ。


「その鞄何も入ってないので返してください!!」と。

「え、嘘だろ?」

先に反応したのは、修。

「いや、マジだよ。貴重品類何も入ってない」

「……じゃあなんでアイツは()ったんだ」

「知らん」

だが、この『我ながら名案取引』(絶望的ネーミングセンス)は残念ながら決裂。

男は一瞬止まったが、すぐにまた走り出した。

「え? 何、アイツまだやるの?」

「馬鹿だろ……。行くぞ、翔太」

こうなってくると最早この状況でまだ手伝ってくれる修に全力の感謝を送りたい。

……修、後でジュース(おご)ってやるからな。(ことわり)が。


男の意地か無駄なプライドかは誰も知らないが、いつまででも続きそうなこの逃走劇。

できればテレビ画面の外側から見る方が良かったなと翔太は心の中で思った。自ら行うことがここまで苦痛を強いられるとは。

何もこの暑い日にする必要はないだろう。

なんでしているのか? そりゃあ、鞄を盗られてるからだ。

なんで盗られているのか? そりゃあ、盗ったやつがいるからだ。

……じゃあ夏場に窃盗をするな。これが解決への手口だ。ついでに世界平和までの手口だ。

けど、世界中の人々が翔太の都合の良いように動いてくれるはずもなく、男は鞄を持って走り続ける。

その時、スマホの着信音が鳴った。

耳に当てるのが面倒で、スピーカー状態にしてから翔太は電話に出た。

「……もしもし?」

『あらら、相当疲れてるね。大丈夫?』

通話口から出てきたのは、すっかり他人事とでも思っているかのような理の声。

「ハァ、ハァ……こちらは相当疲れて大丈夫じゃないんだが……」

『そんなことはいいとしてさ、今どこにいる?』

コイツ、俺と修の苦労をたった一言、『そんなこと』で片付けやがった。

「……最近オープンしたコンビニの近く。まだ捕まえてねぇぞ」

『りょうかーい』

そう言って電話は切られた。

「……何が了解なんだ」

小さくつぶやいた。

「誰から?」

「コトワリ。場所を聞いてきた」

「どうしてさ」

「理由も言わずに切られた」

修が不思議そうな顔をした。まぁ当たり前だろう。

そしてそのコンビニを男が過ぎる時くらいに、それは起こった。


前を走っていた男が、曲がり角で歩いている人にぶつかった。

俺たちから逃げるために必死に走っていた男は、当たった人を倒してしまい、どうしようか悩んだのかそこで止まった。

「今だ、距離を詰めるぞ!!」

翔太が修に向かって叫んだ。

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