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世界一の受付嬢


「リストルテちゃん、今回の依頼が終わったら、おすすめの店があるんだけど、一緒に行かない?」 

 

 口説いてくるのは、A級冒険者のギルガメッシュ。神雷のギルの二つ名で呼ばれるギルド期待のエース候補だ。


 珍しい雷属性のスキル構成を持ち、魔剣トールサンダーを武器に、一気にスターダムにのし上がってきた。


 顔も悪くないし、将来性も抜群。とにかくモテるので女グセは悪いが、それも強い男の証だと思っている私にとっては、減点材料にはなり得ない。


「お誘い嬉しいのだけれど、しばらくお父さまとプリメーラに行かなければならないの。ごめんなさい」 

「プリメーラ!? そりゃまたずいぶん遠くまで……仕方ない、また今度な!」


 手を振り去ってゆくギルガメッシュを見送っていると、隣の受付嬢アイラが肘を付いてくる。


「ねえリストルテ、良いの? 彼、優良物件なのに……」


 アイラが彼を狙っていることは知っているので、苦笑いで誤魔化す。


 実際、災厄によって、有能な若手冒険者がたくさん死んだ。我がアルカリーゼはだいぶマシな方で、隣国アストレアなどは、登録冒険者の七割近くが戦死または行方不明となり、壊滅的な状況らしい。


 つまり健康で稼いでくれる殿方が、圧倒的に足りない時代なのである。


「アイラこそ彼を狙っているんでしょ? 応援しているわ」

「さすが世界一の受付嬢は余裕ね……ありがとう、頑張るわよ」


 『世界一の受付嬢』


 この呼ばれ方は好きではない。実力ではないことを自分自身がよく分かっているから。


 数値を稼ぎやすい王都ギルド所属であること。他国が軒並み災厄で壊滅的であったこと。極めつけは、私がギルドトップの孫娘であること。


 これだけ条件が揃っていれば、誰でもとまではさすがに言わないが、世界一とうぬぼれることなど、到底出来ない。


 本当の世界一は、アストレアの叡智フランソワーズで間違いない。どうやら奇跡的に生きていたみたいだから、遠くない内に、必ずトップへと返り咲くだろう。



 もう私も17歳、立場上、お見合い話は山のように来る。貴族、騎士、大商人、神官、果ては他国の王族まで。


 ギルドトップであるお祖父様は、私の好きにすれば良いと自由にさせてくれているが、お父さまは、早く子どもの顔が見たいとうるさい。普通、逆だと思うのだけれど。


 とはいえ、ここ十年で人間の数は半減した。このままでは、魔物によって滅ぼされるのも時間の問題。


 私たち女性が、たくさん産んで増やさなくてはなるまい。人類の未来のために!



 でもねえ……コレだ!! と思える殿方がいないのも事実。贅沢言っているのはわかっているのだけれど、恋する殿方のお嫁さんになること。そんな運命的な出会いに憧れるのは仕方が無いことだと思うのよ?


 

 そんなある日、信じられないニュースが飛び込んできた。


 プリメーラに異世界の英雄が現れたというのだ。もし本当ならば百年以上ぶりのこと。


 実は、あまり一般には知られていないが、異世界人そのものは比較的多く確認されている。


 転移型と転生型が存在し、転生型の場合は、本人が隠していることが多いため実数は不明ながら、転移型は平均して十年に一度程度は、世界のどこかで確認されており、多くは国によって保護されるケースが多い。


 過去には集団転移という記録もあるが、これは非常に稀なケースだ。



 では、英雄や勇者はどうかであるが、こちらは世界の危機が訪れる時に女神様によって送り込まれる存在で、他の転移や転生とはまったく別枠で扱われる。


 形は転移型に近いが、例外なく強力な加護と神懸かり的なユニークスキルを所持しており、目的も世界を救うためとはっきりしている以上、もし現れた場合、国家という枠を超えて全世界がサポートすることになっている。


 当然、私たち冒険者ギルドも、全面的に協力することになる。


 私の心が、少女に戻ったように踊り出す。


 これは運命かもしれない。きっと世界中の女の子たちが、そう考えているでしょうけれどもね。


 早く王都に来て、英雄さま。会えばきっとわかる。それが運命かどうか。言葉にしなくても、視線を交わすだけでわかると思うのよ。 



 だが、その機会はなかなかやってこなかった。ようやく英雄さまが王都を訪れた時には、まさかの冒険者ギルドスルー……いやいや、王都の冒険者ギルドは英雄譚の定番でしょうが!? 私の完璧なお化粧とドレス姿を返して!!


 あとで判明したのだが、ギルドトップであるお祖父様が、リリス様のファンクラブ会長なせいで、怖くて立ち寄れなかったらしい……ええ、めちゃくちゃ引っ掻きましたよ? お祖父様を。



 ですが、そのおかげで好機到来しました。なんと、英雄さまのお屋敷で開かれる国際会議と交流会に、お祖父様が私を連れて行ってくれるというのです。大好きよ、お祖父様。


 ふふふ、王都の誰しもが一度は行ってみたい英雄さまのお屋敷。噂では、王宮より広く、素晴らしい庭園、豪華絢爛な大浴場があるとか。極めつけは、世界一と言われる異世界料理の数々……


 今回同行を許されるのは、王族を除けば、大貴族や大商会主など大物ばかり。いかに今回の会議が重要なものかわかります。そしてその歴史に残るイベントの舞台で英雄さまと……はあ、胸が苦しい。


 まあ、そう簡単には会えないでしょうけれど、ご挨拶くらいなら出来るかもしれない。



「……なあリストルテ、この荷物はなんだい?」


 私が用意した山のような荷物の山を目にしたお祖父様が唖然としている。


「なにって、長旅になるんですから、これぐらい必要でしょう?」


 プリメーラまでは、馬車だと通常約3日ほどかかるが、貴族の場合、余裕をもって5日ほどかけてゆっくり移動するのだ。


「ああ、言っていなかったが、英雄さまが王宮とお屋敷を『ゲート』という古代魔法で繋げてくださったから、一瞬で移動できるぞ」


 ……最初から言って欲しかった。


 慌てて荷物を解体し始めるリストルテであった。

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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