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私はやっぱり悔しいです


「目が覚めましたか? ウルナ」


「く、クルミッ!?」


 いや……似ているが別人だ。でも、輝くような銀髪と蒼い瞳はアルゴノート王族の証。



「ふふっ、クルミじゃなくてごめんなさい。私はクロエ。アルゴノート第一王女にして英雄の妻であり妹であり専用メイドです」


 くっ、途中から意味がわからなかったけれど、あのクロエさまがこんなに大きくなられて……。



「クロエ殿下大変失礼いたしました。クルア様付きの侍女、ウルナです。殿下は覚えていらっしゃらないかと思いますが、クルア様と国を出る直前、お生まれになったクロエ殿下を抱き上げたことがあるんですよ?」


 本当にかわいらしい子でした。こんなにお美しく成長されて……



「そうだったのですか……ウルナ、貴女を助けることができて本当に良かった……」


 殿下の心からの笑顔にこちらまで頬が緩んでしまう。それと同時に、様々な疑問も湧き上がってくる。


 ここはどこなのか? そもそもあの状況からどうやって助かったのか? なぜ私とクルミの名前を殿下がご存じなのか? 考え始めたらきりがない。



「ふふっ、聞きたいことがたくさんあるってところでしょうか?」


 クロエ殿下が私の表情を見て、クスクスお笑いになる。そんなにわかりやすい顔をしていたのだろうか?


「は、はい、恐れながら、状況がまったく把握できておりません……」

「そうですね……どこから話すべきか。まず、一番貴女が気になっているでしょうから、最初に伝えますね――――クルミは無事ですよ」


「っ!? う……あ……あああ……うう……そ、そうですか……クルミさまは……無事ですか……」


 良かった……本当に良かった……もう何もいらない、自分の命よりも大切なこと。あの温もりをまた感じられるかもしれない。それだけで満たされる。名を呼びたい。名を呼ばれたい……「ウルナ」その一言が私のすべて。会いたい……早く会いたい。涙が止まらない。


「グスッ……ひっく、ひっく……」


 殿下の前だというのに嗚咽が止まらない。優しく抱きしめてくださるから余計に止まりません。




***



『カケルさま、本当によろしいのですか?』

「ん? 何のことだ、ヒルデガルド?」


『またとぼけて……全部クロエのしたことにして、姿を現さないおつもりなのかと申し上げているのです』


 ウルナさまを助けたのは、もちろんメタモルフォーゼで潜入したカケルさまだ。今も地下牢に入っているのは、妄想スケッチで創り出した偽物。しゃべることは出来ないが、廃人になっている以上、ばれる心配はないだろう。いずれにせよ組織を潰すまでの時間稼ぎに過ぎないのですが。


 いつものカケルさまならば、「大丈夫か? 俺は異世界の英雄カケルだ。助けに来た」とか言って、もれなくお嫁さんにしてしまう流れなのに、そうしなかった。


 もちろん、私には理由はわかっている。けれど、理解できるのと納得できるかは別だ。


 私は、カケルさまがきちんと評価されてほしい。皆から愛されて欲しいのだ。もちろん口には出さない。カケルさまのお考えを否定するつもりなどもっとない。ただのわがままだ。



『クルミさまのためですね?』


 もしウルナさまが、カケルさまのお嫁さんになってしまったら、クルミさまと一緒に暮らせなくなってしまうかもしれない。それを危惧なさったんですね。


「さあ? どうだかな。ただ、狼獣人はクロエがいれば十分だ」

『ふふっ、あの子が聞いたら尻尾が千切れるほど喜んだでしょうに、残念でしたね』    



 でも……私はやっぱり悔しいです。カケルさま。


「……そんな顔するな。俺はお前が知っていてくれればそれでいい。そのことがどんなに救いになっているか、たぶんお前の透視でもわからないだろうな」


 そっと頭に手を置いて、ポンポンされるの気持ちいいです。



 カケルさま……私はやっぱり悔しいです。貴方をどんなにお慕い申し上げているか、見せて差し上げられないことが……とても……とても悔しいのですよ。



***



「じゃあ、作戦決行まで、内部調査を頼んだぞ、ストレージ」

『かしこまりました、主さま』


 ウルナさんを助ける時に入れ替わった組織幹部ストレージは、ユニークスキルが有用だったので、召喚契約をして再び組織内へ戻ってもらう。


 彼の『記憶吸収』のスキルは、使いこなせれば、実に便利なのだが、ストレージは全く使いこなせていなかった。強引な使い方をするもんだから、相手が廃人になってしまうのだ。


 でも、今の彼は、俺がきっちり使い方を伝授したので、ちゃんとコントロール可能になっている。



『ありがとうございます。黒影殿、手が足りなかったので、ストレージの加入は大きいです。できればあと10人……最低でも数人は欲しいところですね』


 これまで少人数で広範囲をカバーしてもらっていたからな。もう少し増やさないといけない。組織構成員で面白そうなやつがいたら、スカウトするかな。まあ、一度死んでもらうけどね。



 さてと、ウルナさんは無事救出できたけど、結局トラキアに嫁いだクルアさまがどうなったのかまではわからない。その辺はクロエとヒルデガルドがうまく聞き出してくれるだろう。


 急を要するのなら、すぐに動く必要があるかもしれない。気持ちの準備だけはしておこう。



 できれば面倒なことになっていないといいなと願う。早く戻って、牛乳を使った料理を作りたいカケルであった。

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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