48 魔法の寝袋
会議の結果、出撃は明朝ということになった。
あらためてヴァロノスを召喚する。
スケッチブックスキルが、レベル2になり、魔物だけでなく、人も契約召喚可能になった。
魔人たちは、人間を見下していたようだが、魔人も人の範疇にちゃんと入るらしい。
呼び出した目的は、残りのスキルを記憶するためだ。
【名 前】 ヴァロノス
【種 族】 魔人(貴族種)
【年 齢】 55
【身 分】 魔人帝国男爵
【序 列】 204位
【状 態】 契約
【レベル】 99
【体 力】 7985
【魔 力】 8982
【攻撃力】 9947
【耐久力】 7965
【素早さ】 7469
【知 力】 6394
【スキル】 瘴気操作 魔物支配 物理耐性(強) 暗黒魔法(初級)隠密
ヴァロノスに命じて、スキルを使わせる。
『魔物支配を記憶しました』
『物理耐性(強)を記憶しました』
『暗黒魔法(初級)を記憶しました』
『隠密を記憶しました』
これで、魔物支配、魔物使役、魔物強化が揃ってしまった。やべ……ひょっとして、俺、魔王じゃねえ? 勇者に討伐されないか心配になってきた。
(「ハクシュン!」『美琴、風邪?』)
あと気になったのは、序列か。ヴァロノスに聞いてみたら、強さの序列らしい。部下の魔人たちにも序列があったから、おそらく魔人特有のものなのだろう。
『ラビ、そっちはどうだ?』
『こっちは特に問題ないうさ』
地底湖の方を守らせている召喚獣たちに状況を確認するが、特に大きな問題はないらしい。たまにやってくる新手の魔物は、すべて倒しているそうだ。おかげで俺のレベルも順調に上がっている。さっきレベル99になったので、レベル100もすぐだろう。
レベルといえば、魔人の魂を吸収した時のレベルアップはすごかった。魔人帝国は脅威だが、その分、獲物としては上質なのだろうか。うまくいけば、大きくミコトさんに近づくことができるかもしれない。
『……お兄様、なんだかとっても嬉しそうですね』
「ミヅハか、そうだな……大きく目標に近づけるかもしれないと思うとな」
『目標ですか……でも、お兄様がいなくなるのは淋しいです……』
「大丈夫、まだまだ先の話だから安心しろ」
『本当ですか? じゃあ今夜はお兄様と一緒に寝ますね? ミヅハは淋しくなってしまいました』
悲しそうに目を伏せるミヅハ。
そうか……俺が目的を達成するってことは、みんなと別れるってことなんだよな。
ふと、別れ際にミコトさんから言われたことを思い出す。
『カケル……人生を楽しんで。精一杯生きて幸せになって。私とは死ねばいつでも逢えるから。遠慮しては駄目』
きっとミコトさんは、こうなることがわかってたから……ありがとうミコトさん、俺、みんなと一緒に精一杯生きてみるよ。少しだけ待たせてしまうかもしれないけど……
「ミヅハ……よしっ、一緒に寝るか!」
『っ!! は、はい、お兄様!』
――――夜 寝室――――
アルフレイド様が、気を使ってくれて、個室――――といっても、テントだけど――――を用意してくれた。
夜営といえば……ミコトさん特製【魔法の寝袋】の出番だ。これ気持ちいいんだよな……
「ミヅハ、もう出てきていいぞ」
『はい、お兄様』
すぐにミヅハが実体化する。妹とはいえ、体は大人だから、なんか背徳感が……
『これが、お兄様の魔法の寝袋ですか?』
「ああ、気持ち良すぎて、入ると直ぐ寝ちゃうんだ。よいしょ、うはっ! ヤバい……す~す~」
『え……お兄様?! 嘘ですよね……ほ、本当に寝てますね……せっかくイチャイチャしたかったのに……』
『……仕方ありませんね、逆に考えれば、お兄様を思う存分、堪能するチャンスかもしれません。ふふっ、失礼します』
『私は大精霊。本来睡眠すら必要ないのです――え、何ですかこれ………気持ち良すぎます……すーすー』
