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コーヒーのおかわりはいかがですか?


「……ん……こ、ここは?」


 何とも香ばしい香りにつられて目が覚める。一瞬ここがどこだか分らなかったが、すぐに自らの痴態を思い出して赤面する。どうやらベッドで寝ていたらしい。


『目が覚めましたか? キラさま』


 声のする方を見れば、この世のものとも思えない美しい女性が、ニコニコしながらテーブルに置いたカップに何かを注いでいる。この香ばしい香りは、どうやらあの飲み物から来ているようだ。


「あ、あの、英雄さまは?」


『お兄様でしたら、ショタランドへ向かいました。じきに戻ると思いますよ』

「へ? で、ですが、ショタランドはあまりにも遠いです。いくら英雄さまでも……」


 英雄さまが強いのはわかっていますけれど、物理的な距離はどうしようもないはず。それなのに、妹君は、微笑みながら、ちょっとそこまでみたいに仰るのです。


『申し遅れました。私はミヅハ。お兄様の最愛の妹。これはコーヒーという異世界由来の飲み物です。どうぞ温かいうちに召し上がれ。少し苦いので、甘いお菓子を一緒に食べるとちょうど良いですよ』


 気になっていた飲み物はコーヒーというのですね。最愛の妹というのはきっと聞き違えでしょう。自分で最愛とか言うはずありませんから、気にしないことにします。


 ふう……これは……良いですね……コクと苦みが絶妙なバランスで、それに……このお菓子、美味し過ぎるんですが!? え? 駄目、止まらない、全種類食べたくなる、コーヒーに合う! ああ幸せ!


『コーヒーのおかわりどうぞ』

「あ、ありがとうございます、いただきます」


 ようやく目覚めたノルン殿下と一緒になって、夢中でお菓子を食べ、コーヒーをお代わりする。


 気が付けば、お菓子を全種類制覇してしまっていた。コーヒーも多分10杯は飲んでしまった。なんとはしたない……。


『ふふっ、とても気に入っていただけたようで何よりです。ところで、お二人ともお召し物がボロボロですね。お着替え用意いたしましたので、まずはお風呂に入りましょう』

「お、お風呂があるんですか!?」


 ショタランドでは、真水が貴重なため、お風呂には王族であっても、毎日は入れない。ここ数日はもちろん入れていないし、潮風で肌もベタベタしていて、髪も毛もごわごわだ。ふと、こんな状態で英雄さまと濃厚接触したことに今更気付いて死ぬほど恥ずかしくなる。




「「…………」」 


 案内されたお風呂のあまりのスケールに、私もノルン殿下も空いた口が塞がらない。


 たぶん、数百人が同時に入浴しても、まだ余裕があるほどの巨大な大浴場。


『さあ、まずは、全身を綺麗にしましょうね』


 全裸になったミヅハさまが、私たちの身体を丁寧に洗ってくださる。信じられないくらい気持ちがよくて、思わず変な声が出てしまいました。 


『気持ち良いですか? でも、お兄様に洗っていただくと、この百倍は気持ち良いですからね』


 こ、この百倍!? そんなの死んでしまうかもしれない。入浴どころじゃないのでは?



 それにしても……と思わずため息が漏れる。


 ミヅハさまの完璧なスタイルとシミ一つない肌と比べると私なんてただの濡れた犬。悲しくなって耳が垂れてしまう。


『ふふっ、私からみれば、お二人が羨ましいです。そんなにモフモフなんですから……』


 モフモフとは一体何でしょうか? ひょっとしてこの体毛のことでしょうかね。



 綺麗になったあとは、いよいよ湯船に入る。


 不思議な泡が気持ちよくて、お肌がつるつるになるのが分かる。溜まっていた疲れが、まるで溶けるように消えてゆくのだ。


「ねえキラ、私たちだけこんな良い思いをしていていいのかしら?」


 お優しいノルン殿下のことだ、明日をも知れない国民のことを考えていらっしゃるのだろう。


「ノルン殿下、お気持ちはわかりますが、今、殿下ができることは、疲れを取り、綺麗になることです。この意味がおわかりですね?」

「ふえっ!? そ、そそそうね、たしかにそうだわ。英雄さまに喜んでいただかないと……」


 真っ赤になって耳をぺたりと伏せるノルン殿下の髪と体毛を丁寧にブラッシングしてゆく。入浴の効果なのか、どうみても殿下が5割増しに可愛らしい。もしかして、私も?


 少しの期待を胸に、大きな姿見の前に立つ。


「誰……これ?」


 一瞬、本気で誰だかわからなかった。鏡の中の美女を見て自然と口角が上がる。


 にわかに沸いてくる自信。自分史上、かつてない肌ツヤ、ふわふわの毛並み。そして、何よりミヅハさまが用意してくださった、衣服がとんでもなく可愛らしい。


『まあ……お二人ともなんてお可愛い……絶対にお兄様もお喜びになります』


 ミヅハさまのお言葉に胸が高鳴る。早く戻ってきてくださいね、英雄さま。



***



「おっ、美琴、あれがショタランドみたいだな」

「ひゃっほう!! 魅惑のショタランドイッツショータイム!」


 珍しく強引についてくると思ったら、やはり目的はそれか。だが柄にもなく、俺のテンションも最高潮だ。ただでさえモフ度が高いというのに、ちびっこモフたちの破壊力たるや想像もつかない。


 そして、そんな天使たちを蹂躙したバイキンどもに対して、いや、裏で操っているグリモワール帝国に対して怒りが収まらない。


 帝国には、すでにヌー伯爵たちを向かわせている。連絡が入り次第、叩き潰してやるからな。


「いくぞ、美琴、クロドラ、リーヴァとベステラは奴らが逃げないように見張っておいてくれ」

「いつでもいいよ先輩!」

『ククク、我に任せよ主』


『ふん、言われんでも、すでに包囲済みだ。早く終わらせてブラッシングしておくれ』

『主、早く終わらせてマウンティングしておくれ』


「先輩……マウンティングって何?」


 ちっ、さすがは勇者、細かいところによく気が付くものだ。


「ベステラのビッグマウンテンはすぐに凝ってしまうからな。定期的にほぐさないと大変なことになるんだ」

「ふーん……ねえ先輩、私も手伝ってあげようか? っていうか手伝う!!」


 勇者の熱意に負けて了承する。出来ればその熱意を世界平和のために使って欲しいのだが。


「ショタ&モフモフ&マウンティング、ひゃほう!!」


 おかしなテンションで無双し始める美琴。ははっ、これは負けてられないな。



 ショタランドのバイキン軍1万は、わずか5分で殲滅され、囚われの人々は、無事救出されたのであった。


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i566029
(作/秋の桜子さま)
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