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異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収拾つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~  作者: ひだまりのねこ
第四章 エスペランサの攻防

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41 至難の撤退戦

 戦において、最も難しいとされているのが、いわゆる撤退戦だ。


 人的被害の多くは、撤退時に発生するため、最後尾を務める殿(しんがり)の働きが成否を決めることになる。


「すまない、サクラ、損な役回りだが、お前が一番適任なのだ」


 馬竜を駆けながら、隣を並走するサクラに詫びるセレスティーナ。


「なにをおっしゃいますか。セレスティーナ様に言われるまでもなく、最初からそのつもりでした」


 騎士団が撤退する時間を稼ぐのが、殿(しんがり)の役目だ。サクラの樹木魔法は、まさにうってつけであり、攻撃力は低いものの、時間稼ぎにこれほど適した能力もそうないだろう。


 全員が砦を脱出すると、無人になったことを悟られないように、ウッドゴーレムに砦を守らせ、大樹を幾重にも展開して砦が落ちるまでの時間を稼ぐのだ。


「サクラ、砦が落とされるまでに、出来るだけ距離を稼ぐぞ」

「はい、セレスティーナ様」


 エスペランサから、プリメーラまでは、町や村もすでになく、草原が続いている。サクラは、撤退しながら、草原の草を無差別に大樹化させて、少しでも魔物の進軍を遅らせる。何もなかった草原に、突然巨木の森が出現するのだから、サクラの能力は、まさに規格外の能力といえる。


 自らの後ろに森を出現させながら駆け続ける二人と二頭。


「このペースならば、じき本体に追いつけそうだな――む、何だあれは?」

「……道沿いに何か転がっていますね……石でしょうか?」


 近づくと、それが人の形をしていると気付く。無数の石像が並んでいたのだ。


「サクラ、状態異常を防ぐアイテムは身に着けているか?」

「もちろんです。これは……石化でしょうか。ひどい状況ですね」


 先に撤退したはずの騎士団員が、物言わぬ姿で石像になっていた。いかに歴戦の強者であっても、不意打ちで石化攻撃を受ければ、防ぐ手段などない。そもそも、石化をする魔物など、平地にいるはずがないのだ。


「ああ、どうやら、犯人は、コカトリスのようだな」


 コカトリスは、竜の体と翼を持ち、雄鶏の頭をした魔物だ。視線で石化させることができる邪眼を持ち、吐く息は猛毒を持つという非常に厄介で危険な魔物だ。


 問題は、本来ダンジョンに生息し、平地に出てくることはないと云われているコカトリスがなぜここにいるのかだが……。



「いたぞ……やはりコカトリスだ」


 視線の先にコカトリスと戦う騎士団の姿を見つけ、セレスティーヌが剣を抜く。


 ――【飛剣 オートクレール】――


 目にも止まらぬ斬撃が風を切り裂き100メートル先にいた、コカトリスの首を落とす。とさかのある頭が、毒を撒き散らしながら地面に落ちると、周囲の植物は枯れ、土が紫色に汚染されてゆく。


――【勇敢な獅子心(ブレイブハート)】――


 石化が解除され、毒に侵されていた者たちも回復する。


「みんな大丈夫か?」

 

 サクラが騎士団員たちに駆け寄ってゆく。


「っ!! サクラ危ないっ――飛剣!」


 サクラの首を狙った一撃が、飛剣によって弾かれる。


 

