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タダより高いものはない


「先輩……楽しかったね」

「ああ……楽しかったな」


 帰りは転移を使えば一瞬で戻れる。最後にショタランドの景色を目に焼き付けてからでも遅くない。不思議なもので、初めて訪れたこの国が、今では母校のように愛おしい。


「また来ような」

「また来ようね」


 それ以上言葉はいらない。さあ、帰ろう、港町フェアリーへ!



***



「というわけで、お嫁さんになってくれるか? ノルン、キラ」


 いつもなら、「あんなことされたんだからお嫁さんになるしかない」とか言われるのがテンプレな俺だが、お風呂に入ってキラキラモフモフになった二人を見たら、自然にそんな言葉が出ていた。


「ふえっ!? あ、ああああの、なにがというわけなのかわかりませんが、わかりました」


 快く承諾してくれるノルン。


「あわわわわわ……ガクッ……」

「きゃああ!? キラ? しっかりして、キラ!」

 

「ノルン、大丈夫だ、彼女はそんな軟じゃあない」


 全部盛りをためらいなく発注してきた彼女のことだ。きっと何か意味が……はっ!? なるほどな……そういうことか。ただ起こすだけじゃだめなんだよな? キラ。



「ノルン……これから俺は、モフ全部盛りをする。これはキラが望んだことなんだ」

「き、キラが? でも、も、モフ全部盛りって一体……!?」


 王女様には刺激が強すぎるかもしれない。世の中には知らない方がいいことだってある。


「ノルン、もし見たくなければ、見ない方がいい。刺激が強すぎると思う」

「……英雄さま、私はこれでも王女です。最後まで目を離したりなんてしませんわ!!」


 しまったな。言い方を間違えたかもしれない。彼女のプライドを刺激してしまったことを悔やむ。


「わかった……それじゃあ始めようか。モフ全部盛りを!!」



***



 目の前で行われているのは一体何なのだろう? なぜ、私は最後まで見るなんて言ってしまったのか?


 いいえ、本心を隠すのは良くないわ。私は魅入られてしまっている。この『モフ』とやらに心を奪われてしまっている。


 ああ、す、すごい……キラの毛があんなになるなんて……え? そ、そんなところまで!? しかも、そんなに丁寧にねちっこく? ふわあ……見ているだけでおかしくなってしまう。


 もう駄目、私もしてもらいたい。早く、早く起きなさいキラ!! ってよく見たら、あの子ばっちり起きているじゃない! くっ、少しでも長く楽しもうとして……やるわね。


 あ……英雄さまの手がとうとう尻尾に……そこは駄目です! 一番弱いところだから……はっ!? ま、まさか……だからわざわざ最後まで触れずに残しておいたのでは? お、恐ろしい。もし、自分がキラの立場だったら、絶対に耐えられない。


「うはああああああああああああああ!?」


 尻尾をモフられたキラが絶叫し、そのまま気絶する。


 再び意識を失ったキラに対して、今度は目覚めのキス? くっ、なんという憧れのシチュエーション。やはりキラは天才。悔しいけれど認めざるを得ない。


 でもね、私にだって出来ることはある。貴女が敷いた道に沿って歩くことなら出来る。これまでのように、そしてこれからもずっと。



 だから……ね。私は今度もこう言うのです。


「英雄さま、私にも……モフ全部盛りして?」



***



 ノルンとキラを連れて飲食スペースに戻る。


 みんなに二人の紹介をしていると、ようやくリッタが戻ってくる。


 頭部が隠れているので、入国許可が下りたのかどうか、表情から見て取ることはできない。実に不便である。


「お疲れさま、どうだったリッタ?」

『申し訳ございましぇん。やはり王の許可証がないと、全員は難しいそうでしゅ……』


 やはりそうか。まあ、そんなに簡単に部外者を入れるわけにもいかないだろうしな。


「そうか、まあ気にするな。最悪入れるものだけ先行して許可証をもらえばいいだけの話だ……って何しているんだ?」

 

 いつの間にか俺に抱き着いているリッタ。


『ありがとうございましゅ……疲れたので、英雄しゃま成分の補給でしゅ!』


 ……そうか。それなら仕方ないな。


『でも物件の方はバッチリでしゅ。英雄しゃまに恥ずかしくない立派なお屋敷を手に入れたでしゅ』


 あんまり立派だと維持管理が大変そうだけど、何でも良いって言ったの俺だし文句も言えない。


 とりあえず、ゲートを設置するため、みんなで物件を見に行くことになった。


 


『という訳で、屋敷の鍵を下さい、カトリイヌ姉さま』


 やって来た不動産ギルドで屋敷の鍵を要求するリッタ。どうやら受付の女性はリッタの姉らしいが……


「先輩……追加モフキタこれ」

「ああ……見事なモフが来たな……」


 そう、受付の彼女は猫の妖精ケット=シーだったのです。名前はイヌだけど。


 漆黒の艷やかな体毛。胸周りには毛が無く、真っ白な磁器のような肌が、見事なまな板へと視線を誘導する。


 幸いリッタに集中しているおかげで、ガン見していることに気付かれることはなかったが、この奇跡のような造形を生み出した女神に感謝せざるを得ない。


「ん? 屋敷って、もしかして、あのいわく付きの物件購入したのって貴女なの!?」 


 あれあれ? いわく付きって……  

 

「……リッタ?」

『ふぇっ!? し、知らなかったでしゅ! やたら安いなあとは思いましたでしゅけど……私の魅力のせいかと……』 


「だよな! リッタに頼まれたら俺ならタダにする自信があるぜ!」 

『べ、ベルトナーあああ!』


 ひしと抱き合うリッタとベルトナー。


 愛されてるなリッタ。


 ま、まあ、何とかなるだろう。聖女アリエスもいるし? 


「カトリイヌさん、代金を支払わせて貰います。鍵をいただけますか?」

「…………」


 ポワーっとして俺を見つめるカトリイヌさん。どうしたんだろう?


「あの?」

「ふぇっ!? あ、貴方は?」

「異世界から来た英雄カケルです。宜しくお願いします、カトリイヌさん」


「え、英雄さまでしたか……そ、そそそうですね、お代は結構です。いわく付きですし」


 え? マジで? 良いのかな……


『あ、あのビタ一文値引きしない事で有名な守銭奴のカトリイヌ姉さまが……!?』

「う、ウルサイわね、リッタ!」


 だが、世の中そう上手くはいかない。タダより高いものはないのだ。


 嫌な予感がするカケルであった。


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i566029
(作/秋の桜子さま)
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