サーヤの新しい家族
「サーヤ、みんな俺の家族だ。大変かもしれないけどよろしくな」
英雄さまはたくさんのお嫁さんたちを連れて帰ってきました。ふふっ、賑やかで楽しいのです。
ですが、困りました。私はお留守番とお掃除しか出来ないのです。
『大丈夫ですよ、サーヤ。私が色々と教えてあげます』
ヒルデガルドさんは、とても優しい。とても冷たい感じなのに温かい。不思議な人。
「サーヤさん、絵本読み聞かせしてあげますね」
アリエスさんはきっと王女さま。だって他の妖精とは全然違うもの。ふふっ、絵本自分じゃ読めないから嬉しい。
「サーヤは本当にすごいな。屋敷中ピカピカじゃないか……」
セレスティーナさんはとても真っ直ぐでまぶしいくらい。別に褒めてくれたからじゃないのよ?
「サーヤなら、素晴らしい専用メイドになれそうですね。特別に許可しましょうね」
クロエさんは不器用だけど、温かい人、なんかモフモフした感じ? 専用メイドってなんだろう。
「サーヤ、戦い方を学びたくなったら、私に声をかけなさい」
ミヤビさんは……うう……優しい人だけどなんか怖いです。戦うなんてもっと怖いから声をかけることはなさそうね。
「サーヤさま、私とお友達になってください」
ノスタルジアさんはどこまでも純粋で、悪意が欠片も感じられない。生まれて初めてのお友達……ドキドキするの。
「サーヤ、私も貴女の友になりたい。よろしく頼みます」
「サーヤ、私もぜひ」
ハクアさんは半妖精? ネージュさんは精霊に愛されているとても綺麗な魂。ふふっ、お友達たくさん。
「サーヤ、私たちは、今日から一緒にこの屋敷を管理することになるからよろしくね」
ノルンさんとキラさんはこのお屋敷の管理がお仕事なのね。私には広すぎるお屋敷だから良かった。
「仕方ないから、私もここに住んであげるわ」
…………カトリイヌさんは確か泥棒猫……でもお嫁さん……どうしよう?
「サーヤ、カトリイヌは知らなかっただけなんだ。仲良くしてやってくれ」
『あい、英雄しゃま!』
英雄さまだけを信じれば良い。とても簡単、私はこの屋敷と英雄さまが居ればそれで良いの。
「サーヤちゃん、よろしくな」
ハクシさんは、妖精にもてそうな感じ。男の人は苦手だけど、この人は怖くない。もちろん英雄さまは別格なんだから。
「サーヤ、俺がベルトナーで、こっちがリッタよろしくな」
リッタさんはいいとして……うっ……なんて邪悪な……
『アリエスさん、助けて、邪悪なものがいます!!』
思わず助けを求めてしまう。
「任せて 『煩悩退散』!!」
「ぎゃああああああああ!?」
邪悪なベルトナーさんが消えてゆく。
「きゃああああああああ!?」
何故か勇者さまも消えてゆく。
ふふふ、悪は滅びるのです。
***
みんながお茶している間に、外壁と荒れ放題の庭を何とかしないとな。
「む〜、それでサクラを呼んだんですか? 私は都合の良い女なんですね?」
ぷくっとむくれる可愛いサクラ。ケルトニア行きに参加出来なくて拗ねているらしい。
「ああ、サクラにしか頼めないことなんだ。頼む」
「……サクラのこと、愛してますか?」
「愛してるよサクラ」
「……証明して下さい」
サクラの期待に揺れる桜色の瞳。桜色に染まる磁器のような白い肌。
神速で抱きしめ、わがままな口を塞ぐ。そのまま異空間の部屋へ連れ込んだ。
「ふふっ、サクラ、とっても頑張りたい気分です!! すぐ終わらせますから、私も連れて行って下さいね、王子さま」
呼んでおいて連れて行かないなんて可哀想な事は出来ないし、仕方ない、連れて行くよ。
さてと、庭はサクラに任せて外壁を手直しするか。
とはいえ、内部もそうだが、さすがは英雄の屋敷。ほとんどの機能は生きていて、やることは少ない。
水回りの手直しと拡張、寝具と食器などの追加、食糧の備蓄をしたぐらいだ。
後は留守中の警備だな。サーヤの結界があるから大丈夫だとは思うが、留守番メンバーは基本的に非戦闘タイプ。不安しかない。
『クラウス、イライザ』
オークエンペラーのクラウスとクイーンワイバーンのイライザを召喚する。
『警備ならお任せを』
やはりか。超絶イケメン野郎が出てきた。あれか? オークエンペラーになるとイケメンになるのか?
『…………主様? ようやく呼んでいただけましたね? まさか……忘れていたとか……?』
元イレブンの騎竜であるイライザが、氷のジト目で俺を抉ってくる。
ぎっくう!? は、ハハ、そんなことあるわけないじゃないか!
「馬鹿なことを言うなイライザ、そんな訳あるか」
『……なぜ目を逸らすんですか?』
「イライザがあんまり綺麗だから直視出来なくて……あと、お前、何で裸なんだ?」
ラベンダー色の髪と瞳の超絶美少女イライザだが、全裸だ。不幸なことに、大事な部分は髪で隠れているが、その美しいまな板ラインは隠しきれるものではない。
『ひいぅ!? クラウス! み、見るなああああああ!!』
『み、見えてない、見えなかったんだって、ギャアアあああ!?』
隣でガン見していたクラウスをボッコボコにするイライザ。
そんな光景をしっかり記憶フォルダに収める俺。止めないよ? 怖いし、殴るたびにチラ見えするまな板を鑑賞するのに忙しいからね?
「お疲れ様、イライザ。特製のメイド服だ」
イライザの為に今作ったメイド服を渡す。
「着方が分からないだろうから、俺が手取り足取り……え? 大丈夫? そうか……」
「おおっ! 似合っているぞイライザ」
『あ、ありがとうございます……あの……主様にお願いが……』
急にしおらしくなるイライザ。よし、何でも言いなさい。
「……力が欲しいか?」
『!? は、はい、欲しいです!!』
「……分かった、付いてこい」
イライザと異空間に消える。言うまでもないことだが、もちろん修行のためだ。
***
「じゃあ行ってくる。サーヤ、ノルン、キラ、カトリイヌ、留守を頼む」
「「「「行ってらっしゃい!!」」」」
屋敷を出て、妖精門へ向かう。
妖精門は、ケルトニアへ外部から入るための唯一の入り口だ。
『許可証が無くても、門番が認めれば通れる可能性はありましゅ!』
リッタの話だと、門番には独自の判断で通行を認める権限があるのだという。ただし、門番によって基準は異なり、王の許可証を取る方がずっと難易度は低いようだけれど。
まあ、どうせ駄目元だからな。
優しい門番だといいなあと思いながら、妖精門を目指すカケル一行であった。