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襲撃者の正体


「ククク、ようやく貴女を手に入れることができる」


 暗闇から聞こえてくるこの声を、私は知っている。


「なぜ貴方がここにいるのよ、エリック?」


 エリックは、私の従兄、クラマー公爵家の長男だ。私の婚約者候補だった時もある。


「ふはは! 良い! 良いね!! やはり貴女の声は素晴らしい。ずっと聞いていたくなるね」


 暗くてよく見えない分、彼の息遣いが伝わってきて、極度に興奮しているのがわかる。


「答えなさいエリック、なんでこんな馬鹿なことを?」


 公爵家の人間といえども、王女に対して犯罪まがいのことをしているのだ、しかもおそらくこの罠、昨年宝物庫から盗まれたもので間違いないだろう。


 さすがに無罪とはいかないが、なにか事情があるのかもしれない。内容によっては、罪が軽くなるように働きかけることもやぶさかではない。


 だが、エリックはなにがおかしいのかわからないが、ゲラゲラ笑いながら私のすぐそばまで近寄ってきた。


「そんなの決まっているじゃないか、フェリス、君を手に入れるためだ」

「……婚約の件なら、以前お断りしたはずだけど?」


「わかってるさ、だからこうして捕まえたんじゃないか。君はもう私のものだ、永遠に……」


 すっかり高揚し自分の言葉に恍惚となるエリック。


「力づくで私をどうにかできると思っているの? 貴方だって私の力を知っているでしょう? 今なら許してあげるから、こんなことは止めなさい」


 きっと私の魅力のせいでおかしくなってしまったのだろう。であれば、彼も私の被害者のようなものだ。だからと言ってこんなことをしていいはずもないが、理解できないこともない。


「ククク、許す? 君のほうこそ、状況がわかっていないようだな。いいかい、この罠は、外部からの干渉は出来ないが、使用者のみ自由に出入り出来るんだ。こんな風にね!」


 そう言って、罠の内部に入ってくるエリック。


「……それ以上近寄るなら、容赦しないわ」

「ククク、怖い怖い、どう容赦しないのかな? やってみるがいい」


 仕方ない……言葉で止まれないなら、力づくで止めてあげる……


『龍覚醒!!』


 私の母は、遙か東の出身で、青龍という高位の妖精。その龍の血を受け継いだ私の覚醒時の戦闘力は100倍以上。悪いけど眠ってもらうわ。


「…………え? なんで? どうして?」


 龍覚醒できない!? それだけじゃない、魔法も、スキルも使えない……なんで?


「くはは! そもそも、君とまともに話せていた時点で気付かなかったのかなあ?」


 たしかにこの至近距離で、私と普通に話せているのはおかしい。まさか……


「やっと気づいたのかな、この罠の中にいる間は、魔法もスキルも使えないんだよ。つまり、君はただのか弱い王女様ってことさ! ははははははははははは!」

「そ、それなら、貴方だって同じでしょう!」


「強がりはやめなよ。使用者に制限がかかるわけないだろ? むしろ、中に入ると力が倍増するんだよ。抵抗するなんて考えない方が良い。できれば怪我はさせたくないからね」


「……貴方こそ、私を甘く見ないで! たとえ死んでも好きになんてさせないわ」


「……ふふっ、君ならきっとそう言うと思ったよ。だからこそ、手に入れたいんだけどね」


 にやりと口角を上げるエリック。


「レガリアの街の各所に、巨人族を召還する魔法陣が設置してある。君が大人しくしないのなら、今すぐ発動するけどいいかな?」

「きょ、巨人族!? 正気なのエリック、そんなことをしたら、レガリアだけじゃない、ケルトニアは滅びてしまうのよ?」


 レガリアは、外からの攻撃に対しては無類の防御力を誇るが、内側から攻められたら一巻の終わりだ。そうなれば、私の大切な家族や兄弟たちが……


「……わかったわ、大人しく言うことを聞くから、早く魔法陣を解除して!」

「それはできない。君を大人しくさせる切り札を捨てるわけないだろう? なあに、大人しくしてくれるんなら、発動させないから安心しなよ、ククク」


 なぜ、エリックにそんなことができるのかわからないけれど、おそらく嘘をついてはいないだろう。確認する術がない以上、賭けに出るわけにはいかない。 


 今は耐えるしかない。どんな屈辱を受けても耐えるんだ。悔しいけれど、今の私にできることはそれだけだ。時間さえ稼げば、パルメたちが魔法陣をなんとかしてくれるだろうから。


「ほほう、ようやく大人しくなったみたいだね。いいね、その調子で頼むよ? お楽しみはこれからなんだから!!」


 一体どうしてしまったんだろう。昔のエリックは優しい人だったのに。私のせいでおかしくなってしまったのか?


「そうだな……よし、フェリス、自分で一枚ずつ服を脱いで。ゆっくりだぞ、ひゃはははは!!」


 目が血走って、呼吸が荒くなっている。とても正気とは思えないけど、どうしようもない。


 ゆっくりと一枚ずつ着ている服を脱いでゆく。無理やり脱がされるよりは多少マシかもしれない。



「はあはあ……ひひっ……あとは下着だけだね。それは私が脱がすことにしようかな……」


 くっ、いよいよ覚悟を決めなければならない。悔しくて涙がポロポロ零れ落ちる。


「ククッ、良いね、その屈辱に歪む表情がたまらないよ。さあ、御開帳――――ぶべらっ!?」


 私に触れようとしたエリックがなぜか這いつくばって倒れている。


 

 え? え? 何が起きたのかわからない。


 突然ふわっと何かを肩にかけられる。それは見たこともないような上質なローブだった。


「フェリス殿下、お待たせしました。もう大丈夫ですよ」


 艶やかな黒髪に、吸い込まれそうな黒い瞳。


 その声は私の不安や恐怖を優しく包み込んでくれる。お日様みたいな笑顔に心の底から安心してしまう。まるで小さい頃に戻ったみたい……あの頃パパに感じたあの気持ちに似ている。


 ううん、似ているけど違う。そうか……これが本当の恋? 私、今恋してるんだ。


 信じられないけど、一目見て貴方に完全に参ってしまったのよ?


 そんな場合じゃないのにね。



 でも……やっと見つけた。私の憧れの人、私だけの英雄さま。   


  

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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