09 城塞都市プリメーラ
プリメーラは、周囲を広大な森に囲まれた城塞都市だ。王国南東部の中核都市で、都市人口10万人。周辺の町や村等の都市圏を含めると20万人の人口を擁する。
魔物の領域からの侵攻を防ぐための防衛拠点でもあるため、王国屈指といわれるプリメーラ騎士団が常駐しており、冒険者ギルドの規模も他の街に比べて大きいらしい。
避難所を出発してから約2時間、ようやくプリメーラの城壁が見えてきた。多くの荷馬車の集団とすれ違うようになり、武装した冒険者や騎士団の姿も見え始める。
「凄いな……こんな本格的な城壁見るの初めてだ」
「確かにプリメーラの城壁は巨大ですが、カケルさんの世界では、城壁が珍しいのですか?」
俺が城壁に感動していると、ロナウドさんが、興味深そうに訊いてくる。
「はい、全く無い訳ではないですけど、数百年前の遺跡しかないです。向こうの世界では、城壁は本来の役割を終えているので」
「役割を終えた? カケルさんの世界では、戦いが無いということでしょうか?」
「それもありますけど、空から一撃で街を破壊出来るから、あっても意味ないんですよね。それに魔物もいないですし」
「……そ、空から一撃ですか……異世界はすごいところなのですね。」
ロナウドさんが、顔を引き攣らせながら苦笑いする。
「……しかし、魔物がいない世界ですか。きっと平和で素晴らしい世界なんでしょうね」
「そう……ですね。でも、魔物がいなくなると、こんどは人間同士が争い始めるでしょうけどね」
「はははっ、確かにそうかもしれませんね。人間の欲は限りがないですから……おっ、カケルさん、ちょっと失礼します」
ロナウドさんが、騎士団の人にゴブリンが出現した件を報告している。他にも群れがいるかもしれないし、調査が終わるまで、近隣の町や村にも注意を呼びかけたほうがいいかもしれない。
「ロナウド殿、情報提供感謝する。出来れば詳しい話を聞きたいのだが……」
「申し訳ございません。実は父が危篤でして、急ぎ駆けつけねばなりません」
「わかった、それならば早くいってやると良い。後日、時間があれば騎士団の詰め所を訪ねて欲しい。話を通しておこう。急ぎのところ時間を取らせてすまなかった」
声の感じだと女性だろう。全身純白の甲冑を身に纏い、みるからに身分が高そうなのに話し方も丁寧で、偉ぶった感じもしない。騎士団の好感度が自然と上がるね。
騎士団の人たちは、すぐに森の調査に向かうそうだ。騎士団と別れ、俺たちは城門へと向かう。
城壁の目の前までやって来たが、迫力がすごい。城壁の高さは10メートル、厚さ5メートルほどあり、左右数キロに渡ってぐるっと城壁が続いている。
いざというときは、こちら側の入り口から住民が脱出する為、馬車が4台並んでも通り抜けられるほど門は広く造られているのだそうだ。
一応入り口には警備兵が立っているが、検問のようなものはなく、通行料を払うだけで、簡単に入ることができた。通行料は銀貨1枚、ギルドに登録している冒険者や商人は通行料を払わなくていいらしい。
通行料を支払う時に、ようこそプリメーラの街へ、と言われると、何かのRPGやどこぞのランドみたいで、テンション上がりまくりだ。
ちなみに黒目黒髪はやはり目立つので、今はフードをすっぽりかぶっている。非常に怪しい人だと思うのだが、魔導士や、魔法使いは基本そんな感じなので問題ないらしい。
街に入ると景色が一気に変わる。大通りを挟んで左右に市場や商店が並び、たくさんの人が行き来している。当たり前だけど、自動車や自転車が一台も走っていないのはすごく新鮮だ。
建物は、石造りのものが多く、道は石畳でしっかり舗装されている。馬車も多いけど、竜みたいなトカゲに引かせている人もいる。まさに異世界って感じだ。
遠くに見える巨大な建造物が、この街の中心で、領主の住む居城らしい。ガラスの靴で舞踏会に参加するような壮麗な城ではなく、実用性を重視した豪華な砦、いや、むしろ要塞といった雰囲気だ。
魔物の脅威に囲まれたこの世界の人々にとって、きっと精神的な支柱としての役割も果たしているのだと思う。だって、見ているだけで安心感というか頼れる感がすごいから。
今、俺たちが歩いているのは、街の西側に位置する第四街区。一般住民の多くがこのエリアで暮らしていて、市場や商店などが軒を連ねる繁華街がある。魔物の領域がある東壁から一番離れており、脱出口に一番近いので、いざというときに避難が容易なんだとか。
普通なら、金持ちや貴族が一番逃げやすい場所に住みそうなものだけど、少なくとも、この街では違うんだな。
行き交う人々も、異世界らしく、様々な人種がいて素晴らしい! 特に獣人がやばい。触りたい。
「カケルさん……やはり異世界の方は獣人好きというのは本当だったのですね……」
あまりの食いつきに、トマシュやフリオが呆れている。顔に出てましたか、そうですか。フリアがちょっと膨れていて可愛いので、とりあえず頭を撫でる。
反論したいが、真実を突いているので、悔しいが黙って受け入れるしかない。
だって、モフモフだよ。この世界の人の感性どうなってんだ? 触り放題の店があったら通ってしまうかもしれないほど魅力的なのに。
