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勇者の生きざまとモフモフ開化


「英雄殿、勇者さま、我が国を救っていただきありがとうございます」


 恭しく頭を垂れるのは、ショタランド連合王国国王ゴウホウ=ショタランド陛下。


 どう見ても、ただのモフモフわんちゃん子犬ショタですね、ありがとうございます。


「私からも御礼申し上げます。我が国、そして娘まで助けていただくなんて……返しきれない恩を受けてしまいました」


 恭しく頭を垂れるのは、ショタランド連合王国王妃ロリイヌ=ショタランドさま。


 どう見ても、ただのモフモフわんちゃん子犬ロリですね、ありがとうございます。



「いいえ、どうかお気になさらず、それが英雄の務めですから。なあ美琴?」

「ふえっ!? そ、そのとおり、勇者ならば当たり前!!」


 美琴よ、気持ちはわかるが、ガン見しすぎだぞ。かなり不審者になっとる。


「いや、それでは我々の気が済まぬ。何でも言って欲しい」


 まあそうだろうな。ならば、あらかじめお願いしようと思っていた件を切り出すか。


「では陛下、ノルン殿下と侍女キラとの結婚をお許しください」

「おおっ、それは願ってもないこと。むしろこちらからお願いしようと思っていたのだ。他にないか?」


「それでは、今後の交流のため、交易と定期便の就航をお願いしたい。船の手配や港の整備は俺がやります。場所だけ用意していただければ」

「うむ、許可しよう。だが、それもこちらにしかメリットがないではないか。他には?」


「実は、俺は今、多国間で国際条約を結ぶために奔走しているのですが、ぜひショタランドにも加わっていただきたいのです」

「それもまた願ってもないこと、断る理由などあろうか。承知した。婿殿の個人的な要望はないのか?」


「あ、出来れば、今後の行き来をするために、『ゲート』の設置をお願いしたいですね」

「ゲートとはなんだ?」

「遠く離れた場所同士を繋ぐ魔道具です。たとえば、ここにゲートを設置すれば、門をくぐるだけでホワイティアへ行けます」

「そ、それはすごい……ぜひ設置してくれ。ただ、セキュリティが気になるところではあるが……」


「それはご心配なく、登録した人間しか見ることも、利用することも出来ませんので」

「なるほど、さすがは婿殿。しかし、駄目だな。もっと婿殿と勇者さまに喜んでもらわなければ……」


 どうやら、これらのことは、お願いにカウントしてくれなかったようだ。困ったね。


「陛下、ならば、私にモフモフの許可をいただきたく……」


 そこへ美琴が直球を投げ込んだ。くっ、さすがは勇者。ためらいが無いゆえにむしろ清々しいまである。俺に足りない部分だな。グッジョブ。


「モフモフ? はて、いったいそれはどんなものだ?」


 ば、馬鹿な……この国ではモフモフが認知されていないというのか? そんな穢れのない瞳で見つめられながら、美琴よ、お前はその欲にまみれた説明をできるというのか? 俺にはとても出来ない。


「陛下、モフモフとは――――」


 淡々と説明を始める美琴。ありえない!? なぜそんな平気で……いや違う、全然平気なんかじゃなかった。見れば美琴の唇には血が滲み、固く握りしめた拳からは血が滴っている。


 馬鹿野郎……『限界突破』『火事場のくそ力』の同時使用とか……無茶しやがって……


 美琴の熱い思いに視界がにじむ。涙があふれて止まらないよ。 


「英雄さま、どうか泣かないでください!」


 やわらかい感触を感じて足元をみれば、ちっちゃなロリイヌ王妃が俺の足にぎゅっと抱き着いている。くはあ!? い、癒される……ふ、不意打ち禁止ですよ、ロリイヌさま。


 すかさず足に魔力を集めてオリジナル魔法を発動する。これにより、俺の素足に王妃さまが裸で抱き着いているのと同じ状況となる。ベルトナーくんではとうてい辿り着けない応用技だ。


 きっと今の俺はだらしない顔をしているんだろうが、認識阻害で誤魔化すから問題ない。



「……なるほど、よくわかった、勇者さま、さっそく準備をしよう」


 美琴の微に入り細を穿つ説明に納得された陛下が笑顔でそう告げる。準備が整うまで、俺と美琴は控室で待つこととなる。



「美琴……大丈夫か? まったく無茶しやがって……」


 謁見の間では、平気な振りをしていたが、美琴の身体はすでにボロボロだった。無理もない。俺なら死んでいたかもしれない。戦友であり、同志でもある彼女の頭をそっと撫でる。


「せ、先輩……私……頑張ったよね? ちゃんと……言えたかな?」


 おそらくすでに目も見えていないはずだ、呼吸も浅く、いつ鼓動が止まってもおかしくないほど衰弱している。


「ああ……よくやった。お前の勇気と情熱が、この国にモフモフ開化をもたらしたんだ。お前は成し遂げたんだぞ」

「そう……良かった……最後に……モフモフ……したかった」


 美琴の頬を涙が伝う。それはとても綺麗で悲しい涙だった。


「くそっ、行くな美琴! まだだ、本番はこれからじゃないか! 行かせるかよ!」


 神水を口に含んで強引に口移しする。迷っている時間なんてない。世界には……いや、俺にはお前が必要なんだ美琴。いつも隣で笑っていて欲しいんだよ。だから……帰ってこい。



「うへへへへ、先輩、私、楽しみで死にそうなんだけど?」

「ぐふふふふ、安心しろ、俺もだ」



「英雄さま、勇者さま、モフモフの準備が整いましたでございます!!」


 可愛らしい宰相さんがわざわざ呼びに来てくれた。なんと、宰相さんをモフってもいいらしい。美琴と二人で、宰相さんをモフりながら大広間あらためモフモフの間へと案内される。


「さあ、国中のモフモフを集めました。どうぞ存分にモフりください!!」


 モフモフの間には、文字通り国中から集められた千を超すロリショタモフモフがひしめいている。


「「がはあっ!?」」


 鼻血と血反吐を同時に吐き出す俺と美琴。危なかった……俺たちでなかったら、今ので死んでいた。


 だが、致命傷とは言えないが、かなりのダメージだ。神水を飲みながら天国へと足を踏み入れる。


「「「「英雄しゃまー、勇者しゃまー!!」」」


 俺たちに気付いたおちびちゃんたちがわらわらと殺到する。


『十六体分裂!!』


 俺は迷わずその選択をしていた。分裂すればその感覚は16倍になる。耐えられるかは未知数だったが、後悔はしたくない。


「先輩こそ、勇者だよ」

「いいや、やはりお前が真の勇者さ、美琴」


 俺と美琴は、幸せそうな笑顔を浮かべながら、そっと意識を手放すのだった。



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i566029
(作/秋の桜子さま)
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