神狼さまの住処を探せ
「おおっリブラおばさま、無事だったんだね――――ぐぼぁ!?」
リブラさまにみぞおちを抉られてのたうち回るパパ兄さまこと妖精王フェリル。
「何か言った? フェリル?」
「な、なんでもないよ、リブラ姉さま」
「ふふっ、そう? それから、私、英雄さまのお嫁さんになるからね」
「うえっ!? カケルくんの――――ぐぼぁ!?」
「何か言った? フェリル?」
「か、カケルおじさんの――――ぐぼぁ!?」
「よく聞こえなかったんだけど? フェリル?」
「か、カケル兄さまのお嫁さんですか?」
もう何がなんだかわからないよ。リブラさま。
「んふふ、そうなんだよね。あ、ケルトニア半分もらうね? 私と英雄さまの庭にするから」
「いや、さすがに半分は――――ぐぼぁ!?」
「よく聞こえなかったんだけど? フェリル?」
「で、では、リブラ姉さまと、アリエスと、フェリスとリリカと合わせて4分の1と港町フェアリーでどうかな……?」
「ふーん、まあそれでいいよ。領地とか興味ないし」
興味ないならなぜ!?
「た、頼む……早くリブラ姉さまを連れて行ってくれカケル兄さま」
「いや、なんか大変ですね。わかりました。すぐに」
再会の喜びもそこそこに、あてがわれた部屋へ戻る。
『ルル……もふもふ』
『もふ……ルルルル』
中では、妖精巫女の二人が、ルルさまをモフっていた。くっ、うらやましい。
「こ、これは……ルクスさま、ラクスさま!? ご無沙汰しております、リブラです」
さすがのリブラさまも、原初の妖精には態度が変わる。
『ひさしぶり……リブラ』
『りぶらぶり……ヒサシ』
ヒサシって誰だよ!?
***
『というわけで、我は母さまのところに帰りたいのだが……』
もともとルルさまは、里帰りのために付いてきたのだったからな。俺たちがゴタゴタしていたせいで、タイミングを逃してしまったのだろう。悪いことをした。
『そこで英雄、お前に頼みがある』
ルルさまが俺に頼み? ブラッシングかモフるぐらいしか思いつかないが。
『実はな……里帰りが許されるのは、番を見つけたときなのだ。だから……その……』
なるほど、番、つまり伴侶がいないと里帰り出来ないってことか。
「ふふっ、わかった。ルルさまさえ良ければ、俺がその番になってやるよ」
『ほ、本当か!! 良かった……これで母さまに会いに行ける……』
ちぎれんばかりに尻尾を振るルルさまをモフる。
『え、英雄……もう番なんだから、好きなだけ……モフっていいぞ』
マジですか!! 言われなくてもモフっていたけど、公認モフはまた格別だ。なんといっても安心感が違うし、際どい部分のモフも可能になる。悔しいことに、際どいところほど、手触りがよく、極上のモフが楽しめるのだ。これは大きい。
外はすでに暗くなり始めているが、夕食会まではまだ時間がある。
「ルルさま、行こうか?」
『うむ、すぐに準備をするから待っておれ』
準備? ルルさまは特に持ち物とかないはずなんだけどな? あ、やべえ、ご挨拶の品用意していない。
「なあルルさま、お前の母さまにお土産いるよな?」
『……さあ? いらないのではないか?』
『英雄……ララの好物は魔力』
『英雄……ララの好物はお前』
なるほど、俺がお土産……んふふ悪くないかも。
「御主兄様が毛がらわしいことを考えてますね」
『はい、神狼をモフろうとか企んでいますね』
やめるんだお前たち。何も間違ってはいないが、その通りだが。
***
『お待たせ、英雄』
部屋の外で待っていると、白髪金眼のワイルドな美女が出てくる。
浅黒い肌と引き締まった身体は、まるで肉食獣のように獰猛な印象を与え獲物を射殺さんとする瞳の鋭さは、間違いなくルルさまそのものだ。なんというかひたすら美しい。
『ど、どうだ? 初めて人化したから変な感じなんだが……』
衣装はミヅハが用意したのだろう。長いすらりとした手足と肉体美を活かすために、布地は最低限。おへそも丸出しで割れた腹筋が野生的な魅力を強調している。
「うん、綺麗だな。見惚れてしまう」
『ふぇっ!? そ、そうか……ならば良かった』
照れ臭そうに腕をガシガシかじるルルさま。ワイルドな見た目とのギャップに萌えてしまうが、俺じゃなければ腕無くなっているからな?
『こんな事するのお主だけなんだからな?』
可愛い。可愛いんだけど、使い方がおかしいぞルルさま。
「それで、ララさまが住んでいるところは、ここから近いのか? たしか中心部に住んでいるんだよな?」
『…………多分』
「ルルさま!? もしかして分からないのか?」
『うむ。来てみればわかると思ったが、景色も変わっている上、匂いがしないのだ』
まいったな。パパ兄さまに聞いて見るか?
「ふふっ、お困りのようですね? 私がご案内いたしますので、ご安心ください」
「パルメ! 助かるよ、フェリスが気を利かせてくれたんだな?」
妖精王女フェリス付きのメイド妖精パルメ。才色兼備のスキル持ちの凄腕だ。当然このレガリアの事なら知り尽くしているだろう。
「いいえ、私が気を利かせて、黙って出てまいりました。バレると付いてくるとか言い出しかねませんからね!」
「そ、そうか、助かる。それでパルメは知っているんだよな?」
「正確には知っていたですね。神狼さまは、3日に一度住処を変えますので」
「マジか……」
「ご心配なく。最後の住処は把握しておりますので、そこからルルさまに匂いを辿っていただけば……おそらく」
たしかにそれしか方法はなさそうだな。
「ところでパルメはそこで良いのか?」
背中におぶさり、首に腕を回すパルメ。
「はい、ここが世界で1番安全で心地よい場所ですから」
うむ、俺にとっても1番感触が楽しめる場所だからな。
『ほれ、英雄は我に乗るが良い』
「いや、でも……」
『遠慮などするな。2人乗せたぐらい、ビクともせんわ』
いや……そうじゃなくてちょっと恥ずかしいかな〜なんて。
***
「英雄さま……恥ずかしいのですが!?」
「耐えるんだパルメ。あと少しの辛抱だ」
女性におぶさる2人の男女は、街中の注目を集めながらララさまの住んでいた場所を目指すのであった。