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黒豹のメア


 皇帝ビザンティヌスとの話し合いの後、俺はすぐにプリメーラの屋敷へ戻る予定だったのだが、


「ほう、面白そうではないか。俺も行こう」


 とビザンティヌスが言うので、急遽グリモワール帝国の代表団も国際会議と交流会に参加することとなった。



「父上が無理言ってすまないな。カケルさま」


 コンスタンティアの父親譲りの艶やかな灰色の髪は、ミヅハによって美しく結い上げられ、トパーズのような瞳は申し訳なさそうに揺れている。ドレスもミヅハ製。間違いなくこのまま晩餐会へ参加できるだろう。


「いいや、かえって有り難い申し出だよ。せっかく各国の代表が集まっているんだ。この機会を最大限活かすべきだろう」


 実際、ここまで上手くいくとは思っていなかった。ビザンティヌスとは気が合いそうだ。歳は離れているが、良い友人になれそうな気がする。今後はお互いにタメ口で話すことになったしな。


「そうか、そう言ってもらえると助かる。しかし、カケルさまの妹君はすごいな……私がこんな姿になれるとは……あの……似合うだろうか?」


 恥ずかしそうに顔を赤らめるコンスタンティア。男勝りの性格と、武勇に優れた帝国の剣として生きてきた彼女にとって、女性らしい恰好をするのは恥ずかしいのだろう。もっと自信をもってもらわないとな。


「ああ、綺麗だよコンスタンティア。ミヅハはほんの少しだけ光を当てるだけ。輝きを放つのは、お前の持っている魅力に他ならないんだからな」


「カケルさま……」

「コンスタンティア……」


「お待ちください!!」


「め、メア!? いつからそこに?」


 慌てて離れるコンスタンティア。

 待ったをかけたのは、皇女付きの侍女メア。俺が住んでいる地方では珍しい黒豹の獣人だ。助けたときに少しだけ触ったが、艶やかな黒光りする体毛は最高の触り心地だった……ああ、心ゆくまでモフりたい。


「……最初からおりましたが? それよりも、カケルさま?」


「な、なんだ? メア?」


 油断してメアをモフる妄想をしていたので、急に話を振られてちょっとだけ挙動不審になってしまう。


「コンスタンティアさまの夫君になられるのでしたら、帝国の伝統にしたがっていただきます」


 褐色のメアの顔が明らかに真っ赤になっている。


「……帝国の伝統? なんだそれは?」

「ふえっ!? わ、私の口からはとても……」


 真っ赤になって顔をそむけるコンスタンティア。


「よ、夜の生活のために、侍女である私が最初にお相手を務めさせていただきます。そのうえで、足りない部分があれば、私がしっかりサポートさせていただきますので、ご安心を……」


 なるほど、皇女を守るためでもあり、世継ぎを残すためにサポートまでしてくれるのか。まあ、俺には必要ないことだけど、帝国の素晴らしい伝統に敬意を表することにしよう。


「わかった。よろしくな、メア」


 真っ赤な顔で無表情を装っているメアの頭を撫でる。ふふふ、ナチュラルモフ発動。頭を撫でているように見せかけて、しっかりモフる高等テクニックだ。


「ふえっ!? な、撫でては駄目です……ああ、仕方ありませんね……少しだけですよ?」


 トロンとした目で頭を撫でられるメア。ふふふ、少しだけちょっとだけ。


「ち、ちょっと待て、カケルさま、メアばかりずるいではないか!!」


 やれやれ、おいでコンスタンティア。


「ふわあ……なんだこれは……!? き、気持ちが良い……」


 うっとりと目を細めるコンスタンティア。



「おいおいカケル、父親の前で、娘とイチャイチャしないでくれよ? なんだ? もうメアにまで手を出したのか? くくく、さすがは英雄といったところだな」


 ……準備早いなおい。皇帝なんだから、もっといろいろ準備とかあるんじゃないのか?


 いつの間にか戻ってきて、にやにやしているビザンティヌスをジト目でにらむ。



「まあね、それよりずいぶん早かったな?」

「俺は男だからな。それに、手ぶらで大丈夫なんだろ?」


「ああ、必要なものはすべて用意できるし、ゲートも設置したから、取りに戻るのも簡単だからな」

「ククク、まったく本当に規格外なんだな英雄っていうやつは。お前の屋敷がどんなところなのか、ワクワクしてきたぞ?」


 まあ、はっきり言って、人外魔境ですよ。割とガチで。


「ああ、あとな? カケル、お前、各国嫁さん7人枠っていうのがあるんだって?」


 …………なにそれ? 初耳なんですけど!?


「……だれがそんなことを?」

「あん? お前のメチャクチャ別嬪さんの妹とメチャクチャクールなメイド長だけど?」


 ミヅハ……ヒルデガルド……君たち、後でお仕置きだな。ご褒美になっちゃうけどさ。


「というわけで、コンスタンティアとメア以外に、あと最低6人娶ってもらうからな?」

「……ちなみになぜあと6人? 5人では?」


「馬鹿野郎、帝国が他の国と同じわけにはいかないだろ?」


 そんなところで対抗しなくてもいいんですよ?


「ま、まあ、時間もないことだし、機会をみてまた――――」


『大丈夫です、カケルさま!!』

『ご安心ください、お兄様!!』 

 

 俺のよく知る声が響く。ああ、全然大丈夫な気がしないし、まったく安心できないんだが!? そもそも、何も頼んでいないんだけど!?


『ふふふ、私とミヅハさまが厳選した婚約者候補をご用意いたしました』

『お兄様好みの可愛らしい方ばかりです。モフモフもありますよ?』


 くっ、すでに外堀が埋められていやがる。そうか……モフモフも……。


 参ったな。これは決めるまで、戻れそうにないじゃないか。


 仕方がない、非常に不本意ではあるが、帝国同士の友好のため、ミヅハやヒルデガルドの労に報いるためにも、会うだけ会ってみるか。なにより参加してくれた人にも失礼だしな。非常に不本意ではあるが。


 時空魔法を使いながら、候補者が待つ場所へと歩みをすすめるカケルであった。


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i566029
(作/秋の桜子さま)
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