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クリスティーナ王女とフォルテ騎士団長


 あれは悪夢のような出来事でした。


 我がリベルテ王国は、グリモワール帝国の攻撃により、一夜にして陥落したのです。


 帝国の兵は、魔物を中心とした強力なものでしたが、実際には、それ以前から、国内にはびこっていた犯罪組織を使って我が国は内部からすでに陥落させられていたのです。


 当時、私は病気の療養中で、王都から離れた別荘にいたため、難を逃れたのですが、国が陥落したうえ、重い病に侵されたこの身に何ができるでしょうか?


 それでも、幼馴染で親友の騎士団長フォルテがたまたま見舞いに来てくれていたのはとても心強かった。フォルテは、隣国に逃れるための準備を終えると、私を馬車に乗せて出発した。


 途中、追手をかわすため、フォルテは単身囮役を買って出た。待ち合わせの場所に朝になっても現れなかったら、出発しろと言い残して。私は彼女が死ぬことも辞さない覚悟だとわかってしまったから、必死で泣いたけれども、フォルテは行ってしまった。


 でも、翌朝、彼女は私たちの前に姿を現した。変わり果て魔物と化した姿で。


 私は捕虜として連れ去られましたが、それは名ばかりのもので、実際はどうなるのかわからなかった。私たちより先に捕虜になったはずの人々は、誰一人として残っていなかったのです。


 そして……私もとうとうあのおぞましい魔物となりました。フォルテと同じあの醜い魔物に。


 重い病に侵された私の体は強靭なものとなりましたが、自我が抑え込まれ、操り人形のような生に、一体なんの意味があるのでしょうか?


 帝国の次の標的は隣国カルム。私の姉が嫁いだ兄弟国です。


 そのカルムに対し、帝国は私たちリベルテ王国の手で攻め込ませようとしました。なんという非道で理不尽なことをするのでしょう。


 ですが、結果的にカルムに対する攻撃は中止……いいえ、白紙撤回されました。



 異世界の英雄さまの手によって。


 

 帝国の狂った野望は打ち砕かれ、まるで魔法のように、私たちの魔物化は解除され元の身体に戻ることができました。さらには連れ去られた家族や臣下たちも無事だということも聞かされたのです。




「クリスティーナ殿下……本当によろしいのですか?」


 親友で騎士団長のフォルテが心配そうに私の顔を見つめる。こんな風に話せるようになるなんて思いもしなかった。うれしくて涙が零れそう。


「もちろんです。こんな私が国の安寧に役立つのなら、喜んで嫁ぎましょう。それより、貴女まで付き合わなくても良かったのに……」


 私が嫁ぐことを決心すると、フォルテまで一緒に嫁ぐと言い出した。まあ、本音を言えばすごく嬉しいし、心強い。見知らぬ土地へ行くのであればなおのこと。でも、彼女の人生を犠牲にしてまで望むことではない。王族である私と違って、貴女には相手を選ぶ自由があるのだから。


「ふふっ、私は一生殿下の側にいると決めたのです。それに、相手が私たちを助けてくれた英雄となれば、むしろ願ってもない相手ではないですか。問題は、英雄さまが私を選んでくれるかどうかです……」


 そうなのだ。英雄さまは、すでに世界中の美姫に囲まれていると聞く。さらに今回数われた帝国支配下の各国の美女たちが、我こそはと名乗りを上げているのだ。私のような小国の王女が嫁ぎたいと言っても、選ばれる可能性は高くはないだろう。


 フォルテは太陽の騎士と謳われる輝くようなブロンドの美女だ。国内屈指の人気を誇り、国民の話題は、常に誰が彼女の夫となる栄誉を得るかで常に持ちきりだ。英雄さまがどのような方かは存じ上げないが、きっとお似合いだろうと思う。


 でも私は……見た目はそれなりだとは思うのだが、なにせ身体が貧相だ。自分の凹凸のない胸を見てため息をつく。


「それは……むしろ私のほうが問題です。殿方は豊満な身体を好まれると聞いたことがありますから……」


「な、何をおっしゃるのです、その美しい空色の髪。澄んだ湖のような神秘的な瞳。大丈夫です、殿下は世界一可愛らしい王女殿下ですよ。それに……貧相さなら私も負けてはいませんからね!」


 フォルテの言葉に思わず笑ってしまう。ありがとうフォルテ。選ばれるかどうかはともかく、せめて笑顔でお礼を言わないと。こうやって、再び大切な人たちとの時間を取り戻すことが出来たのだから。


 病で明日をも知れなかった私に、こんなに素敵な人生の続きをプレゼントしてくれたのだから。




***




「フォルテ……どうしましょう。き、緊張してきました」

「で、殿下、ご安心ください……私もです」


 頼りにしていたフォルテが全く役に立たない。


 彼女は戦いであれば怖いもの知らずだが、色恋に関しては、まったく経験がなく、耐性を持っていないのだ。


 偉そうに言う私もまったく同じ。体が弱く、病気がちだった私は、本来王族が受けるべきそういった教育を受けていない。それに、会場にいる他の女性たちが全員私よりも輝いているようにみえて急に怖くなり、震えが止まらなくなってきた。



 すでに応接室では、英雄さまとのお見合いが始まっており、私たちは順番を待っているところ。


 不思議なのは、どの女性も、入ったと同時に出てくるのだ。中にいた時間は1秒もないように思うが、ひょっとして入った瞬間に断られてしまうのだろうか? 恐ろしい。


 ただ、出てくる女性たちは、皆、頬を赤らめて、幸せそうな顔をしている。ますます意味が分からなくなってきた。



『はい、次、リベルテ王国王女クリスティーナさま、騎士団長フォルテさま、お入りください』


 案内役の女性は、英雄さまの専用メイド長のヒルデガルドさまとおっしゃるらしい。もう、次元が違う美しさで、この時点で女性としてのプライドは粉々になっている。



「失礼します」



――――ガチャ――――

 


 二人で部屋に入ると、ソファーに腰かけていた黒目黒髪の青年が立ち上がり、出迎えてくれる。


「はじめまして、異世界から来た英雄カケルだ。よろしくな、クリスティーナ、フォルテ」



 あっ……腰が抜けた。想像以上……いいえ、想像も出来なかった。こんな素敵な方がこの世に存在するなんて……一目見て魂を奪われてしまった。さらには、その優しく温かい声。体中が喜んでいるのがわかる。


 腰砕けになって倒れこむ私を、助けようとしたフォルテもまた腰砕け状態で、二人で床に倒れてしまうかと思ったその瞬間―――――――



――――ふわっ――――



 私とフォルテの身体は、英雄さまに抱き上げられていた。で、伝説のダブルお姫様抱っこ……。


「大丈夫か二人とも? 大切なお嫁さんに怪我をさせるわけにはいかないからな」



 はわわわわわわ……お、お嫁さん!? あうっ、近いです、いい香りがします……


 力強い感触と英雄さまの優しいまなざしとお嫁さんという言葉に包まれながら、私はそっと意識を手放すのでした。 


 

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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