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港町フェアリー


 再び空の上、進路をケルトニアへ変更して飛行中の俺たち一行。

 

 結果的に大事には至らなかったものの、俺は煩悩騒ぎの原因として、みんなから責められる羽目になっている。ちょっと待て、ベルトナーと美琴は元からだと思うんだが?


「もう、先輩の眷族化のせいで酷い目にあったよ!!」

「旦那様、その煩悩を私にぶつけてくれ!!」


 みんな、すまん。俺の煩悩のせいで……そして、セレスティーナ、今夜は寝かせないぞ、ふふふ。



「それにしても困りましたね。果たして煩悩まみれでケルトニアへ入国できるかどうか……」


 深刻そうに俯くアリエス。


 いや、大丈夫だろ。国王からして煩悩の化身みたいなんだし。


「むう……我々ホワイティアの民も、港町フェアリーまでは入れるのだが、そこから先は入れないからな」


 ネージュによると、交易のために人族にも開かれている港町フェアリーには自由に入れるらしい。まずはそこを目指すとするか。


『ケルトニアには、妖精以外を弾く結界が張られているのでしゅ。大丈夫でしゅよ、このリッタにお任せでしゅ!』

「さすがは俺のリッタ、抱きしめてもいいか?」

『し、仕方ないでしゅね……ちょっとだけでしゅよ?』


 公然といちゃいちゃし始める二人だが、いつも自分がやっていることなので、止めろとは言えない。


 くっ、マズイな……ここで誰を見るかでイチャイチャの連鎖が始まりかねない。慎重に視線を動かさないと……


「しかし、婿殿、ここからの景色は絶景だな!! しかもこの座り心地……玉座よりも素晴らしい」


 ナイスです義父上、空気が読める大人の男代表。ありがとうございます。


 義父上の歓声に、みんなもつられて視線を移し、その美しい光景に誰ともなくため息が漏れる。


 キラキラと輝く水面にクロドラの大きな影だけが映っている。すでにホワイティアの陸地ははるか後方に消えて、前方には、早くもケルトニアの大地の稜線がうっすらと見え始めている。


 そしてその向こうには、結界のせいだろうか、ケルトニア全体に大きな虹が架かっているのだ。これは思わず見惚れれてしまうのも仕方がないな……

 

 

「そうでしょう、それは自信作なんです。帰ったら、王宮にもプレゼントしますよ義父上」

「それは楽しみだな。ハクア、良い婿をもらってくれてありがとう」


 義父上……それはアウトです。


「ふふふっ、そうでしょう、英雄殿、大好き!」


 デレデレになって抱き着いてくるハクア。いかん、これはもう止められないやつだ……


「わ、私もす、好きだぞ……英雄殿」


 恥ずかしそうに反対側から抱き着いてくるネージュ騎士団長。


「待て、旦那様のことなら私が世界一大好きだぞ!!」


 セレスティーナも当然参戦するよな。


「残念ですが、年上の分、私のほうが好きの量は多いでしょうね」


 意外にもアリエスが張り合ってきたああああ!?


「私は命がけで愛しているのです、負けようがありませんね」


 にっこり笑っているけど、少しだけ怖いよノスタルジア。


「ふふっ、私とカケル殿は、体と体で語り合っていますからね、気持ちだけのみんなよりは上かな」


 ミヤビさんは無理に入らなくても……いや、なんでもないです。


「ふふっ、モフも出来ないモブ婚約者が何を言っても説得力ないですね。私が御主兄様を一番好きモフ」


 クロエ、もはや何を言っているかわからないんだが。


『愚かな……カケルさまのお心の内まで共有している私に死角はありません』


 一方的に共有されてるんだけどな。俺もヒルデガルドの心の内を……え? 恥ずかしい? そうか。


「ふふん、みんな必死だね、でも死を乗り越えて、世界を越えて結ばれた私たちには敵わないかな。ごめんね~」


 そこまでストレートに言われると照れるな。ありがとう美琴。


 っていうか、もみくちゃにされて幸せでおかしくなりそうだよ? みんなありがとう!



『みんなそこまででしゅ、港町フェアリーが見えたでしゅよ!』


 リッタの声に、みんな離れてゆく。ちょっと淋しいが仕方ない。


『隙ありでしゅ! にゅふふ、英雄しゃま成分を補充するのでしゅ……』


 俺に抱き着いてうっとりとしているリッタ。


「「「「「「「「「ああっ、リッタ離れなさい!?」」」」」」」」


『嫌でしゅ! あと5分、あと5分したら離れましゅから!!』


 母親に起こされる子どもみたいになっとる。


「ちょっとベルトナー、自分の嫁ぐらい、ちゃんと掴まえておきなさいよね!」


「うへへへ、リッタ、可愛いリッタ……」


 リッタの頭部を愛でるベルトナー。


『ぬふふ、ベルトナー対策もバッチリでしゅ!!』

「チッ、変り身の術か!!」 


 違うと思うよ美琴。 



***

 


 たくさんの船が眼下に見えてくる。


 もっと小ぢんまりした港町かと思っていたが、少なくとも数万人規模の巨大な町だったよ。


 大半は漁船で、後は貨物船が多い。客船が少ないのは、閉鎖的なケルトニアだからだろうか。


「へえ……あれが港町フェアリーか、何か妖精が居そうな名前だな」

「先輩……妖精の町なんだけど?」

「スマン……聞き流してくれ」


『フェアリーは、妖精と人族が共生している町でしゅ。人族以外にも、住処を追われた少数民族が居て、多様性溢れる場所となっておりましゅ』

「ほほう、中々面白そうな町だな!」

『はい! 多種多様の妖精たちが、皆さまの精と生き血を狙っておりましゅので、お楽しみくだしゃい』


 メルヘンから、一気にホラーになった!?


『というのは昔の話、今は法で厳しく制限されておりましゅよ』


 リッタの頭部が悪戯っぽく笑う。



 フェアリーに直接降りるとパニックになりそうなので、少し離れた場所に着地する。


 認識阻害をかけているから、それでも大丈夫そうだが、念の為だ。


 それにしても、新しい町というのは、やはりワクワクするよな。


 新たな町に期待を膨らませるカケルであった。


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i566029
(作/秋の桜子さま)
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