セレスティーナ
プリメーラ城を出て、バドルのチカゼに転移する。
『王様、王様!! 褒めてください! チカゼ、頑張ってちゃんとお仕事してますよ』
抱きついてくるチカゼ。
そんな可愛いチカゼのライムグリーンの髪を撫で癒される時間。
「……私の騎士、よくもまあ、いつもいつも私の前でイチャイチャしてくれるわね!」
そう言いながら抱きついてくる可愛い婚約者リーゼロッテ。
「なんかマリグノの町が、カケルノっていう名前になって、俺が領主になったみたいなんだけど、リーゼロッテはなにか聞いてる?」
「もちろんよ、カケルノって名前にしたの私だし、2人が出逢った思い出の場所ですもの……是非にってお父様にお願いしたのよ」
顔を紅潮させ、熱っぽく語るリーゼロッテ。
そんなロマンチックな状況じゃなかった気もするけど、出会った場所なのは事実だし、彼女がそう思ってるならそれでいい。完全記憶もこういうときはごまかしが効かないから困る。思い出補正とか、なにそれ? だしね。
***
「こんにちは! ダビド様」
リーゼロッテと別れた後、辺境伯様のところへやってきた。
「おおっ! 婿殿ではないか。どうした?」
「アルフレイド様にマリグノの町の件聞きまして……」
「そうか、何も心配はいらない。代官もすでに派遣してあるし、好きな時に遊びに行って様子を見てくればいいだろう。もちろん、領主の屋敷は好きに使ってもらって構わないからな」
いたれりつくせりだけど良いんだろうか?
「爵位の件も、あくまでとりあえずの便宜上の物だから気にしなくていい。どうせ王都へ行けば陞爵するのだからな」
辺境伯ダビド様に礼を言い、こちらもサウスレアなどの状況も説明しておく。
「サウスウエストレアは、大きな街だったし、交通の要衝でもある。頑張ってくれよ、婿殿。それに今後の状況次第では、セレスティーナ殿がアストレアの女王として即位する可能性も十分ありうる。そうなれば責任重大だぞ」
たしかに他の王族が行方不明の現状では、その可能性もある。それによく考えたら、俺の周り王族ばっかりじゃないか! ヤバい、どうなっちゃうのか不安になってきた。
「ハハハッ、なるようにしかならんさ。婿殿は自分のしたいことをすればいい。些細なことは我々に任せればいい」
義父さまが頼もしくて輝いてみえる。
結局、今は目の前のことをしっかりやるしかないのだから、先のことを考えてもしょうがないか。
「では、また何かあれば寄りますが、遅くともスタンピードの前日に戻ってくる予定です」
辺境伯様に別れを告げ、ラビ経由でプリメーラに戻る。
「……まだ寝てたんですか? カタリナさん」
「……もう! 誰のせいだと思ってるのよ。起きれないから抱っこして?」
はいはい、お安いご用ですよ。
カタリナさんを抱き上げ、ラビ部屋を出る。
「カタリナさんたちも明日サウスウエストレアに行くんですよね?」
「もちろんよ。普段より稼げそうだし……素敵な条件付きだからね」
ウインクしてくるけど、言ってくれれば抱っこぐらいいつでもしますよ?
