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まな板マッサージと本の妖精


「くらえ、『忘却の口づけ』」


 しまった!? ヨツバに気を取られた一瞬の隙をついて、リブラさまがキスをしてくる。


 馬鹿め、二度と同じ手を食うか! こんな蚊が止まりそうな攻撃目をつぶっていてもかわせる……いや、駄目だ。俺が避けたらヨツバに当たってしまう。


 くそっ、なんていやらしい攻撃なんだ。そうか! あえて全裸なのも、俺の視点を分散させることで、本当の狙いを悟らせないという深謀遠慮……なんだ? 何が狙いなんだ。


 だが、俺も英雄のはしくれ。小手先で探り合うような戦い方はしない。すべて受けきった上で打ち破る。それが英雄たる俺の戦い方だ。


 こいっ!! そのキスを受け止めてやるぜ。


「ん……んんん!? んむむむっ!? にゃ、にゃぜだ? にゃ、にゃぜ記憶が吸えないんだ!?」


 ふふふ、やはり記憶を吸い出すスキルだったか。分かりやすいスキル名を叫んだのが敗因だったな、リブラさま。悪いが俺には記憶系のスキルは効かないんだよ。


「くっ、万策尽きた……これまでか」

 

 諦めるの早っ!? っていうか、現在進行形で色々俺たちに見られているんだが、それは良いのか? いまだに全裸なリブラさまを見て困惑してしまう。 


「う、うう……うわああーん、どうしよう……私の初めてのキスだったのに……もうお嫁にいけないじゃないか!」


 ええ……そんなに大切なものを攻撃に使っちゃったんだね。うん、これは受け止めた俺が悪い。これは責任を取らなければなるまい。 


「リブラさま、ご安心を、俺が貴女をお嫁さんにしますから!」


 ピタッと泣き止むリブラさま。


「う、うう……うわああーん、駄目だよ、私は異世界の英雄さまと結婚するんだから!!」


 思い出したように泣き出すリブラさまだが、どうやら人の話を全く聞いていなかったみたいだな。


「あの、俺がその異世界の英雄なんですが……」

「ふえっ!? そ、そうなのかい?」


 確かめるように俺の顔をぺたぺた触りまくり、においを嗅ぎ、ぺろぺろなめ始める。そんなことでわかるのだろうか?


「……間違いない、驚いたな……もしかして私を迎えに来てくれたのかい?」


 別にそういうわけでもなかったんだが、せっかくだしその方がいいだろう。


「はい、一緒にここを出ましょう、リブラさま」


「はっ!? だ、駄目だ……駄目だよ、私はまだ実験の途中なんだ。今ここを出るわけにはいかないよ!!」 


 一瞬目を輝かせたリブラさまだったが、すぐに首を横に振る。


「実験? 一体なんの実験ですか? 俺なら力になれると思いますよ」 

「ほ、本当?……こ、これなんだけど……」


 恥ずかしそうに一冊の本を差し出すリブラさま。


「……駆さん、これって……」

「ああ、皆まで言うな。涙が止まらなくなる」


 タイトルは、『英雄から愛される身体をめざせ』


 ざっと読んだところ、異世界人は皆おっぱい星人で、大きい方が喜ばれると書いてあり、様々なバストアップの方法が書いてある胡散臭い本だ。


 くそっ、ふざけやがって、間違いだらけだ。俺はおっぱい聖人だし、小さいほうが嬉しい。一体どこの英雄に取材したんだ? 


「400年かけてあらゆる方法を試したんだけど、どれも効果が出ないんだよ。今試しているのが最後の方法なんだ」


 なるほど……それでさっき、まな板マッサージしていたんだな。あの本にグッジョブと言いたい。おかげで貴重なまな板が守られたのだから。


 嘘だらけの本に感謝することになるとは皮肉なことだな。


「リブラさま、これ、やり方が間違ってますよ? マッサージするのは自分自身じゃなくて、好きな異性にしてもらわないと効果が出ないんです」


「ふえっ!? そうなのかい? ど、どおりで……でも、好きな異性なんて……」


 チラチラこちらをみてくるリブラさま。ふふふ、可愛らしい。まるで妖精のようだ。


「良かったら、俺が実験に協力しますよ。だから一緒に出ましょう」


 これは実験。崇高な目的のための実験だ。しかもお願いされた立場での実験助手。断る理由なんてあるだろうか? いや、ない。


 本来であれば、まな板を愛する俺が実験に協力する必要などない。むしろ害悪ですらある。だって今のままが最高なんだから。


 でもさ……ずっと頑張ってきたリブラの想いをあっさり否定するような真似、出来るわけないじゃないか! 努力は報われるって信じたいじゃないか! たとえその結果、まな板が失われたとしても……きっと心からの祝福を贈るだろう。そう……俺の痛みなんてどうでもいいんだ。



「駆さんの中で、まな板マッサージが、まな板保護を上回ったんですね? そうですね?」


 ヨツバ……真実は時に人を傷つける刃となるんだぜ? ふふっ。


 だが、俺はそんなに甘い男じゃない。まな板マッサージでまな板が消失する可能性は限りなく低い。つまり、俺の真の狙いは、まな板マッサージとまな板保護の両取りだ。これなら、俺もリブラさまもハッピーでウインウインの関係ではないか。


「あ……でも、私、本の妖精だから、毎日違う本を読まないと消えちゃうんだよ。しかも……この図書館の本はもうすぐ読み終わってしまう……」


 なんてこった。最後にそんな罠があるとは……それじゃあ図書館から離れられないどころか、このままだと近いうちに死んでしまうじゃないか……いや、待てよ。


「大丈夫、本なら、毎日新刊を用意するから……ヨツバが!!」

「へ? はあああああ!? 無理無理、絶対無理だから!」


 慌てて否定するヨツバ。まあ、普通に考えたら無理だよな。


「ふふっ、実は抜け道があるのさ」


 要するに本になっていれば、内容もレベルも、ページ数も問われない。

  

「なるほど……それならいけそうだね」


 ヨツバも安堵の息を吐く。


 そうだ、せっかくだから、ヨツバのために出版社をつくるか。あと、家の屋敷にもでっかい図書館を作ろう。世界中から本を集めて、世界一の図書館にするんだ。ふふっ、ワクワクするな。

 


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i566029
(作/秋の桜子さま)
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