***
「……御主兄様、まだ起きてらっしゃいますか? この不肖、クロエが、夜のお勤めをさせて頂きたく、御主兄様が眠りに付くまで、そ、添い寝いたします……御主兄様?」
クロエが寝室を覗き込むと、寝袋で仲良く眠るカケルとミヅハの姿が。
「くっ、この私としたことが、油断いたしました。ですが……ま、まぁ良いでしょう。妹なら一緒に寝て良いと言う事なら、私も権利を行使させて頂きます」
ミヅハを押し退けてカケルの横にもぐりこむクロエ。ちなみに、魔法の寝袋は、人数によってサイズが変わるので、問題ない。
「はうう……御主兄様の匂い……たまりません……すーすー」
***
「……本当に大丈夫なの? サラ」
「何言ってるの姉様、貴方様の身体は1つしか無いんだから、早い者勝ちだよ?」
「貴方様〜ってもう寝てるし! しかも先客いるし!!」
二人の前には、気持ち良さそうに眠るカケル、ミヅハ、クロエの姿が。
「むふふ〜、シルフィ、こういう時は、残り物には福があるってね!」
「ちょっと、サラ、どうするつもり?」
「ご覧よ、シルフィ、ちょうど貴方様の両脇が空いているじゃないか!」
「……た、確かに1ミリぐらい空いているように見えなくもないわね……ゴクリ」
「「失礼しま〜す」」
ミヅハとクロエを押し退けてカケルの両脇にもぐりこむ二人。
「ああ……貴方様の温もりが……」
「えへへ、あったかいね、貴方様〜」
「「……すーすー」」
***
「……しまった、食べていたら、すっかり出遅れたわ! 全く難儀な体質じゃ……今宵こそ、ダーリンと吸血の儀をしなくては……」
しかし、エヴァの前には、仲良く気持ち良さそうに眠る5人の姿が。
「……な、何ということじゃ、妾だけ仲間はずれとは……ククッ、この吸血姫の恐ろしさをダーリンにその身をもって味あわせてやろう……失礼するのじゃ!」
サラを押し退けて、カケルの隣にもぐりこむエヴァ。
「はわわわ、近い、ダーリンが近い、豊潤な魔力の香りが堪らん、ち、ちょっとだけ、牙を先っぽだけ刺すだけだから……すーすー」
***
「全く、会議というのは長いだけで、中身がまるでないと思わんか、サクラ?」
「お疲れ様でした、セレスティーナ様、でも……お楽しみはこれからですよ!」
「そ、そうだな、しかし……突然押しかけて迷惑ではないか?」
「何を弱気な……セレスティーナ様は、冒険者ではないのですから、ただでさえ不利なんですよ? 行かないのなら、私だけで――」
「わ、わかった、行く!」
「ふふっ、それでこそ、セレスティーナ様です!」
「「こんばんは~」」
返事が無い。寝室に入ると、二人の前には、気持ち良さそうに眠る6人の姿が。
「……ほら、いったとおりでしょう?」
「ぐぬぬ、この神速の白姫を出し抜くとは中々やるな……サクラ、行くぞ!」
「はい、セレスティーナ様!」
「「ふふっ、失礼しま〜す」」
エヴァとシルフィを押し退けてカケルの両脇にもぐりこむ二人。
「明日の戦いに向けて旦那様成分を補充しなければ……んふふ、これは騎士としての職務……」
「えへへ、王子様の寝顔かわいい……あ、駄目です、そんなところ触っちゃ……」
「「すーすー」」
***
「……なぁ、カタリナ、これは一体どういう状況だ?」
「さぁ? でも……参加しないという選択肢は無いわね。みんなとっても気持ち良さそう」
「そうだな、楽しそうだし参加しないと」
「「お邪魔します(するぞ)」」
サクラとセレスティーナを押し退けて、カケルの両脇にもぐりこむ二人。
「カケルくん……私のこと好きにして良いのよ、なんてね……」
「おお、カケルの身体、引き締まっていてたまらんな……」
「「す~す~」」
今日はみなさんお疲れ様でした。ぐっすりおやすみなさい……
――――プリメーラ――――
「……うーん、なぜか淋しくて寝れない……」
ひとり苦悩するクラウディアだった。