「実は、サウスウエストレアですけど、俺とセレスティーナが治めることになったらしいです。とりあえずですけどね」
「ええっ! すごいじゃない、それじゃむこうで暮らすの?」
「いえ、なんか俺の屋敷も完成したみたいなんで、基本はプリメーラが拠点になると思いますけど」
「あら、屋敷が完成したのね! いつ見に行くの? 楽しみだわ」
大変盛り上がっているカタリナさんだけど、ひょっとして一緒に住む前提? ですよね。部屋数足りるかな? 大きい屋敷だといいなあ。あ……そうなるとメイドさんとかいろいろ必要なものがでてくるな……可愛いメイドさんとか、もふ耳メイドさんとか。なんかテンション上がってきた。
「……この後、騎士団へ行った後、クロエたちとご飯食べる約束してるんですけど、カタリナさんはどうします?」
「残念だけど、この後用事があってね。また今度誘ってね」
……少なくとも今夜の夕食はご一緒しますけどね。
***
騎士団に行く前に、セレスティーナを迎えにいかないといけない。
サウスレアのソヨカゼに転移する。
『……王様近いです……いいえ、離れてはダメです、もう少しこのままで……」
ソヨカゼはさらさらなライトブルーの髪が綺麗なクール系のハーピィだ。
ずっとこうしてソヨカゼの髪を撫でていたいが、サクラとセレスティーナの視線が痛い。
どうやら精神耐性スキルはあまり効果がないみたいですよ?
「お待たせ、迎えにきたけど状況はどう?」
すでに両サイドから抱きついている2人にたずねる。ちなみにソヨカゼは背中だ。
「もともとサウスレアは人材が揃っているから問題ない。必要な物資リストは出来ているし、けが人や病人の問題も、旦那様のおかげで解決しているからな」
セレスティーナの言うとおり、サウスレアに不足していたのは物資だけだ。それが改善された以上、当面は大丈夫だろう。となると、サウスウエストレアの復旧が最優先になるな。
「サウスウエストレアに派遣する人材も明日には揃うみたいですよ王子様」
明日は本当に輸送で大忙しの一日になりそうだ。あ、宅配便の仕事もありかも。
「じゃあ行こうかセレスティーナ。あとは頼んだぞ、サクラ、ソヨカゼ」
サクラは久々の家族の団欒を楽しむために今日はサウスレアに残る。
「はい、お任せ下さい、王子様」
『かしこまりました、王様』
……王子なのか王様なのか、なんかもやもやするけど、気にしたら負けだろう。
「……セレスティーナ、プリメーラに戻る前にちょっと寄り道していいか?」
「寄り道? 私は構わないぞ――って、どうしたんだ? そんな強く抱き締めて……馬鹿だな、私はずっと旦那様の側にいる。消えたりしないんだから……」
いや、ただの転移なんだけどね。そんなこと、そんな顔で言われたら離せなくなるじゃないか!
セレスティーナを連れて転移したのは――
「……旦那様、ここって……」
「ああ、サウスウエストレアだ」
転移してきたのはサウスウエストレア。明日には騎士団も到着して、人が増えるけど、今この街にいるのは俺の召喚獣だけだ。
「セレスティーナ、アルフレイド様から聞いたんだが、この街は俺とセレスティーナで治めることになった」
「わ、私と旦那様で? そ、そうか。やはり……そうなるだろうな」
「それでさ、新しい街の名前を決めてくれって言われたんだけど……俺が決めていいかな?」
「……もちろんだ。旦那様が決めた名前ならきっと私も好きになれると思うぞ」
ありがとうセレスティーナ。君ならそう言ってくれると思ってた。
「セレスティーナ」
「なに?」
「新しい街の名前は『セレスティーナ』だ。強くて、優しくて、甘えん坊なところもある、俺の大好きな人の名前だよ」
「だ、旦那様……私の名前なんかで良いのか? もっとほら、カケルノとか?」
謎のカケルノ推し……だが残念、先約済みだ。
真っ赤になって照れてるセレスティーナが可愛いくて、抱き寄せしっかりと抱きしめる。
「良いんだ、セレスティーナが良いんだ。2人で良い街にしよう。みんなが笑って暮らせる街にしよう」
「……はい、旦那様とならきっと素敵な街になります。ありがとう……旦那様」
セレスティーナのブルートパーズの瞳が濡れている。その瞳に映るシルエットが俺だけであって欲しいと勝手なことを願ってしまった。
ありがとな、セレスティーナ。
君を描きたいと思ったから、君と出逢ったからスケッチブックが進化したんだ。それがなければ、きっとみんなを助けられなかったよ。