『おや……完全に気配を絶っていたんだが、よく気づいた――おっと危ない』


 攻撃を防がれた男は驚きに目を見開くが、セレスティーナが続けざまに放っていた斬撃を軽い動きで躱してみせる。



「サクラ、全員連れて逃げろ、こいつは……強い。誰かを庇いながら戦える相手ではない」


 セレスティーナは、サクラたちを背に、男と対峙する。


「っ!? わ、わかりました。総員退避だ。団長の足手まといになるな!」


 サクラを始め、騎士団員たちは素早くその場を離脱する。戦場において一瞬の躊躇が生死を左右することを良く理解しているからだ。



「……さて、貴様は何者だ? 先ほどのコカトリスは、貴様の仕業か?」


 サクラたちが撤退したのを確認しながら、男に問いかけるセレスティーナ。


『おやおや、これは美しい人間ですね。大人しく私のものになるというのなら、答えてあげましょうとも』


 いやらしい下品な笑みを浮かべながら、男はセレスティーナの全身を舐め回すように見定める。


「ふふっ、貴様のような豚のものになるぐらいなら、オークの方が幾分かマシというものだな」



『気の強い女は嫌いです。せっかくの情けを無駄にしたことを後悔しながら死になさい。まあ、楽には殺しませんがね。そうですよ、私がコカトリス……というより、今回の攻撃を指揮している、魔人帝国のヴァロノス男爵です』


 男は、額に青筋を浮かべながら、般若のような憤怒の表情でセレスティーナを睨みつける。


「……魔人帝国? 聞いたことがない国だが……」


『すぐに大陸中の国々が、我々魔人帝国の名を知ることになりますよ。もっとも、その時、貴様ら下等な人間どもは、使えそうなやつなら奴隷か家畜、それ以外のクズは魔物のエサになりますけどね」   



「なるほど。わからないことだらけだが、貴様らが倒すべき敵だということだけは、よくわかった。逃げられるとは思わない方がいい。目をそらすなよ、一瞬で終わらせるからな?」 


『ふん……たかが人間風情が、我ら魔人種、それも貴族種の力を舐めない方がいいですよ? 貴方方の貧弱な武器では傷一つ――ぎゃあああ』



 セレスティーナの持つ魔剣イルシオンは、アストレアに伝わる4振りのうちの一つ。魔力を通すことで、重量という概念は無くなり、鳥の羽より軽くなる。神速の白姫と呼ばれたセレスティーナが持つことで、その特性を最大限発揮される。



 ゆえに、その剣が鞘に納められた時には、ヴァロノス男爵の身体は、すでに真っ二つになった後であった。



「気に病むことはない、これを初見で躱せるものなど存在しないのだから……」


 逆に言えば、セレスティーナは最初から本気で倒しにいったということ。一撃で倒さないと不味い。それほど、ヴァロノスからは危険なものを感じたからに他ならない。



***



「早く皆と合流しなくては……」



――ザシュッ!!――



「――ぐぅッ?!」


 歩き始めたセレスティーナの左手の、肘から先が切り落とされた。レスカテの甲冑の効果で、傷口が塞がり、血が止まる。


『……とんでもない反射神経ですね? アレを躱すとは。完璧なタイミングで首を落としに行ったんですが……おまけに、傷口まで塞がってますね』


「貴様……なぜ生きている?」


『なぜって、私たち魔人と下等な人間を一緒にしないで下さいよ。複数の命を持つのですよ、我々は!』


「……良いのか? そんな重要な秘密、敵にベラベラ喋ったりしても?」

 

『構いませんよ、どうせ貴方は……ここで死ぬのですから! 絶対に許しませんよ、下等な人間が、よくも私の大切な命を――』


 視線で殺さんばかりに、睨み付けるヴァロノス。


「一度で死なないのなら、何度でも倒すまでだ。その様子を見る限り、どうやら失った命は戻らないのだろう?」


 傷口は塞がっているが、失った血と左手は戻らない。余り長引かせると不利になる。


(ごめんなさい、旦那様。こんな手では、もう貴方の隣で戦えないし、料理も作ってあげられない……)


 でも、こいつだけは、私がここで倒さなければならない。たとえ私の命と引き換えにしたとしても。


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i566029
(作/秋の桜子さま)
― 新着の感想 ―
[気になる点] 石化をする、じゃなくて石化させる、が適切じゃないかなぁ?(;'∀') [一言] そしてなんちゅうやっちゃ(;゜Д゜) まるで猫やないか(;゜Д゜)
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