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トワとナユタ


 ――――登録者反応確認。


 ――――残存エネルギーOK、身体破損なし、記憶領域損傷なし。


 ――――休眠モード解除します。



『…………ここはどこかしら? ナユタ?』

『…………位置情報によると、ラトニア王国ね。トワ』


『……休眠モードに入ってから七百六十八年経過していることを確認。ラトニア王国が現存しているか怪しいわね』


 

 二人の女性は見分けがつかないレベルで瓜二つ。長い白髪をさっと手櫛で整え、薄茶色の瞳で周囲の状況を確認する。



『最優先目標の位置情報を確認。行くわよ、ナユタ』

『……了解、トワ』


 唯一の出口である扉は、分厚い金属製で、しっかり施錠されている。


『スキャン――――恐ろしく旧式のロックね。これは私向きではないわ。任せるわよナユタ』


 トワは、後ろに控えていたナユタにバトンタッチする。力仕事ならナユタが特化しているのだ。



――――バキンッ!!――――



『開いたわ、行きましょうトワ』

『……相変わらず出鱈目なパワーね……』



――――ゴオオォォォォンッ!!――――


 重い金属製の扉があり得ないスピードで全開になり、中から姿を現すトワとナユタ。



「ひ、ひぃっ!?」


 部屋の外に立っていた衛兵が腰を抜かすほど驚いて情けない声を上げる。


 それはそうだろう。ここは特に重要なアーティファクト等が保管されている宝物庫の一つ。重い金属製の扉は、大人数人がかりでやっと動かせるものだ。まさか厳重に施錠されている内側から人が出てくるなど、夢にも思っていなかっただろう。


『質問。ここはどこ?』


 トワが震えている衛兵にたずねる。感情のない冷たい視線にさらされ、さらに震えあがる可哀想な若者。


「ぐ、グリモワール帝国です……」 


『ふーん、そう。それで駆に会いたいのだけれど、案内してもらっても良いかしら?』


 聞いておきながらまるで興味がなさそうに衛兵の男に目的を伝えるトワ。


「へ? か、カケル? あ、ああ……英雄さまですね。ですが、私はここから離れるわけには……」



――――ドゴオオォォォォンッ!!―――― 


 ナユタが無言で壁に穴を開ける。 



「ひ、ひいいぃぃっ!? わ、わかりました、案内しますから、お願い殺さないで!?」


『……そんな野蛮で無意味な行為は許可されていない』


 じゃあなんで壁を殴ったんだよ!! とでも言いたそうに一瞬不満顔を見せる衛兵の男だが、バレないように慌てて笑顔を貼り付ける。


 とにかく早く誰かに押し付けて逃げようと心に決めて、英雄がいる大広間へ向かう。



「どうしたんだ? お前は宝物庫の当番だろう?」


 当然、すんなり通れるはずもなく、警備隊長に呼び止められる。


「はい、実は、その宝物庫から出てきた、こちらのご婦人方が、英雄さまのお知り合いのようでして。私がここまで案内して来たのです。では、私は宝物庫の警備に戻りますね!」


 脱兎のごとく走り去る若い衛兵。


「あっ!? おい……全くなんなんだ……」


 残された隊長が、仕方なく二人に話しかける。


「彼の話していたことは本当かね?」

 

『肯定します』


 トワが無表情に答える。


「宝物庫から出てきたと言うのも?」


『宝物庫というのが、私たちがいた場所のことを指すのなら、そうです』


「そんな馬鹿な!? 鍵が掛かっていたはずだ。仮に掛かっていなかったとしても、とても動かせる重さではないぞ?」


『ああ、それならば、証明しましょう。ナユタお願い』



――――ドゴオオォォォォンッ!!―――― 


 ナユタが無言で壁に穴を開ける。  


『これでご理解いただけましたか?』


「…………」


 口をあんぐり開けながら、コクコク頷く隊長。


『では、通らせてもらいますね』


 隊長のわきを抜けて歩き出すトワとナユタ。



『……一体何の騒ぎですか? おや……?』


 さすがに壁に穴が開くほどの衝撃だ。大広間から、カケル専用メイド長ヒルデガルドがやってくる。


 そして、鉢合わせしたトワとナユタを見て驚きの表情を浮かべる。



『……刹那が二人?』


『否定します。刹那は私たちの生みの親。私がトワ、こちらがナユタです』


『……なるほど、刹那が生みの親ってことは、貴女たちは増太郎さんと同じオートマタということでしょうか?』


『否定します。あんなポンコツと一緒にされるのは心外です』

『…………心外です』


 あまり口数の多くないナユタまでもが否定を口にする。よほど嫌だったのだろう。


『……哀れな、増太郎さん』


 さすがのヒルデガルドも増太郎に同情せざるを得ない。



『ところで、トワさまとナユタさまは、どうやらカケルさまに会いに来たようですね?』


『肯定します。私たちの最優先目的は、駆に会って役目を果たすこと』

『…………駆、近くにいる、会わなければ』


 相変わらずの無表情だが、やや興奮気味にテンションを上げるトワ。カケルの存在を近くに感じてそわそわし始めるナユタ。


『なるほど……大体わかりました。もうすぐお見合いが終わりますので、控室でお待ちください』


 楽しそうに微笑むヒルデガルド。


『貴女は良いメイドですね、ヒルデガルド』

『お友達になりましょうヒルデガルド』


 どうやら二人に気に入られた様子のヒルデガルドであった。



***



『うぇっ!? な、なんですって!? それは本当なのヒルデガルド!?』


 突然のヒルデガルドからの念話に膝から崩れ落ちそうになる。  

 

 大繁盛の出店は、ちょうど屋敷に戻ってきたリリスとリノに無理やり店番を押し付ける。



 ……大変なことになった。



 トワとナユタは、私が最後に完成させた最高傑作。私と同じ身体に、私の記憶や様々なデータが入っている。


 彼女たちを作った理由は大きく二つ。


 

 一つは、もし休眠の耐用年数である千年を超えそうな場合、私を起こしに来る保険として。


 もう一つは、駆が私を見つけられない場合、彼女たちが先に見つけ出して、私のところへ連れてくるメッセンジャーとしての役割。


 結果としてどちらも不要になってしまったから、すっかり存在を忘れていた。



 まずい……早く止めないと。


 刹那は、慌てて眷族転移を使い、駆の下へ飛ぶのであった。

  

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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