色々見て回りたいところだけど、ロナウドさんの実家は第三街区にあるので、ひとまずそちらへ急ぐ。第三街区は、いわゆる高級住宅街で、官公庁などの施設や、各種ギルドもこのエリアにある。
ロナウドさんの父親は、このプリメーラに本部を置く大手商会の会頭らしい。子供たちは、あえて自分の商会に置かず、各地で行商の修行をさせているのだとか。
昨年、最後に会ったときは非常に元気だったそうなので、突然の危篤の報せを聞いた時は驚いたそうだ。
「うわあ……でかいな」と思わず口に出るほど、ロナウドさんの実家はとてつもなく大きかった。
門から玄関まで五分くらいかかったし、可愛らしいうさ耳のメイドさんたちが出迎えてくれた。可愛らしいうさ耳のメイドさんたちが出迎えてくれた。大事なことだから二回言った。
「ロナウド坊ちゃま。お帰りなさいませ。皆さまお待ちです」
ロマンスグレーの中年執事が案内してくれる。残念ながら名前はマルコスというらしい。何が残念かは言わないけれど。マルコスによると、ロナウドさん以外の兄弟はすでに到着しているらしい。
「遅かったなロナウド。待ちくたびれたぞ」
「お兄様、お久しぶりです。早くお父様に会ってあげてください」
嫌味をいってきたのが、長男のロベルト。涙ながらに駆け寄ってきたのが、長女のローサ。
俺のことはロナウドがうまく説明してくれたようで、ローサさんや執事のマルコスさんから物凄く感謝された。ロベルトさんには何故か睨まれたけど。
マルコスさんによると、会頭のカルロスさんが倒れたのは丁度一か月ほど前。たまたま屋敷に戻っていた長男のロベルトさんが倒れているところを発見したらしい。
有名な治療師に診てもらったが、一時的に症状が緩和されても完治しなかった。意識も戻らないまま衰弱し続けており、このままだと、2、3日中には確実に亡くなるだろうといわれているそうだ。
このまま、カルロスさんが亡くなれば、自動的に長男のロベルトさんが、商会を継ぐことになる。正直ものすごく、あからさまに怪しいが、残念ながら証拠がない。
ならば、ここは本人に聞くしかないだろう。俺には神水がある。寿命なら仕方ないが、毒や病気の類なら問題なく治せるはずだ。
***
(……ちっ、ロナウドのやつ、そのままゴブリンに喰われちまえば良かったのに。まあいい、どうせ後2、3日の辛抱だ。そうすれば、俺が次期会頭になれる。高い金を払ってあの毒を手に入れた甲斐があったな。回復魔法でも治せず、証拠も残らない厄介な毒だ。親父に毒のことがバレた時は焦ったが、死人に口無しだ。せいぜい最後のお別れを楽しむんだな。クククッ)
親父の部屋へ入っていくロナウドを見送ってすぐ、突然周囲があわただしくなった。親父の部屋から叫び声や泣き声が聞こえてくる。
(よし、親父がくたばりやがったか。いかんな、気を付けないとにやけてしまいそうだ)
俺はなるべく辛そうな顔をして親父の部屋に入る。部屋の中には、ロナウドやローサたちが揃っていたが、何故笑顔なんだ? 頭が混乱していると、使用人たちに後ろから拘束されてしまった。
「何をする! 俺をだれだと思っているんだ。次期会頭になるロベルト様だぞ」
「いい加減観念しろ、ロベルト。お前には心底愛想が尽きた。構わん、禁止毒物使用で騎士団に引き渡せ」
「あ、あ……親父……なんで生きているんだ?」
ロベルトは青い顔をしたまま連行され、騎士団に引き渡された。禁止毒物の購入および使用は重罪で、間違いなく処刑されるそうだ。後でわかったことだが、ロベルトは事業に失敗したことで父親を逆恨みしたらしい。いまとなってはどうでもいいことだが。
「……カケルさん。ロナウドたちだけでなく、この私まであなたに助けていただいた。誓いましょう。我々カルロス商会は、生涯貴方の力になると」
深々と頭を下げるカルロスさん。
「これも何かの縁です。大したことをしたつもりはありませんが、そうですね……この街を拠点にしようと考えているので、良い宿屋とかお店とか紹介していただけると助かります」
一瞬、ほんの一瞬、うさ耳メイドが頭をよぎったが、全力で脳内から消し去る。ここでそんなお願いをした日には、俺の尊厳はゼロ……いや、マイナスになるだろう。
「ふむ、さすが異世界の英雄様は懐が深い。お任せください。カケルさんの拠点は、私が責任を持って用意させていただきます。それまでは是非この屋敷に滞在して、もてなしを受けていただければ」
結局、カルロスさんの厚意に甘えて、しばらくお屋敷にお世話になることになった。別にうさ耳さんが理由じゃないよ。本当だよ。
いつも本作をお読み頂き誠にありがとうございます。
これで1章は終わりとなります。
ハーレム作品なのにヒロインが出てこなくて恐縮ですが、ここからです! お話はまだまだ続きますので、今後も引き続き宜しくお願い致します!
『まあまあ』、『暇つぶしにはなった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』していただけますと大変作者が喜びます。
おそらく作者のステータス上昇、状態異常無効ぐらいの効果があると思われます。ふふふ。
もしまだの方がいらっしゃいましたら、ぜひブックマークもしてみてはいかがでしょうか? 作者がブクマをコレクションしているのでめちゃくちゃ喜びます。
感想、誤字脱字報告も絶賛受付中です。