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悪魔のジュース


「なぁ、カケルっち、それは一体なんだ?」


 大きな桶のようなものをいくつも並べてゆくカケルっち。


「牛乳の匂いでモフキャットをおびき寄せる作戦です」 


 なるほど、モフキャットは、ここが牛獣人の寝床だと知っている。となれば近くに潜んでいる可能性はあるか。そうでなくともモフキャットは鼻が利くからな。


「あ、あのさ……やっぱりモフキャットは倒すんだよな?」

「はい、そのつもりでしたけど、何かありましたか?」


 モフキャットは、人に懐かない。屋敷で飼うなら召喚契約をした方が良いし、カケルっちなら、痛みを与えることなく倒せることも知っている。だけど――――


「あのな、モフラがいるかもしれないんだよ」

「……モフラ?」


 モフラのことをカケルっちに話す。


 本当はモフキャット探しは単なる口実。アルゴノートは、モフラと最後に別れた土地なんだ。


 もしかしたらという甘い空想に抗えなかった。モフラにもう一度会えるかもしれないのに、我慢なんて出来なかった。


「うえっ!? か、カケルっち? な、なんで泣いているんだよ!?」


 カケルっちが私を抱きしめる。ふぇっ!? よく分かんねえけど、ラッキーだな。


「こんなん泣くわ!!」


 美琴まで泣いてんのかよ! 異世界人涙腺ゆるいな!! ふふっ。

 


「まったく……最初から言えば良いのにね?」

「本当だよセシリア」

「まったく、水くさいのじゃ」


 シルフィ、サラ、エヴァ……ありがとな。


「よし、モフラを探せ作戦に変更だ!!」

「「「「おおー!!」」」」


***


「……で? これに何の意味が?」


 なぜか異空間に連れ込まれて、全員で裸でハグしまくっている。別にエロいことをしているわけではない。いや、私はしても構わないんだけどな? 


「セシリアさんの匂いを身体にすりこんでいるんですよ。モフキャットは鼻が利くんでしょう?」

 

 なるほど……もし、モフラが私のことを憶えているなら、有効かもしれないけど、匂いが混ざるだけじゃないのか?


「俺たちには消臭の魔法をかけてありますから、実質匂いはセシリアさんです」


 むう……なんか微妙に恥ずかしいんだが。


「せ、セシリア、もっとこの辺にも匂いをお願い……」


 変な空気になってるのは、大体お前のせいだぞ美琴。



 全員実質私の匂いになったところで、異空間から出る。



「じゃあ、ナギ、匂いの拡散をお願い!」

『はいはーい。この風の大精霊様にお任せあれ~』


 シルフィが風の大精霊ナギを呼びだすと、牛乳の匂いと私たちの匂いを拡散し始める。


 これで上手く誘い出されてくれると良いのだけど。


「よし、打てる手はどんどん打って行くぞ。エヴァお願いできるか?」

「任せるのじゃ。セシリア、血を少しもらうぞ?」


 はう!? エヴェがカプリと首筋に噛みついて吸血する。凄まじい快感に立っていられなくなる。


「ち、血なんて、何に使うんだエヴァ?」

「ふふふ、この後の展開で必要になるんじゃ」


 意味深に笑うエヴァが怖い。何だろうこの胸騒ぎは?


「はは、そんなに心配しなくて大丈夫だ。ちょっとセシリアのピンチを演出しようと思ってな? 賢いモフラならば、駆けつけるかもしれない」


 ん? 私のピンチ? そんな馬鹿な。もう10年も前の話なんだぞ?


「ところで、セシリアがこの世で一番嫌いな生き物はなんだ?」

「そうだな……触手モンスターかな?」


 うっかり答えたあとで、カケルっちの黒い笑顔を見て後悔する。え? まさか……うそだよね?




「ち、ちょっと待て、さすがに気持ち悪いんだが……!?」


 メタモルフォーゼで触手モンスターに変身したカケルっちが迫ってくる。本物じゃないと分かっていても、生理的な気持ち悪さは消えない。というか変身リアルすぎるだろ!?


『ふふふ。往生際が悪いぞセシリアさん。ほれほれ~!!』


 無数の触手が襲いかかってくる。くっ、なんて速さと数だ、とても避けきれない!!


 あっという間に全身をぬるぬるの気持ち悪い触手で拘束されてしまう。


「い、いやあああああああ!? き、気持ち悪いいいいい!?」


 美琴が息を荒くしているが見なかったことにする。っていうかそんなことに構っている余裕は無い。



「……ノリノリね、貴方様」


 違うぞシルフィ、カケルっちは、私の為にあえて汚れ役を……いや、趣味だな。


「ずるい~、次はボクだからね貴方様!!」


 できるなら今すぐ代わってやるぞサラ。


「くっ、目が離せないではないか……」


 いや、さっきの血を使えよエヴァ。ガン見している場合じゃないだろ!?


「ヒルデガルド、あれはメイドの日課に取り入れるべきだと思うのですが……?」

『そうですね。私もメイド教育の一環として早急に取り入れることを進言します』


 お前ら……なんでもメイド言えば誤魔化せると思うなよ!?


「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 美琴……正気に戻ってこい!!


『ふっ、ふっ、ふっ、そろそろ仕上げと行こうか。覚悟はいいかな?』


 くっ、ツッコミ入れている場合じゃなかった。な、何をするつもりなんだ……ドキドキ。


『ククク、これを飲んでもらおうか……』


 ま、まさか……この匂い、気色悪い緑色のどろっとした液体。ま、マンピーか!?


『そうですよ。セシリアさんの大っ嫌いなマンピー100%のジュースです』

「や、止めてくれ……た、頼む、何でも言うことを聞くから、マンピーだけは勘弁してくれえええ!!」


 必死に口を閉じようとするが、触手によってくすぐられるので、口が開いてしまう。


 迫るマンピージュース。もう駄目かもしれない。


「いやあああああああああああ!? 助けてモフラあああああああ!!」



『にゃあああああああああ!!』

『ぐはああ!?』


 突然黄金色のモフモフが、飛び込んできて、触手モンスターをなぎ倒す。


 さらにそのモフモフが鋭い爪で触手を切り裂くと、悪魔のジュースは地面に落ちて大地の栄養へと変わるのだった。


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i566029
(作/秋の桜子さま)
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