54 ただいま
「……それで、旦那様はエスペランサ砦に単身潜入するという危険な任務についていたと記憶しているのだが」
「その通りだセレスティーナ、辛く、危険なミッションだった……」
俺は無事再会できた喜びを込めて、さわやかな笑顔で応える。
「ほお……では、その旦那様にひっついてくんかくんかしている女は一体なんだ?」
……駄目か、これはさすがに誤魔化せない。ソニアさん、何で急にくっついてんの?
「御主兄様……そんなことはどうでもいいのです。その女の着ているそのローブ……私が狙っていたのに……」
なにやらクロエが唸り声を上げて悔しがっている。えっ、狙ってたって……マジで?
「ほ、ほらクロエには別の買ってやるからさ。それに欲しかったんなら言ってくれればよかったのに遠慮するなって言ったろ」
「嫌です、あれが良かったんです……では、今着ている下着を下さい!!」
クロエ……匂いフェチなのか?
「え、何言ってんの!? ダメ、下着はアウト! 普段着のシャツやるから、それで我慢しなさい」
「本当ですか! えへへへへ、言ってみるものですね」
すっかりご機嫌になって、にっこにこのクロエ。
「だ、旦那様? わ、私にも何かないだろうか?」
先ほどまでの氷点下の視線はどこへやら、かわいすぎるだろセレスティーナ。でも俺、まだ、あんまり服持ってないんだよな。
「ごめんな、セレスティーナ。あとは俺の寝間着ぐらいしか――」
「っ!? そ、それでいい! いやそれが良いぞ旦那様。さあ早く! 今、ここで、引き渡しを要求する! んふふふ」
な、何か興奮し過ぎて変なテンションになってるよ?!
仕方ないので、リュックから取り出し寝間着をセレスティーナに渡す。いや本当になにしてんの俺?!
クロエが黙って袖を引っ張っている。
(わかっているさ、案ずるなクロエ)
クロエに黙ってシャツを渡す。
「貴方様、私たちは別に何人増えても構わないのだけど、全員平等であるべきとは思うわよ?」
両手を差し出すシルフィとサラ。困ったな……もうあげられるものが何も無い。
「ダーリン、妾は血まみれのシャツを所望するのじゃ!」
エヴァ、怖いよ?!
「カケルくん……お取り込み中申し訳ないのだけど、その魔人の女の子を早くみんなに紹介した方がいいのではないかしら?」
カタリナさん……貴方の言う通りです。さすがお姉様、常識というものを――
「……私は、カケルくんのシーツで良いからね!」
カタリナさん、それカルロスさん家の備品なんでダメです……すごく良い笑顔してもダメですよ?!
「ハハハッ、カケルっちも大変だな! 私は美味い飯でイイぜ?」
セシリアさん……普通なのに、すごく良い人に思える不思議。料理(極)スキル手に入れたから、美味しいごはん作ってあげますよ!
「……王子様、私のことを忘れておりませんか?」
「サクラ、忘れるわけないだろ。むしろ忘れられない」
「ふふふっ、安心してください、王子様。私は物を貰おうなんて思っていませんので」
おおっ、サクラが天使に見える、そんな風にいわれると、何でもあげたくなるのが男心。
「王子様の子どもが欲しいです! 私たちの子ですから、きっと黒髪の男の子と女の子の双子だと思います〜」
「……ま、まあそのうちに、な……?」
なぜ双子とかツッコミたいけど、嬉しそうなサクラをみれば何も言えない。
「ふふっ、サクラ! 私は御主兄様に5人の子を予約しています(私の中で勝手に)。多産種である獣人には勝てませんよ」
「くっ、数より質ですよ! クロエ」
……そんな予約知りませんけど……それにクロエ、お前妹じゃなかったのか? いや、設定だから良いのか、もう訳わからん。
「とりあえず、サクラにも何かあげたいから、考えておいてくれ」
「お、王子様……これ以上好きにさせてどうするつもりですか? わかりました、私を――」
「サクラ、そろそろ出発するぞ。旦那様、ではまた、プリメーラで」
「王子様、お気をつけて! その気になったら、いつでもサクラをお呼びくださいね〜」
サクラとセレスティーナは、騎士団を率いて先に出発する。エスペランサ砦は、副隊長のレオンさんが守ることになった。
一応、召喚獣にした地竜とサイクロプスを守りに残すので、多分大丈夫だと思う。
まあ、どんなことであれ、不公平は良くないので、何もあげられなかった人には、後日埋め合わせを約束した。そもそも、なんでこんな流れになったかについては、考えないことにする。楽しいことに理由なんて要らないだろ?
さて、帰りだが、結局飛行型の魔物は手に入らなかったので、フリューゲルの活躍が期待される。
フリューゲルは5人乗りだが、ミヅハが水をゲル状に固めて座席を作ってくれたので、15人乗ることが出来る。まるで自家用ジェットみたいだな。
プリメーラまでは、馬だと半日かかるが、フリューゲルなら30分ほどで着いてしまう。
行きと違って急ぐ必要もないので、上空からの景色を眺めながら、ゆっくり空の旅を楽しむ。ソニアも、空の旅は初めてらしく、とても喜んでもらえた。
誤算が1つあるとすれば、先行していたアルフレイド様にプリメーラ直前で追いついてしまったことぐらいかな?
呆れられたけど、作戦の成功をいち早く伝えられたし、結果オーライだ。
プリメーラに着いたら、そのままギルドへ直行する。
ギルド内に入ると、中にいた人々が全員立ち上がり、固唾をのんで注目する。それはそうだ、まだ誰も結末を知らないのだから。
「みんな!! 勝ったぞ! エスペランサ砦は奪還した! 騎士団も、団長含め健在だ」
みんなに促されて、俺が大声で結果を告げる。
一瞬の静寂の後、ギルド内は、空気が爆発したかのような歓声に包まれる。
歓声の中、クラウディアが、受付カウンターを飛び出し、抱きついてくる。
「……良かった、ご無事で本当に良かった……セレスティーナも無事で……ありがとうカケル様……ありがとう」
クラウディアは、涙で酷い有り様だ。隠すようにしっかり抱きしめる。
待ってる方は辛いよな。悪い方、悪い方へどうしても考えてしまう。実際、紙一重だったし。
でも、みんな無事で帰ってきたんだ。このプリメーラへ。だから――
「……ただいま、クラウディア」
何でもないようにそう告げるのだ。
「……おかえりなさい! カケル様!」
あ……ソニアのこと、みんなに説明するの忘れてた?!
Illustrated by サトミ☆ンさま
いつも本作をお読み頂き誠にありがとうございます。
これで4章は終わりとなります。
無事序盤の山を乗り越えたカケルたち。次章からは、少しずつヒロインたちを掘り下げてまいります。お話はまだまだ続きますので、今後も引き続き宜しくお願い致します!
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