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最後の探し物……見つけたかも?


 クリスタリアは、四方を同盟国に囲まれた内陸の国だ。


 これといった資源も無い故に、人々はひたすら技術を磨いた。最下層の平民に至るまで、行き届いた教育制度は、大陸屈指のものであり、経済大国たるクリスタリアの礎となっているのだ。


 

 そして、そんなクリスタリアの数少ない資源の一つとして温泉がある。


 首都クリスタルパレスは、その昔、伝説の錬金術師によって作られた温泉施設から始まったと伝えられており、その豊富な湯量と様々な効能がある泉質によって、諸外国の王族たちもやってくる一大保養地となっている。


 


「ふふふ〜、やっと来れたわ。楽しみねカケル」 


 嬉しそうに腕を絡ませる義母のベルファティーナさま。さり気なく当てるべきところを外さないテクニックは、さすが、大国アストレアの王妃の威厳というところだろうか。


 残念ながら、若いセレスティーナやユスティティアでは、逆立ちしても真似できない匠の技だ。


「お母さま……そこは私の場所なのだが……」


 むっとした風のセレスティーナが割り込んでくる。うん可愛い。


「そもそも、なぜ母上が一緒にいるのです?」


 ユスティティアも負けじと耳を甘噛みしてくる。うん可愛いって何してんの!? 


「なぜって、もともとは、私たちが保養に行くついでに声を掛けただけなんだからね?」


 ベルファティーナさまの言うとおり、今回の視察は、災厄によって実現しなかったアストレア王族の保養計画に乗っからせてもらったものだ。だから当然――――



「まあまあ、せっかくの家族水入らずなんだ。楽しもうではないか」


 アストレア国王アレクサンドロス義父上もいるわけで。


 ちなみに彼は彼で、虎、獅子、黒豹、熊の獣人嫁を連れながらイチャイチャしているので、俺がベルファティーナさまとイチャついても気にもしない。


 もともと二人は政略結婚。アレクサンドロス義父上は獣人、しかも猛獣系限定の性癖持ちなので、義務を果たした後は互いに好きなようにしているらしい。


 好き勝手している罪悪感も多少あったのか、むしろ義父上には感謝されたぐらいだからな……。


 ベルファティーナさまは、立場的には、アストレアの王妃でありながら、皇帝である俺の(きさき)にもなっている。うーん、複雑。



「はははっ、今回の改装で、長らく使われていなかった場所も入浴できるようになったからな。新たに宿泊施設と療養所も完備したんだよ」


 自慢げに語るクライフォート義父上。何でも、今回の改装で総面積が約2倍になったらしい。長期滞在客をターゲットにした戦略の一環なんだとか。



「でもね、温泉施設のコアな部分は複雑すぎて誰も触れないらしいのよ? 何か知っているかしら刹那?」


 おお、クラウディア、みんなあえて触れていなかったのに、直球をぶち込んだな。ありがとう。


「……もちろん知っているわよ? 私が作ったんだし?」



「…………は?」


 絶句するクライフォート義父上。ですよね~。意味分かんないですよね~?



***



「な、なんと……それでは、刹那さまが、あの伝説の錬金術師なのですね!!」


 義父上を始めとしたクリスタリアの面々は大興奮。


 それはそうだろう。ある意味建国の礎を作った国母であり、技術大国であるクリスタリアにとって、刹那の知識と技術は垂涎ものだろうからな。


「そうだけど……今回は遊びに来たんだから、何もしないわよ? まあ、システムのメンテナンスぐらいはしてあげるけど」


 嫌そうな顔をしながらも、優しい刹那。我慢できずに後ろから抱きしめる。


「ふえっ!? ち、ちょっといきなり何!?」 

「何でもない。刹那を抱きしめたくなっただけ」


「も、もう……」


 真っ赤になってデレる刹那が愛おしい。


「カケルさま……私がきっかけを作ったんですが?」


 わかっているさ。返す刀でクラウディアも抱きしめる。真っ赤になって震える彼女が愛おしい。



「カケルお兄ちゃん……私も抱っこ……」


 まだ5歳のクラウディアの妹シルヴィアがめっちゃ可愛い。断ることなど不可能だ。


「ほーらシルヴィア、これがお姫様だっこだぞ?」

「わーい、私、将来お兄ちゃんのお嫁さんになゆの~!」


「シルヴィア!? それ、冗談じゃすまない奴……」

  

 和気あいあいとした雰囲気で、俺たちは温泉リゾートへ到着する。



 ……うん、完全にスパ・リゾートですね。ありがとうございます。


 

 そして、その入口には不満げに仁王立ちするクラウディア似の美女の姿が。


 あれ? もしかしてこの人って!?



「お兄様……もう点検全部終わったから、そろそろ帰りたいのだけど?」

「まてまて、タチアナ。お前が知りたがっていた、温泉施設の謎を知りたくはないのか?」


 帰りたいと文句を言う妹のタチアナさんの説得を試みる兄クライフォート義父上。


「は? そりゃあ知りたいけれど、資料も文献もない以上、お手上げなのよ? それとも、何か発見があったのかしら?」


「ふふふ、聞いて驚くなよ? なんとこの施設を作った張本人がここに来ているんだ!!」

「…………帰ります。さようなら」


「ち、ちょっと待ってくれ、カケルくん、タチアナに説明を―――ってあれ? なんでそんなに離れているんだ?」


 そりゃあ、タチアナさんを俺の魅力から守るためにきまっているじゃないですか義父上。


「タチアナさん、俺は異世界の英雄カケル。クライフォート義父上の言っていることは本当だ。先日長い眠りから目覚めたんだよ。ほら、刹那」


 俺が近づくわけにはいかないので、刹那に説明をお願いする。


「もう……わかった。私がこの設備を作った刹那よ。簡単に経緯を説明すると―――」


 説明ついでに、タチアナさんには、例のゴーグルとマスク、マントをフル装備してもらう。よし、これで普通に話ができるな。

 


「信じられない……刹那さま、ぜひ私に色々教えてください!!」


 大興奮のタチアナさん。


 彼女は、冒険者として活躍した後、世界中を巡り、パーティメンバーと結婚、仲間とともに、山奥の村で暮らしていたのだが、温泉施設をリニューアルさせるにあたって、一時的に呼び戻されたらしい。現状、設備を一番詳しく操作できるのが、彼女だったこともあるが、家族がタチアナさんに会いたかったからというのが一番の理由のようだ。



「タチアナさん、つかぬ事をお伺いしますが、もしかして、住んでいらっしゃるのはコーナン王国のジモ村で、娘さんの名前はリズではないですか?」

 

 聞きたかったことを直球でたずねてみる。


「あら? よくご存じですね、英雄さま?」



 やはりそうか……イソネ君。どうやら最後の探し物、見つけたみたいだぞ。 

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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