スク水は二度美味しい
「というわけで、長い間世話になったね、ゴロゴ」
俺たちと外へ出ることになったリブラさまが老人に別れを告げる。
「そうですか……いよいよリブラさまも、年貢の納め時ですね?」
「ふふふ、この英雄がどうしても私がほしいと言うのでね。かわいそうだから、私がお嫁さんになってあげたのだよ」
「ふふっ、それはようございました。みなさま、どうぞご達者で」
「あれ? ゴロゴさんは、一緒に行かないのか?」
「私は禁書庫の妖精ですからね。ここから離れては生きていけませんし、この場所が好きなのですよ。これからは、最下層以外にも行けるようになりましたから、忙しくなりそうです。まずは、リブラさまがいらっしゃった部屋の片付けからですね」
「う……それは、すまん」
最下層に張られていた結界が解除されたことで、ゴロゴさんも最下層以外にも行けるようになった。心底嬉しそうな笑顔に安堵する。心なしか若返っているようにもみえるな。
***
「リブラさま、初めまして。妖精王フェリルが妻、レーニャです。こちらが娘のリリカ」
「初めまして。リリカと申します。この図書館の司書を務めております」
最下層から戻ってくると、まさかリブラさまが一緒に出てくるとは思っていなかったらしく、大慌てで自己紹介をする二人。っていうか、レーニャさん普通に喋れるんだね。
「うんうん、二人ともよろしくね。へえ……あのフェリルが王さまなんだ。時代が変わったんだね……」
そりゃあ400年も地下に籠ってたらな。
『ねえねえ、カケルさん……なんでリブラさま、スク水着てるんですか!?』
リリカが耳打ちしてくる。くっ、やはり気付いたか。全裸はマズイということで、俺が持っている服を並べたら、リブラさまが選んだんだ。もちろん俺の趣味だが、あわよくば、もしかしたらという淡い可能性に賭けたのは事実だけれど、選んだのはあくまでもリブラさまだから!!
「…………そのお洋服素敵」
レーニャさん!? それお洋服じゃないですよ!? っていうかその話題に触れないで!!
「んふふ、だよね、だよね? この服から強い想いを感じたんだよね。英雄さまの熱く、たぎるような欲望を……これを選んで大正解だったよ。さっきから彼の視線が激しくてとろけそうなんだ」
うっとりした表情で余計なことを語りだすリブラさま。恐るべし大妖精。
「……カケルさん、ああいうのが好きなんですね?」
「違うぞリリカ、ああいうのも好きなんだ」
誤解は熱いうちに解く。これは基本だ。わずか一字違いだが、それの意味するところは大きく異なる。リブラさまだからこそのスク水であって、リリカには女教師の格好をしてもらいたい。つまりはそういうことだ。
***
一般開放エリアに戻ると、みんなが黙々と本を読んでいた。まるで試験前の図書室のようだ。
周りの迷惑にならないように、念のため周囲に遮音結界を展開する。
「ああっ!! 先輩おかえり! うはっ!? スク水幼児体形ロリ妖精キタああああ!?」
絶叫する美琴。やはり遮音結界張っておいて正解だったな。ひそかに自画自賛する。
「本の大妖精リブラ=ケルトニアだよ。みんなよろしく!!」
リブラさまは、とても引きこもっていたとは思えないほどのコミュ力を発揮している。おそらく、その手のノウハウ本で手に入れた知識を活用しているのだろう。
「もちのろんだよ、リブラさま。さっそく仲良くしましょう!!」
間髪入れずにリブラさまに抱き着いて、スク水にすりすり頬ずりする美琴。くそっ、俺もまだやっていないのに……
「ひぃう!? な、なにをするんだ勇者さま?」
「これが異世界の仲の深め方です。ご存知ありませんでしたか?」
「え? も、もちろん知っていたさ。そ、それじゃあ私もすりすり……」
「うはあ!? ロリ妖精すりすりの破壊力……」
恍惚な表情を浮かべる美琴。
「くそがっ!? このゴーグルのせいで、せっかくの貴重なシーンが見えない!!」
苦悶の表情を浮かべるベルトナー。音声でお楽しみください。
「…………おいで、ママですりすりして?」
「か、駆さん? すりすりして……いいよ?」
すでにスク水に着替えているレーニャさんとヨツバが俺に助け舟を出してくれる。ぐふっ!? ママなのにスク水、サキュバスにスク水。なんだこれ最高かよ!!
『並行動作!!』
おなじみの神級スキルを惜しげもなく使う。使ってこそのスキル。こういうときのために、神々がつくりたもうた奇跡だろう。
レーニャママと、ヨツバの合成繊維の肌触りを同時に堪能する。馬鹿な、同じスク水のはずなのに、ここまで違いが出るとは……実に興味深い、もっと詳細なデータが必要だな。
『認識阻害』
念のため、認識阻害の結界も展開する。未来予知が発動したのでね。
「だ、旦那様、私もその異世界の服を着るぞ!!」
「わ、私もお願いする!!」
「カケル殿、私もその戦闘服が欲しい」
うおお! セレスティーナとネージュ、ミヤビの姫騎士団長軍団のスク水……もはや空想上の生き物だろ!
「御主兄様、私もお願いします!!」
ふふふ、そんなこともあろうと、尻尾穴があるスク水あるよ。
『カケルさま、私も尻尾穴付きでおねがいします』
ヒルデガルド……それは危険じゃないのか? 用意するのはやぶさかではないけれども、んふふ。
「英雄さま、私たちもぜひ……」
アリエスとノスタルジア、聖女とお姫様にスク水を着させる背徳感。甘んじて天罰を受けよう。
「王子様、私の分はないんですか?」
馬鹿な……あるに決まっているだろう。サクラ、お前のは巫女バージョンの特別仕様だ。
「英雄さま、私たちも婚約者のはず、仲間はずれは嫌よ?」
「ち、ちょっとフェリス、私は別に……」
フェリス、パルメ、そしてリリカも観念したようにスク水を要求する。
特段言うまでもないことだが、俺は婚約者全員のあらゆる種類のコスチューム……いや、洋服や衣装を用意してある。時間が無いときは、分裂体が、異空間に籠って、制作しているのだ。死角などない。
「う、うそでしょ!? なんでこんな……」
リリカがびびっているのは、学生時代の自分のスク水だったからだろう。もちろん俺が記憶から再現したこだわりの逸品だ。
「うえっ!? や、やばすぎだよ先輩……本当に変態なんだから……もうっ!!」
当然、美琴のスク水も再現している。リアリティは大事な要素だからな。
『さあ、みなさん存分に楽しんでくださいね!』
全員が水着に着替えたところで、ミヅハが用意したプールで遊ぶ。しっとりと濡れたスク水は、また違う味わいがあって、2度美味しいのだ。まったく図書館最高だな。
「リリカ、いつの間にか、図書館もずいぶん変わったんだね……」
「いや、あの……これは違います」
助けを求めるリリカの視線をよそに、ビーチボールで遊び始めるカケルであった。