学院生が世界を平和に
「でも、よく王様がわざわざ手紙まで出して知らせてくれましたね」
義父上の追及をかわす為、話題を変える。
「ああ、フェリルはリーニャの義理の兄だからな。俺たちのこともすべて知っている。そもそもあいつの紹介で知り合ったわけだし、あいつも責任を感じているのだろう。王宮で保護すると言ってくれたから、俺もリーニャを預ける決断が出来たんだ」
なるほど、たしかにこれ以上ない安全な環境だな。でも、いち早く手紙を送ってくれたのはいいんだが、使いに出したのが、よりにもよって方向音痴のリッタというのがな。他に適切な人材が居なかったのかと問い詰めたい気分だ。
俺の視線に気づいたリッタの頭部が笑顔の花を咲かす。うん、可愛い可愛い、君は何も悪くないぞ。まあ、ベルトナーくんにしてみれば、グッジョブって言いたいところだろうけどね。
「ところで、義父上と妖精王フェリルさんはどこで知り合ったんですか?」
「ああ、学院で同期だったんだ」
少年時代に戻ったかのような顔で、何かを懐かしんでいる様子の義父上だが、学院ってまさかあの学院じゃないだろうな……距離も結構あるし、まさかね。
「ちなみに学院って?」
「勇者学院に決まっているじゃないか! いやあ懐かしいな。そういえば、婿殿はアルカリーゼに屋敷があるのだったな。勇者学院には行ったことは?」
「アルカディアには何度か行きましたけど、勇者学院には行ったことはないですね」
「それは勿体ない! あそこは素晴らしいところだ。学年が違うので、直接会ったことはないが、キャメロニアの現王も在籍していたはずだ」
マジかよ、勇者学院すげええ!? 世界中の王族やらが在籍していたなんて、冗談抜きで世界一なんじゃ……てっきり、セレスティーナたちが変わり者なのかと思ってたよ。
『懐かしいでしゅ……私も勇者学院の卒業生でしゅ……』
リッタが昔を懐かしむようにつぶやく。ってお前何歳なんだよ!?
『英雄しゃま! 妖精に年齢を聞いてはいけませんよ? 絶対に……さもないと』
の、呪われるとか……!?
『嫌われましゅよ?』
まさかの普通か。
「おおっ、リッタ殿も学院生だったとは、マルグリット先生はさすがに引退されておられるかな?」
『私が卒業した時は、学院長だったでしゅ!』
「なんと! 月日が経つのは早いものだな……」
しばらく学院話で盛り上がる2人。
どうやら勇者学院というのは、単なる学術研究の為だけに留まらず、世界平和にも大いに貢献しているようだ。
実際に学院生同士の結婚は枚挙に暇がない。王族にとってみれば、唯一の青春を謳歌出来る場所なんだろう。
そして、その結果、世界中で勇者や英雄の評価が拡散されているわけで、俺や美琴も、間接的にだけど、ずいぶん助けられているってことになるんだよな。一度顔を出してみるか……。
「でも、よくリッタは入学できたな? 基本的に王族じゃないと入学は難しいんだろ?」
費用もそうだが、推薦枠などもあって入学するのは狭き門だとセレスティーナに聞いたことがある。
『お父しゃまが是非行っておけって、半ば強引に……』
「お父様? もしかして、リッタって良いところのお嬢様?」
『はい、継承権はありましぇんが、妖精王フェリルが私のお父しゃまでしゅ』
「はあああああああああ!? ま、マジで?」
『マジでしゅ……』
なんてこった……なるほど、だから手紙を任されたんだな、納得。
「でも、継承権がないってどういうことだ? 男にしか継げないのか?」
『いいえ、お父しゃまは子だくさんでしゅから、生まれた順でもう枠が一杯なんでしゅ』
な、なるほど、なんか俺の将来をみているようでなんとも言えない気分になるな。
「ちなみに、リッタは何番目なんだ?」
『えっと、5395番目でしゅ……会ったことがない兄弟もたくさんいるでしゅ』
妖精王すげえな……妖性王に改名した方がいいんじゃないのか?
『ちなみに英雄しゃまは、お父しゃまに少しだけ雰囲気が似ていましゅ』
危ないところだった。全員眷族化している俺に死角はない。少しだけベルトナーくんの気持ちがわかった気がするよ、ははは。
***
「では義父上、俺は一旦みんなの所へ戻ります! また後で!」
「ちょっと待った!」
「なんですか?」
何か言いたげな義父上に呼び止められる。
「私たちも一緒に行った方が早くないか?」
確かに全員揃っているし、出発の準備も出来ている。義父上の言うとおりだな。
「……ですね、ただし、飛行中の竜の背に転移するかたちになりますから、気を付けて下さい」
「ふふっ、問題ない」
「私も大丈夫です!」
「楽しみだな」
まあ、義父上はともかくとして、ハクアとネージュは、一度乗っているからな。
「皆さまお気を付けて、留守中はこのクリムにお任せを」
「英雄さま、お土産お願いしますね!」
「行ってらっしゃい」
「オルファ、ちょっといいか?」
「ふぇっ!? な、なんですか〜!?」
「これを受け取って欲しい」
オルファに渡したのは、アメジストの指輪。彼女の瞳の色に合わせた婚約指輪だ。もちろん、各種スキルが付与してある。
「こ、これって……ふ、ふぇっふえ〜ん!!」
感極まって号泣するオルファを抱きしめる。
「今回は連れて行けなくてごめん、今度はゆっくり遊びに行こうな」
「……ふぁい」
ハクアたちには、まだ指輪を渡していないので、視線がすごく痛い、各種耐性を無視して、まるで抉られるようなダメージがくるが、オルファの笑顔で何とかこらえる。
族長補佐のクリムさんと戦士長のブロンコさんにも、念の為通信用の腕輪を渡してある。これなら、何かあっても安心だ。
彼らに見送られながら、転移を発動し、王宮を後にするカケルたち一行であった。