55 死神通信
「いやぁ、本当に良くやってくれたなカケル! 西の森でゴブリンの本拠地を殲滅、更に地下通路を発見したうえに敵拠点まで潰すとは……貴重な情報も含めて120点の内容だ」
「ありがとうございます、ギルドマスター!」
「それと……ギルドとは関係なく、エスペランサ砦を取り戻してくれて感謝する。いちプリメーラの人間としても礼を言いたい。ありがとう、カケル」
頭を下げるギルドマスター。
「何言ってるんですか、プリメーラは俺の街でもあります。守るのは当然ですよ! 第一、俺だけの力じゃありませんよ?」
「わかってるさ、でもお前を中心に動いたのは事実だろ?」
「どうせなら、俺をこの世界に送り込んだ神様に感謝してください」
「たしかにそうだな! 久しぶりに神殿に顔をだすとしよう」
(へえ、神殿か……時間があれば行ってみようかな)
「ギルドマスター、話が長いわよ、私たちも疲れてるんだから、早く報酬寄こしなさい」
横で話を聞いていたカタリナさんが、話を進めてくれる。正直ありがたい。
「お、おお、そうだったな。とにかく、今回は本当にお疲れ様、正直、整理しなくてはならない情報が多すぎるから、しばらく大きな動きはないと思う。ゆっくり休んでくれ。報酬はクラウディアに渡してあるからな」
今回の依頼報酬は、白金貨3枚。3つのパーティで分けるので、俺たち黒の死神の取り分は白金貨1枚となる。クラウディアが受け取らなかったので、5人で分けると、ひとり大金貨2枚(金貨20枚相当)で、だいたい200万円になった。実質一日での稼ぎだからすごいと思う。
しかも、これは西の森のゴブリン拠点の殲滅に対する報酬であって、地下通路の発見、敵拠点を押さえたことについては、別途ボーナス報酬がでるんだってさ。
さらには、騎士団と、領主様からも恩賞が出るといわれているので、当面お金の心配はしなくてもよさそうだ。
あ、そうそう、ソニアのことは、ちゃんとみんなに説明した。ついでに、パーティ登録も。クラウディアには、思い切りジト目でにらまれたけど(苦笑い)
ギルドを出ると、もうすっかり日が暮れていて、街に明かりが灯り始めていた。
「じゃあ、帰ろうか、俺たちの家(カルロスさんの屋敷)へ!」
「……ってやっぱりついてくるんですか? ウサネコのみなさんも……」
「大丈夫よ、カケルくん。カルロス氏とは話がついているから心配しないで」
にっこり微笑むカタリナさんがちょっと怖い。
なんか戻るたびに人数増えてしまっているし、申し訳なく思わなくはないけど、カルロスさんも喜んでいるみたいだ。部屋も余ってるみたいだし。
屋敷の門をくぐると、向うからフリアが走ってくる。全速力で。危ないよ、転ぶよ。
「カケルさん!! おかえりなさーい」
思いっきり鳩尾にぶつかってくるが、物理無効をもつ俺には無問題。優しく受け止めると、フリアのサラサラの髪を撫でる。
「ただいま、フリア、変わったことはなかったか?」
「うん、みんな無事で良かった。お父さんたちも心配して待ってるよ!」
夕食の準備が整うまで、少し間があるということなので、俺はさっそくデスサイズを取りだす。
レベルが上がった時に見た新たな情報に、ずっと期待していたんだ……
【死神通信】
この機能を見た瞬間から、もしかしたらという思いがあふれて抑えきれない。期待してがっかりするのが怖いから、詳細は一切見ないでいたけれど。
覚悟を決めて詳細を確認する。
【死神通信】 登録した死神と通話が可能になる。登録可能件数1億件。
きたー!!! やっぱり通話機能だ。これでミコトさんと話せるかもしれない。(登録件数に関してはツッコマナイよ?)
恐る恐る登録リストを確認する……あった!! ミコトさんの名前が! アイコンが骸骨で全然かわいくないけど、なんか知らない人の名前も登録されてるけど、今は全部どうでもいい。
夢中で名前を押す。
『トゥルルルル……』
本当に電話みたいだな。本当につながるんだろうか? 鳴り続ける通信音が、永遠にも感じる。
『トゥルルルル……もしもし、カケル?』
つながった!! 間違いない、ミコトさんの声だ。まだ1週間も経ってないのに、何年も離れていたような気持ちになる。もう何十年、いや100年は聞けないと思っていたあの声だ。
すぐに話したいのに、想いがあふれて、涙があふれて話ができないよ。
「……ミコトさん、カケルです。うっ……ぐすっ……ミゴドざーん……」
『カケル泣いてる? 大丈夫、私はいつもカケルを見守ってるから(イリゼが)カケルが頑張ってるのも知ってるから(イリゼのレポートのおかげで)。この短期間で通信可能になるなんて本当に驚いた。カケルは本当に頑張った……』
(……初めてカケルさんの声を聞いたけど、優しそうで素敵な声。話し方も、思いやりにあふれていて、ミコトさんや他の女の子たちが好きになるのもわかるかも……それにしても、ミコトさんのあんな乙女な甘え声、初めて聞いたわ。でも、いまは二人の邪魔しちゃ悪いよね。あとはお二人でどうぞなんてね……あれ……よく考えたら私移動できないんですけど! これ私の中だし。え……ずっと二人の話聞かされるの? これからずっと? 私は会話に参加できないのに? 嫌や~っ)
美琴の魂の叫びもむなしく二人の会話は続く。離れ離れだった時間を埋めようとでもするかのように。
***
「それじゃあ、ミコトさん、そろそろ夕食の準備が出来たみたいだから、一旦切るね。話が出来て本当に嬉しかった、愛してるミコトさん」
『私も……愛してるカケル』
「あ、そうだ! ミコトさん、登録リストにあったイリゼって誰?」
『……私の親友の女神。困ったことがあったら相談するといい』
「へ? 女神のイリゼってまさか……ってあれ、もう切れてる。ま、いいか」
久しぶりにミコトさんと話せたし、今日は本当に良い日だった。
でも、デスサイズを耳に付けて話している姿はかなりシュールだ。絶対人には見せられないな。
そんな大満足のカケルに対して、一方の美琴は――
「ミコトさ~ん! 私もカケルさんと話したいですっ!! 惚気話聞かされ続けたらおかしくなりますっ! 何とかしてください」
『……美琴も頑張って神になれば良い。そうすれば使えるようになる』
「それって何年かかるんですか! わかりました、今すぐカケルさんのところへ行きましょう!」
『無理、今、美琴が動いたら、この国の人々が全滅する……それでもいいなら止めない……』
「……わかりました。頑張って早く強くなればいいんですね! 待ってろ魔物ども~!」




