デュラハンのリッタ
「よし、俺に任せろ」
なんて、言ったものの、特に考えはない。勢いだけで言った。
『私の頭部はあの茂みの奥にありましゅ。あと少しで手が届くと思った瞬間に動けなくなったのでしゅ……』
うーん、王宮の木を燃やしたり、切り倒すわけにもいかないし、下手するとリッタの頭部が危険だ。かといって、俺よりかなり小柄なリッタですら通れないとなると……サクラさんが居れば簡単だったのに今回は同行してないしな……打つ手なし、いきなりピンチだぞ俺。
仕方がない、ここはカケルくんに頼もう。俺のちっぽけなプライドなんかより、リッタの頭部が無事に戻ってくるほうがよっぽど大事なことなんだから。
いや……待てよ。
手元の腕輪に視線を落とす。カケルくんから貰ったスキルが付与されているすげえ腕輪だ。たしかこの中にあったはずだ、このピンチを乗り切る必殺のスキルが。
『メタモルフォーゼ!!』
変身魔法で、子どもの姿になる。この魔法、すごく便利なんだけど、難易度は上級魔法どころじゃない。正確に変身後の姿をイメージ出来ていないと、発動すらしないのだ。美女に変身しようと何度もチャレンジしたものの、挫折して以来、使わなくなっていたので、すっかり忘れていたよ。
ちなみに、カケルくんや、オリジナルのカイさんは老若男女、苦も無く変身できるが、あれは例外中の例外。天才の俺ですら、自分の子ども時代に辛うじて変身できるぐらいなのだから。
『す、すごいでしゅ……変身魔法なんて、ただの変態さんじゃなかったのでしゅ……』
ふふふ、もっと褒めていいんだぞ? よし、ここで決め台詞だ。
「ふふ、このぐらい出来なくては、変態なんてやってられないからな」
『…………そ、そうでしゅか……』
あ、あれ? なんか反応が……そんな可哀想なものを見る……いや、顔はないけど、そんな雰囲気漂わせないで!?
「……じゃあ、ちょっと行ってくる」
『へ、へんなことしちゃ駄目ですからね!!』
ちっ、気づかれたか……あんなこととか、こんなこととかしようと思ってたのに……
***
魔物に注意しながら、茂みの奥へすすむ。こんなところにいるわけないだろ!! なんてツッコミは不要だ。やはり気分を盛り上げることは必要なんだからね。
リッタが先ほどまで挟まっていた場所にやってきた。彼女の言葉が正しければ、ここから手が届く範囲にあるはずなのだが……
「ぎゃああああああああ!?」
暗闇に光る双眼と目が合ってしまった。軽く……いや、完全にホラーだよ!? だって生首がにやあって笑うんだよ? 少し漏らしたので、生活魔法クリーンを使用する。はは、まったく魔法さまさまだね。
『良かった。ありがとう変態さん……いいえ、ベルトナーさん』
生首がしゃべるのは恐ろしいが、幸い大変可愛らしいお顔だったので、生活魔法を併用しながら何とかこらえる。
「お待たせ、リッタ。怖かったろ?」
そっとリッタの頭部を持ち上げると二人の距離がとても近い。瑞々しい柔らかそうな唇に目が釘付けになってしまう。
『ふえっ!? ち、近い、近いでしゅ! な、ななな何をするつもりでしゅか!』
「え? キスだけど?」
『はあああああああああああ!? な、なな何が、「キスだけど?」でしゅか~! この変態! ケダモノ! 離しなさい!』
必死に変顔するリッタが大変お可愛いので、ちょっと冗談言っただけなんだけど……そんなに全力で拒否られると凹むよ!?
「え? でも、手を離したら、助けられないんだけど?」
『ぐっ……仕方ないでしゅね……き、キスはダメですからね!!』
ほほう、キス以外は良いんだね? リッタの頭部に頬ずりする。
『ひぃいやあ!? な、ななな何するんですか! ほ、頬ずりも駄目でしゅ!』
まったく……わがままなお嬢様だ。カケルくんなら、耳はむをするところだろうが、俺にはそんな高度なことは無理だ。仕方ないので、リッタの髪に顔を埋めて匂いを堪能する。これなら初心者の俺でも安心して実行可能だ。
『いやあああああああ!? こ、この変態、匂い嗅がないで、くんかくんかしちゃ駄目えええええ!?』
やれやれ……あれも駄目、これも駄目か……それなら、一体どうしろというのかね?
「ごめんなさい……」
無事外へ頭部を持ち出すことに成功した俺だったが、今はリッタに正座させられている。
『まったく……ちゃんと反省したんでしゅか? でも、まあ助けてもらったのは事実でしゅから……ありがとう』
なぜか頭部を見せてくれないのでどんな表情をしているのかは、わからないけれど、とりあえず許してくれたようで一安心だ。
「ところで、リッタはなんでキャメロニアに?」
『へ? あの……ここって、ホワイティアじゃないんでしゅか?』
「うん……だいぶ違うね」
『あわわわわ……またやってしまいました』
落ち込むリッタ。どうやら相当な方向音痴らしいな。
話を聞いてみると、どうやら妖精の国ケルトニアからホワイティアの族長宛に手紙を届けるはずだったのだとか。
「ふふっ、安心しろリッタ、お前はついてる」
『ふえっ!? べ、ベルトナーさん?』
「俺は丁度明日ホワイティアに行って、それからケルトニアにも訪れる予定だったんだ。良かったら、一緒に連れて行ってやろうか?」
『う、うう……うわああああああああん! あ、ありがとうございましゅ……、ありがとうございましゅ。乗ってきた馬には逃げられるし、手紙以外の荷物やお金も馬に積んでいたから、もうどうしようって……』
それはまた災難だったな……
「安心しろ、そんなんじゃ、今夜泊まる場所もないんだろ? 食事も含めて泊まれるように手配してやるよ」
『うう……変態さんの優しさが身に沁みましゅ……何かお礼をさせてくだしゃい、私に出来ることであればなんでもしましゅ……』
ほほう……なんでも……ね。困っているところに付け込むようなつもりはないけど、リッタの今後が不安になる。ちょっと脅かしておいたほうが彼女の身のためだろう。
「じゃあ、俺の奥さんになってくれ」
『へ? はああああああああ!? お、おおおお奥さんってあの奥さん!? つつつ妻ってこと? え? なに、私のこのわがままボディを自分のものにしたいの? こ、こここの変態! すけべ! えっち!』
「だろ? だから、あんまり簡単に何でもなんて――――」
『わかったでしゅ』
「……へ? 今なんて?」
『だから、お嫁さんになってあげるって言ったんでしゅ! っていうか、もう散々穢されてしまってましゅから、ちゃんと責任取ってもらわないといけましぇんからね!!』
ま、マジか……人間じゃないけど、頭が無いけど、彼女すっとばしてお嫁さんゲットだぜ!!!