失われた古代魔法『ゲート』
「――――というわけで、彼女が俺の嫁さんのリッタだ。みんなよろしく!」
さっそくみんなにリッタを紹介する。
「…………ねえ、リッタちゃん、正気?」
「ちょ、ちょっと、美琴たん、それは彼女に失礼だろ、嫉妬する気持ちは分かるけどさあ」
「くっ……な、殴りたい……リッタちゃんとお揃いにしてやりたい……」
まったく、美琴たんってば冗談ばっかり、そんなことしたら死んじゃうぞ?
『あ、あの……勇者さま、たしかにベルトナーさんは変態さんでしゅけど、優しいところもあるんでしゅ……』
ああ、リッタが天使か女神のように思える。頼む、俺のために争わないでくれ……
「くっ……なんて健気でいい子なの……ベルトナー、あんた絶対にリッタちゃんを幸せにしなさいよ! こんなチャンス2度と無いからね!」
わかってるさ、俺の2度目の人生で得た初めての女性だ。命をかけてでも守り抜いて見せる。主にカケルくんの魔の手から。
「あれ? そういえばカケルくんは? 居ないほうが好都合だったけどさ」
「旦那様なら、屋敷に戻ったぞ。なんでも開発中の魔道具が完成したとかなんとか……」
開発中の魔道具? どうせまたエロ目的のものに違いない。ぜひおこぼれに与りたいものだね。むふふ。
「ところでリッタさまはどちらにお泊りされるのですか?」
『ふえっ!? あ、そ、それはでしゅね……ベルトナーさんのところにお世話になろうかと……』
の、ノスタルジアさま、そこは触れないで欲しかったんですけど……悪意がないから文句も言えない。
「ふふっ、そうか、今夜はデビュー戦になりそうですね、ベルトナー。夜の戦いは良いですよ。ちなみに私は一度もカケル殿に勝ったことがありません。毎回失神させられていますからね!」
ミヤビさん!? そんな情報いらないんですけど!! お願いだから放っておいてくれませんかね。
***
「イヴリース、刹那、待たせて悪かったな」
開発中の魔道具が完成したとの連絡を受けて、急いでプリメーラの屋敷に戻ってきた。
『大丈夫、全然待ってないわ』
「うん、むしろ早かったまである」
二人と一緒に開発していたのは、古代魔法『ゲート』の再現と、固定化するための魔道具だ。今は、転移を使っているが、今後のことを考えると、簡単に行き来ができる『ゲート』が必要と判断したのだ。
なるべく婚約者たちの送り迎えは続けるつもりだが、急用で戻りたいときや、俺がいない時もあるかもしれない。使う使わないは別にして、作っておくに越したことはないだろう。
「なるほど、これがゲートか……見た目完全にほにゃららドアだが、大丈夫なのか?」
「何のことか分からないけど、登録された人にしか視認できないし、開けることもできないから安心安全設計」
その点は心配していないのだが、まあ良いだろう。
実は、古代時空魔法『ゲート』に関しては、イヴリースが眷族化した段階で発動可能となっていた。そして、今夜、固定式出入り口である魔道具『ゲート』が完成したことでいよいよ最終段階である、魔法と魔道具の接続に進むことができるわけだが、これに関しては、マーリンの空間魔法を取得したことで、ようやく実現の目途が立ったのだ。
「よし、とりあえずセレスティーナとの間で実験してみよう」
セレスティーナの執務室に刹那が作った『ゲート』を設置して一旦屋敷に戻る。当然、屋敷にはすでに対になる『ゲート』を設置済みだ。
「準備オーケーだ。イヴリース頼むぞ」
『任せて、カケルさん、ゲート!!』
イヴリースの魔法が発動すると、空間に穴が開いて、向こう側にセレスティーナの執務室が見える。あとは、この屋敷と向こうにある『ゲート』を繋げるだけだ。
『空間接続!!』
空間魔法で二つのゲート間の空間を繋ぐ。理論上は、これで完成のはずだ。
早速、『ゲート』の扉を開いてみると、そこはセレスティーナの執務室だった。ちゃんと行き来もできることを確認する。
「やった、成功したぞ。ありがとう、イヴリース、刹那」
二人を抱きしめると、嬉しそうにはにかむ魔王と天才。
もちろんゲートを維持するための魔力は必要だが、そこは刹那の作るものに抜かりはない。空気中に含まれる微量の魔力を吸収しつつ、ゲートを利用する人間からも魔力を吸い上げる仕組みになっているので、理論上は半永久的に使用可能となっている。ちなみに余剰魔力は、非常時に備えて貯蓄もされる仕組みだ。
とりあえず、使用頻度が高そうな場所には、ゲートを作ってしまおう。
ちなみに、これから複数のゲートを繋ぐことになるが、別に屋敷を経由しなくても、繋がっているゲート同士ならどこにでも行ける。例えば、アルカディアから魔人帝国へ直接行くこともできるし、切り替えはドアノブに触れた状態で行きたい先を念じるだけで良いので、超簡単。
***
「お疲れさま、二人とも疲れただろう?」
主要な行き先に『ゲート』を設置し終えたのは、だいぶ夜も遅くなった頃だ。夢中になるとやり過ぎてしまうのは、本当に俺の良くないところだよな。
『大丈夫よ、これでも魔王なんだからね』
「問題ない、研究の成果を確認するのは至上の喜びだから」
疲れを感じさせない笑顔を見せる二人。
本当にありがたい。彼女たちの頑張りに応えてあげたいな。
「二人とも、今夜は空いてるか?」
「ふぇっ!? だ、だだ大丈夫、ばっちり空いてるわよ」
真っ赤になる刹那。
『ふふっ、今夜は刹那に譲るわ。ゆっくり楽しんでね、刹那』
「イヴリース……貴女……あ、ありがとう」
去ろうとするイヴリースの手を掴んで引き留める。
『……カケルさん?』
そんな顔するなよイヴリース。気持ちは嬉しいけど、誰かに我慢させるなんて旦那失格だろ?
『分裂!!』
「さあ、夜は始まったばかりだぜ?」
『……もう、馬鹿なんだから……大好き』
「お待たせ、刹那……愛してる」
「駆……私も、好きよ、ずっと、ずっと大好きよ。愛してるの。いくら私が天才でも、この想いを伝え切ることは出来そうにないから。だから……私にも欲しいの、貴方と繋がる心と身体のゲートを……」
刹那の涙で揺れる瞳が愛おしくて、何度も白く輝く髪を優しく撫でる。震える小さな肩をそっと包み込むように抱きしめる。
「刹那……わかったよ、絶対に離れられないように、忘れられないように、お前の心と身体に俺というゲートを開通させてやるから覚悟しろよ?」
「…………はい、覚悟完了です」
だが、完璧主義者の刹那がそう簡単に納得するはずもなく、ゲートの設置作業は深夜まで続いた。神水を飲みながらの過酷な作業だったが、最後までやり終えた後の彼女はとても満足気で、すやすや寝息を立てている。その寝顔は、あの頃と変わらずあどけないままで……
「よく頑張ったな、刹那。おやすみ……良い夢を」
さらさらの髪を撫でながら、一緒に寝た子供のころを思い出して微笑むカケルであった。