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青き時間の朱い夏  作者: ジョジョ
初幕 Sunset
4/9

肆ノ話 奇術師・弥川策太

「遊びに行こうよ」

「あー、じゃあカラオケだっけ? それ行ってからにするか」

「イェーイ」

特に他にすることはないので(あと荷物が多いので)、2人は帰ろうとした。

デパートの出口。そこに人だかりができていた。


「あれ、何かやってるのかな」

「やってるっぽいな……って、あれなんか見覚えあんなアイツ……?」


「さぁさぁ、最後に披露(ひろう)いたしますマジックは、このトランプを使った誰もが見たことがあるもの。平々凡々(へいへいぼんぼん)とした奇術(きじゅつ)でこの場は締めたいと思います」

洒落(しゃれ)た帽子を被って自身の髪が右目を半分ほど隠しているその少年は悪戯(いたずら)じみた顔で微笑んだ。

「……あ、確かウチのクラスの弥川策太(みかわさくた)じゃないか?」

「ホントだ。それか」

策太は翔太(しょうた)達を見てかは分からないが、事実として翔太と(ことわり)の方向に薄く笑った。

「このトランプから一枚、僕が今から無作為(むさくい)に取り出したいと思います。えーっと、『ハートの6』ですか。これ、覚えておいてください?」

観客は策太が今からすることを息を呑んで待っていた。

「そして、これを再びトランプの山に入れてシャッフル。そして僕がまた無作為に取ったものが……、ハートの6です!」

策太は1人ノリノリだが、翔太目線では見てる観客は(さっきまでの凄さはどうしたんだ?)という表情をしていた。

「何やってたかは知らないけど、なんか観客の人達残念そうにしてるね」

理も翔太と同じ考えをしていたようだった。

そして観客の何人かが帰ろうとしたその時。


「まさか、これで終わりだとでも?」

観客の足を止めるその一言を放った。

「僕、普通ってそんなに好きではなくてですね。ってことで本当のラストはこれです!」

そう言って策太は持っていたトランプの山を観客の上に放り投げた。

「うわ、アイツ何やってんだよ!」

翔太は思わず言った。

みんなが上を見上げる。

と同時に、策太が指をパチンと鳴らした。

その瞬間に舞い上がっていたトランプが全て、花に変わって、上で美しく舞った。

「すげー!!」「写真写真!」と、観客が歓声をあげた。

「あ、トランプ飛んできた……。『スペードのJ』か。スペードってカッコいいよな」

「私クローバー派」

どうでもいい会話を翔太と理は続けた。

「ラストは綺麗な方が、みんな喜べて良いですよね? では、これにて」

みんなが花に夢中になっている間に、策太は静かに退場した。


「へぇ、パッと見じゃ全くタネ分からないもんだね。普通に凄い」

「ふーん、お前でも分からないもんなのか」

「そりゃあ、私そんなに頭良くないしね」

「……は?」


ちょっとだけ前述したが、理はかなり頭がいい。

どれくらいかって言えば小学校三年生の時に普通に難関高校の入試を満点近い点数叩き出せる程には頭が良かった。

小さい頃から友達がこうだったから特に翔太は違和感を持たなかったが、冷静に考えると初霜理(はつしもことわり)という人間の頭脳がヤバいことを最近になって知ったのだ。


「それにしても、あんなことできるの凄いなぁ。私不器用だから多分できない自信ある」

「いや、あそこまでできる必要はないだろ」

そして悲しいことに重い荷物を抱えて2人は家まで帰ることを理解していた。


「……この荷物、分けて持って帰るとかしないか?」

「その間荷物どうすんのさ? 翔太、2回帰ってくれるの?」

「え、俺だけが行くの? 第一陣」

「どう考えてもそれが一番効率的でしょ」

「間違ってないけど人道的じゃないんだよなそれ」

そして数十秒に渡る話し合いの結果。

「……一回で一緒に持って帰るか」

「……そうだね」

これが平和的解決法。


「でも今日から8月だぜ? 猛暑の中この荷物持って歩くのか……」

「別に8月になったから暑くなったわけではないけど」

「なんとなくそんな気するじゃん?」

「タオルとか持ってくれば良かった……」

「お前、事前に荷物どれくらいか知ってただろ? なんで持ってきてねぇんだよ」

未来を見通す能力が(いちじる)しく欠けているのか。少なくとも翔太の中での理は結局のところ

『どこか抜けてるやつ』である。


「あー、早く帰って遊びたい」

「お前それしか考えないよな」

デパートを出て、家路を歩く2人。

「……ここまでリアカー欲しいってなったことねぇな」

「ホント。あったら私、楽出来たのに」

まさかの個人使用。

「……この自己中野郎が」

聞こえるように呟いた。絶対に聞こえたであろう理は別の方を向いて鼻歌を歌い始めた。


翔太は基本的に代謝(たいしゃ)もいい方なので、結構汗をかく。

10分も経つ頃には翔太の紺色のTシャツは濃い色に変わっていた。

「帰ったら……シャワー浴びたいなこれ」

「私も……一旦別れようか」

「まだ昼なのがかなりヤバい、一日って長いな……」

「夏休みだからね」

四苦八苦してこの世の暑さの理不尽を噛み締めながら(訳:歩きながら)、なんとか翔太と理は家についた。

「はぁ、はぁ……お前、このテーブル家に運ぶくらいはしろよ?」

「わかってるって」

理を自身の家の前に置いて、翔太は汗を水で流そうとシャワーを浴びた。

別に長風呂するタイプでもないので、3分くらいで出たが。

かなりのスピードで上がって、スマホと財布を鞄に詰め込んでドアを開ける。

「どこ行くのー?」

「カラオケ」

「行ってらっしゃい」

割と遊びに行くのに関しては甘い翔太の母親は、特に何も(とが)めず送り出した。


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