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崩壊する世界の中で


 世界樹の実を食し、女体化は完了、右手にはデスサイズのシグレ、左手には神剣クロレキシノート。


 どちらも邪神に対抗できるこの世ならざる神の業物(わざもの)



 邪神の領域に侵入した瞬間に俺たちは当然認識されることになるだろう。虹色の光が消えたとき、一秒にも満たないその刹那に勝敗はつくのだ。


 幸いなのは、相手が自暴自棄になっているということ。


 人であれ神であれ、万全でなければ隙ができる。


 間違ってはいけない。俺たちは邪神を倒しに来たのではない。暴走を止めるために来たのだから。



 圧倒的な密度の闇。全身にまとわりつくような絶望と孤独。


 これが邪悪の権化? 諸悪の根源? 違う、断じて違う。



 これは誰もが持っている感情や欲望にすぎない。ただ……ちょっとだけ煮詰めすぎただけの切なる願い。


 本来なら互いに分かち合い中和してゆく、そんなささやかな想いだ。


 誰もいなかったのか? 彼女にはそんな相手がいなかったのか?


 いや、きっといたんだろう。手を差し伸べようとしていた存在に、彼女自身が気付かなかっただけなんだ。


 悲しいな。そしてなんて淋しい魂なのか。



 いま引き上げてやる。暗く濁りきった沼の底から。


 いま温めてやる。その凍えるほど冷え切った孤独な魂を。



――――神装・シグレ――――


 相棒のデスサイズ・シグレとの融合によって俺の身体能力は限界をはるかに超える。周囲の空間を崩壊させるほどの力ゆえ短時間しか使えない最高奥義を発動。


――――時空魔法・劫――――


 限りなく時間停止に近い極限まで時間の流れを遅らせる時空魔法の最終形態を使用。


 

 イソネ君のチェンジは、目視した相手にしか使えない。


 深い闇に閉ざされたこの状態では邪神を確認することができない。



「ミコトさん、キリハさん!」


『わかってる、任せて!』


 ミコトさんとキリハさんが邪神からの攻撃を遮断する。


「美琴!!」


「いっけええ~エクスカリバー!! 闇を照らせ!!!」  


 美琴のエクスカリバーが、邪神までの道を明るく照らす。 


「シグレ!! 行くぞ」

『お任せくだされ、主殿!』




 集中しろ、研ぎ澄ませ、俺が断ち切るのは(ことわり)そのものだ。



 行くぞ相棒、お前の可能性を見せてくれ。


 理を切り裂く神滅の刃よ。照らせ、闇を飲み込む光の刃よ。届け、邪悪を祓う破邪の刃よ。


 この哀しき者に温もりを。闇と絶望を斬り裂き道を示せ!!




『破邪闇斬・ソウルセイバー!!!』




『ぎゃああああああああああ!?』


 闇を失った瞬間、カケル子を直視してしまった邪神が絶叫し固まってしまう。

 

 ……本当に効くんだな。カケル子。



『チェンジ!!』



 その隙きを逃さないイソネ君がすかさずチェンジを発動。


「うわあああああああああ!?」


 入れ替わりには成功するが、イソネ君は頭を抱えて苦しみ悶える。


 無理もない。邪神の記憶と力の一部を取り込んだのだから。


 それでも発狂しないのは、イリゼ様が改造した新しい身体のおかげだろう。


 そして、俺は入れ替わった彼女に口移しで神水を飲ませる。


「う……こ、ここは?」


「もう大丈夫だ、まほろ」


 幻と書いてまほろ。誰も知らない彼女の名前。ただ女性として生きたかった、深海に宿るもう一人の報われぬ魂。


 目を覚ましたまほろを優しく抱きしめる。


 冷え切った身体と心が温まるように。俺の力が役立つのなら、惜しみなく与えよう。


「あ……私……この身体……うそでしょ……」


 自らの身体が女性になっていることに気付いて静かに頬を濡らすまほろ。


「ああ、そうさ、これからは、一人の女性として生きればいい。俺が死ぬまで一緒にいてやるから」


 

 

 邪神の作り上げた世界が消えてゆく、まるですべてが幻であったかのように。



 世界の崩壊がゆっくりとおさまってゆく。神界の神々の必死の修復作業によって。




***




『うーん……それにしても派手に壊れたわね。元には戻せそうもないか……』


 半壊した世界を眺めてため息をつくイリゼ。


 なんとか崩壊だけは免れたが、現状先延ばししただけの延命処置に過ぎない。


『ううう……仕方ない。貯めていた神ポイントを使って修理を申請するしかないわね』


 イリゼを始めとする世界の管理神は、多くの権限を持つものの、許可がないと出来ないこともあるのだ。


 さらにイリゼにはもう一つの懸念事項があった。神界の統括神から呼び出しをくらったのだ。


 崩壊し始めた世界を守るためとはいえ、少々手を出し過ぎたかもしれない。場合によっては、管理神の資格を失うリスクもある。まあ、どうなったとしても、後悔はしていないけれど。



『でも……統括神さまから直接呼出しをくらうなんて、本気で不味いかもしれない』


 本来であれば、直属の上司に当たる中間管理神がでてくるはずなのに。なんで神界のトップが出てくるのよ……。


 

 

『い、イリゼです……入ります』


 緊張しながら統括神の執務室へ入る。どんな処分が下されても甘んじて受ける覚悟はできている。



『あら~! イリゼ、よく来たわね!』


 出迎えてくれたのは、統括神の妻で副統括神のイノリさま。イリゼのというよりも、神界に住まう神々の憧れの存在だ。


『おお、呼び出したりして悪かったな。イノリがどうしてもっていうから仕方なく―――』

『何言っているのよ? ワタルだって早く呼びたがっていたじゃないの』


『あ、あの……統括神さま?』 

  

『ふふふ~、お腹の子、駆の子どもなんでしょう? 大事な身体なんだから、無理しちゃだめよ?』

『……は?』


『楽しみだな~。絶対可愛いに決まっている。ああ、修理のことなら気にするな。もう直したから』

『……へ?』


 困惑を深めるイリゼに、イノリがおかしそうに笑う。


『ここだけの話なんだけど、駆は、今私たちが休暇で行っている地球で産んだ子どもなのよ』


『…………ふえっ!? じゃあ、私の処分ではないのですか?』


『馬鹿ねえ、可愛い娘にそんなことするわけないじゃない』



 ……なるほど。ようやく納得したわ。カケルくんの異常なスペック。神々すら魅了するなんておかしいと思ったのよ。はぁ……なんか急に体の力が抜けたわ……。


『さあ、一緒に駆に会いに行きましょう! 桐葉ちゃんにも会いたいし、お嫁さんたちにもあいさつしないとねえ~♪』


 ……いや、何も終わっていなかった。どうしよう。何の準備もしていないんですけど……。


 はしゃぐイノリと苦悩するイリゼ。その様子を優しく見守る統括神ワタルであった。 

次回、最終話です。ここまでお付き合いいただいた読者様には感謝を。


お昼前には投稿する予定です。

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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