カケルとイソネ
物事にはいつか終わりが来る。どんなに引き延ばしたところで、遅いか早いかの違いに過ぎず、必ず終わりは来るのだ。
『カケルさま……名残を惜しんでいただけるのは大変うれしいのですが、さすがにそろそろ向かわないとマズいですよ?』
ふふっ、その通りだなヒルデガルド。イソネ君が首を長くして待っているのだからな。まあ来ていることは知らないのだがな。
短距離転移で、クラーケンイソネ君のところへ移動。
『うわっ!? だ、誰!?』
突然現れた俺に驚くイソネ君。当然俺はネイティブだから、クラーケンの言葉も分かる。
「くっ、何だお前は?」
ほほう、悪の女幹部デメテルか。思ったより美人だな。
しかし惜しい、せっかく服のみを切り裂く聖剣クロスレイヤーの出番なのに、この後イソネ君に入れ替わってもらうつもりだから、裸にするわけにもいくまい。本当に残念だ。この世界にきてから、五指に入るくらい残念だ。
「イソネ君、チェンジを使って、デメテルと入れ替われ!」
『へ!? 何でそのことを? 貴方一体何者……?』
クラーケンの姿で困惑しているのはなんかシュールで可愛いな。まあ、確かにいきなりそんなことを言われても困るよな。
「俺はカケル。キタカゼの主人だと言えばわかるか? クラーケンのことは気にするな。早くチェンジを使ってくれ」
『え? あ、貴方が、キタカゼさんの? わ、分かりました、『チェンジ!!』』
ほう……本当に一瞬で入れ替わるんだな……。鑑定で見なければ、入れ替わったことにも気付かないとは。
『な、なんで私が化け物になっているんだ? く、くそっ、身体を返せ!!』
イソネ君に代わってクラーケンとなったデメテルが困惑と怒りで喚き散らしている。
「シグレ……いくぞ?」
『応、お任せあれ主殿』
――――ソウルブレイカー!!――――
『ぎゃああああああああ!?』
シグレの一振りでクラーケンとなったデメテルを一刀両断。
「スケッチブック召喚、いでよ『デメテル』」
素早くデメテルと召喚契約を結び、早速呼び出してみる。
初回限定の派手な魔法陣が出現し、10本の触手を生やしたイカ娘デメテルが姿を現す。当然全裸だ。
ふ、ふふふ、成功だ。悪の美人幹部にイカ娘の属性が追加された。パーフェクトだよ。イソネ君。
彼のチェンジがなければありえない奇跡に感謝の祈りを捧げる。
『これから誠心誠意お仕えいたします、御主人様』
「よろしくなデメテル。じゃあ、この巫女服を着てくれ。着方がわからないだろうから俺が手取り足取り……え? 大丈夫? ……そうか」
くっ、クラーケンだから今度こそと思ったのに、よく考えたら、デメテルは元々人間じゃないか……くそっ、裏目に出たぜ。
「……あの、えっと、カケルさん?」
背後から遠慮がちに声をかけてくるイソネ君。
見た目は完全に悪の女幹部だが、中身が男だとわかっている以上、騙されない。大丈夫だ。
「やあ、初めまして。俺が英雄カケルだ。まあイソネ君には、大海原駆と名乗った方が自然かな? 君は日本人の転生者なんだろうから」
「うえっ!? 大海原駆って、もしかして、全国模試でいつも一位だったあの?」
なんだ、俺のこと知っていたのか。何気に有名人だったんだな。
「ああ、その駆だ。挨拶に来るのが遅くなって悪かったな。こっちも色々忙しかったんだよ」
「そ、そうなんですね。ところで、デメテルのことなんですが……」
「ん? ああ、大丈夫だぞ。今のデメテルはすっかり毒気が抜けているからな。性格は変わらないけど」
「いや、それは心配していないんですが、なぜ巫女服?」
「…………俺の趣味だが?」
「……なるほど。スク水の方が似合うと思ったんですけどね……」
こ、こいつ、中々見どころがある。さすがは選ばれしもの。ふふふ。
「実はなイソネ君。本当は俺もスク水が一番だと思っていたんだが、初対面のイソネ君の前で、デメテルにスク水なんて着させたら、ただの変態野郎になってしまうと思ったんだよ」
ここは隠し事は無しだ。男同士、本音で語り合おうではないか。
「なるほど、そういうことならご心配なく、どんなものでも軽蔑なんてしません。尊敬はしますが」
「……よし、わかった。デメテル!」
『は、はい……なんでしょう……嫌な予感がするのですが!?』
「せっかく着てもらったところ悪いんだが、こっちに着替えてくれ」
特製のスクール水着を渡す。当然、サイズはややきつめとなっている。
『…………これを、私が?』
「ああ、なんだったら、自分自身に手伝ってもらうか? なあ、イソネ君」
「ええっ!? 俺が着替えさせて良いんですか?」
大喜びのイソネ君。デメテルの姿だから非常にシュールだ。
『ま、待って、着替えるから!! 自分で着替えられますから!!』
10本の触手を使って器用に着替え始めるデメテル。控えめに言って大変エロい。まさに眼福である。
「ん? どうしたんだイソネ君?」
「いや……あの、今気付いたんですけど、俺、今女体化しているんですよね?」
ああ、ずいぶん平然としているなあと思ったら、忘れていただけか。ふふっ。
「そうだぞ、思う存分楽しんでも大丈夫だ。なんたって自分の身体なんだからな」
「ふ、ふふふ。確かにそうですね。ちょっと楽しくなってきました。ワクワクが止まらないです!!」
本当に素直で気持ちの良い男だな。皆に好かれる理由がわかるよ。
「よし、そんなイソネ君に、コスプレ衣装セット詰め合わせをプレゼントしよう。自分で着ても良し、婚約者に着せても良し。使い方は任せるよ」
イソネ君にミヅハの作った最高級衣装セットを手渡す。
「か……カケルくん……ありがとうございます。ありがとうございます」
余程嬉しかったのだろう。何度も頭を下げるイソネ君。頭を下げるたびに、胸の谷間が見えるのが悩ましい。まあ、次からは気をつけたまえ。
チェンジスキルの偉大さを噛みしめるカケルであった。