煩悩退散
カケルとリッタが、ホワイティアに向かった後、美琴、セレスティーナ、ミヤビ、ノスタルジア、クロエ、ヒルデガルド、アリエス、ベルトナーの8名は、暗黒竜クロドラに乗って、一路ホワイティアを目指していた。
クロドラの背中には、カケルと刹那が作った、こだわりのシートが設置されており、ファーストクラス顔負けの快適さを実現している。
また、風魔法により、高速飛行時の風の抵抗も無効化されており、遮るもののない最高のパノラマも楽しめるのだ。
ちなみに通常時の定員は20名だが、空間魔法を仕込んだ拡張機能を使えば、理論上の定員は無くなり、一個師団でも搭乗可能となっている。
「それで? ベルトナーはリッタちゃんと上手くいったの?」
微塵も興味は無いのだが、先程からずっと聞いてくれオーラを発しているベルトナーがウザい。仕方なく話を振る美琴。
「え? やっぱり気になる? 気になっちゃう? そうか、そんなに気になるか〜、どうしようかな〜? ぶべらっ!?」
美琴に殴られて吹き飛ぶベルトナー。
あと一歩でクロドラから落ちるところだったが、セレスティーナが、間一髪ロープを掴んで落下を阻止する。
「……チッ、惜しい」
舌打ちする美琴に、セレスティーナも苦笑いするしかない。
「ベルトナー、あまり美琴さまを困らせるものじゃないぞ」
ベルトナーを安全な場所に降ろしながら、忠告するセレスティーナ。
「あ、ありがとうございます! セレスティーナさま、この感謝の気持ちを受け取って――――ぶべらっ!?」
セレスティーナに抱きつこうとしたベルトナーが蹴り飛ばされ今度こそ落下――――
「ふふっ、ベルトナー、貴方、中々見どころがありますね」
ミヤビがベルトナーを空中でキャッチ、なおも抱きつこうとするベルトナーを見て口角を上げると、そのまま寝技に持ち込む。
「いいよ、貴方の欲望をぶつけてきて。遠慮しないでいいから」
「マジですか!? うおおおおおおお!!」
目の前の果実にしゃぶりつこうとするベルトナーだったが、あっという間に意識を刈り取られる。
「ふふっ、ただしこちらも手は出しますけどね」
「まったく……こいつはよく懲りもせず……」
呆れ果てる美琴たち。
「あの、皆さまお困りでしたら私がベルトナーさまを浄化しましょうか?」
「え? そんなこと出来るの、アリエス?」
様子を見守っていた聖女アリエスからの提案に驚きの声を上げる一同。
「はい、本来アンデッド系の魔物や悪霊を退治するための魔法の応用です。人間に使うと煩悩のみ綺麗に浄化されます」
「でもベルトナーは人間より魔物寄りだから消滅するんじゃない?」
真顔で酷いことを言う勇者美琴。ベルトナーが寝ていたのは幸いだろう。
『美琴さまの言うとおりです。この男の半分は煩悩でできていますからね!!』
「ヒルデガルド様まで……だ、大丈夫だと思いますよ……た、多分」
若干の不安を抱えながら神聖魔法を発動するアリエス。
「清浄にして神聖の根源たる女神イリゼに願い奉る。この者に巣食う邪悪なる衝動を打ち払いたまえ『煩悩退散』!!」
七色の光の粒子がベルトナーを包み込み、体中から黒いヘドロのようなものが染み出てくる。
「うわっ!? キモッ!?」
「こ、これがベルトナーの煩悩なのか……」
初めて見る煩悩に戦慄する一同。
「私も100年以上聖女やっておりますが、かなりの量ですね。しかも濃い……え? あれ?」
「あ、アリエスさま、何かベルトナーが消えかけていますよ!?」
ベルトナーの身体が消え始めて動揺するクロエとアリエス。
「ち、ちょっと、ヤバいよ、アリエス中断して!!」
「は、はいいいい!? た、ただいま〜!」
美琴の絶叫に慌てて魔法を解除するアリエス。
何とか消えずに済んだが、寝ている間に、全員からの好感度――――そんなものが残っていたかどうかは別にして――――が地に堕ちた上、人外疑惑まで浮上したベルトナーである。
「まったく、本当に救いようのない奴ね! 神聖魔法で消えかけるなんて、やっぱり妖魔の類いなんじゃないの?」
「ふふっ、皆さま、せっかく妖精の国へ行くのですから、聖女さまに浄化してもらいましょう!」
「「「「「「ふえっ!?」」」」」
ノスタルジアの提案に内心焦る一同。全員思い当たる節があるが、ベルトナーを馬鹿にした手前、とても言い出せる雰囲気ではない。特に美琴は自分が煩悩の塊であることを自覚している。勇者の誇りにかけて消えるわけにはいかないとひたすら焦る。
「それは良い考えですね、ノスタルジアさま。妖精の国は、穢れた人間は入れませんから」
聖女アリエスの言葉に一同戦慄する。もはや、逃げ場は無いようだ。
「では参ります、『エリア煩悩退散』!!」
指定エリア一帯をまとめて浄化するアリエスの神聖魔法が炸裂する。
「「「「うぎゃああああ!?」」」」
聖なる光に焼かれて苦しむ一同に困惑するアリエス。
「え? え? この魔法、人間には無害なはず……きゃあああ!?」
魔法を発動したアリエス本人も苦しみ出す。
『ギャアアあああ!?』
そして、当然暗黒竜であるクロドラにも効果てきめん!! きりもみしながら墜落する。
「くっ、アリエス! 魔法を止めろ!」
「駄目ですセレスティーナ、アリエスは気を失っています!」
「いやあああ!? 助けて先輩!!」
そこへ丁度転移してきたカケル一行。
「うわあ!? な、何事だこの状況!? うぎゃああああ!?」
煩悩の帝王カケルにクリティカルヒットだ。
「み、ミヅハ、リーヴァ、べステラ、モグタン、ルシア先生、シルヴィア――――」
『いやあああああああああ!?』
次々呼び出すも、揃いも揃って煩悩の塊、使い物にならない。
『か、カケルさま……どうやら、眷族化が影響しているようです』
ナイス情報だヒルデガルド、そうとわかれば……眷族化していないあの二人がいるじゃないか!
「義父上、リッタ、頼む!!」
「え……いや無理!?」
ですよね~……。
「御主兄様、納得している場合じゃありません! 落ちます!」
わかっているんだけど、体が動かないんだよね……はは。まあ、落ちても大丈夫さ。たぶん。
「「「「「「「「「「ぎゃああああああああ!?」」」」」」」」
『転移!!』
ふう……危なかったぜ。地面に衝突する寸前に転移して事なきを得る。
前途多難、無事妖精の国へ辿り着けるか不安になるカケルであった。




