国際会議フェスティバル 後編
「あら、見てリストルテ、ジュエリーショップがありますわ!」
「……どうせ、お嫁さんがやっているのよね?」
目を輝かせるフランソワーズに対して、すでにパターンを把握しているリストルテは冷静だ。
「リストルテ、そんなに穿った見方をするものじゃないぞ、楽しんだもの勝ちだ」
セレスティーナはリストルテの肩を軽く叩く。
「そ、そうですよね、すいません、セレスティーナさま」
「まあ、店員全員お嫁さんだがな」
「…………」
「あ、セレスティーナさま。会議お疲れさまでした。あれ? その子たちは?」
「お疲れ様、フローネ。ずいぶん繁盛しているじゃないか? 彼女たちは新しいお嫁さんで、リストルテとフランソワーズだ。正式には夜に紹介するが宜しく頼む」
ジュエリーショップ『海の家』を、切り盛りしているのは、半漁人族のキトラ、ナディア、フローネ。そして、魚人族のアクアだ。ちなみに王女であるシェーラ、テティス、そして侍女のドナは王族同士のパーティーに参加しているので不在だ。
「ちょっと待って……なんか『人魚の涙』が並んでいるんだけど!?」
「本当ですわ……ひとつで城が立つと言われる希少な宝石が……しかも安っですわ!?」
大半はキトラたちが集めた海の宝石だが、一部シェーラの涙である『人魚の涙』も混じっている。
エメロードラグーンとアビスは、基本的に自給自足なので、ほとんど通貨をもっていない。そこで外貨獲得のために、一部を売りに出しているのだ。
「ふ、フローネさん? 人魚の涙もそうなのですが、他のものもひと桁値段がおかしいですわよ?」
「ふえっ!? そうなのですか? よくわからないのです……」
仕方ないので、リストルテとフランソワーズが価格設定を見直すことにした。
「手伝っていただきありがとうございます。良かったら、こちらを差し上げます!」
キトラが小さな袋を渡す。
「ふふっ、何が入ってるのかな……ひいぅ!?」
「どうしたのですか、変な声出して……ふぇっ!?」
袋の中には、店頭に並んでいたものより大粒の『人魚の涙』が入っていた。
「こ、ここんなの貰えませんよ!?」
「でも今更返すのは失礼ですわよ?」
「二人とも貰っておけ。感謝の証なんだからな。それより着いたぞ」
セレスティーナが優しく笑う。
次にやってきたのは、神殿本庁の特設コーナー。
「うわっ!? すごい人……一番すごい熱気……」
「なんか……怖いんですわ……」
「まあ、アリエスとソフィア、現役の聖女が二人揃うなんてまずないからな。信者からしたらたまらないだろう。私も朝晩、二人を抱きしめてご利益をいただいている」
セレスティーナは敬虔な女神教徒であるので、日々信仰心を磨いているのだ。
「ああ……お可哀想に。ソフィアさまは聖女になりたくなかったはずでは?」
元々ソフィアは、フランソワーズが所属するセントレア冒険者ギルドの所属だ。ちなみに元担当でもある。
「ふふっ、旦那様が教皇さまに働きかけて、規則を変えてしまったからな。だいぶ楽になったらしいぞ?」
「……もはや、世界を牛耳っておられるのですね、英雄さまは……」
とても近寄れる雰囲気ではないので、早々に場を離れる。
「そろそろのどが乾かないか? 特設のカフェがあるんだ」
「いいですわね! はい、のどがカラカラですわ!」
「行きたいです~、でもどうせお嫁さんカフェなんですよね?」
「ふふ、中々飲みこみが早いなリストルテ。その通りだ」
遠い目をするリストルテ。
やってきたのは特設カフェ。
「あ、セレスティーナさま、いらっしゃいませ~! サクラの秘密の花園へようこそ!」
すっかり正装となった巫女服で出迎える店長のサクラ。
「お疲れさま、この二人は新しいお嫁さんだ。サクラは二人とも知っているから紹介はしないぞ」
「うわあ、リストルテにフランソワーズさま!? 世界2大受付嬢じゃないですか~!?」
さて、このカフェでは、サクラの農園で育てた花や植物、果物、野菜を使ったサラダやハーブティーも楽しめる。フルーツタルトやスムージーもある。
「じゃあ、アデル、席まで案内して差し上げてね」
「は、はいい……こちらへどうぞ」
店内はほぼ満席だ。なにせ、超絶美少女吸血鬼双子のスキアとイスキア、モフキャットのモフル、フワリ、ナデル、妖精巫女のラクスとルクス。世界樹のルシア、エンシェントエルフのシルヴィア、神狼のルルとララ、土の超精霊モグタンといった、とんでもない美女の園。
もちろん一切のお触り禁止だが、見ているだけで浄化されてしまうだろう。
「あの……この人たち全員お嫁さんですか?」
「なんか神々しいものを感じてしまうのですが……」
「ああ、もちろんだ。でも、旦那様のお嫁さんは、各国で重要な地位や仕事を持っているものが多いから、ここにいるのはほんの一部だ。そもそも王族関係は、別枠でパーティーしているからな」
「ああ……そうですか、頑張って慣れます!!」
「ふふっ、毎日楽しそうですわ!!」
『ご注文を伺いますモグ!! おすすめは、モグタンのシークレットガーデンですモグ!!』
「じゃ、じゃあ、ハーブティーと、フルーツ盛り合わせで」
『かしこまりましたモグ、モグタンのシークレットガーデンとハーブティーフルーツ乗せモグね』
「あの、モグタンのシークレットガーデンはいらないんですが?」
『サービスモグ。遠慮しなくていいモグ』
「セレスティーナさま? モグタンのシークレットガーデンとはいったい……?」
「ふふっ、来れば分かるさ」
『お待たせモグ~!!』
モグタンが運んできた『モグタンのシークレットガーデン』には、黒っぽい丸い団子が3つ乗っている。
「この中に、一つだけ泥団子が混じっている。残りの2つは美味しい団子だ。ふふっ、スリルがたまらないぞ?」
「くっ、なぜ泥団子!? せめて食べられるものして欲しいわ……」
「ぜ、絶対に外れを引くわけにはいきませんわ!!」
3人が同時に団子を取り、口に入れる。
「「「…………」」」
……全部泥団子でした。
「おのれモグタン、叩き切ってやる!!」
『怒らないで欲しいモギュッ、ぎゃあああああ!?』
激昂するセレスティーナにお仕置きされるモグタンであった。