38 穢れた湖の底で
悪運の強いゴキ……レアゴブリンに、ワームを呼び寄せてもらう。
地底湖の水面が盛り上がり、巨大なワームたちが出現する。水面から出ている部分だけで、10メートルぐらいの長さがある。目は無く、360度、すり鉢状に並んだ歯が、トンネルを掘るシールドマシンを彷彿とさせる。はっきりいって気持ち悪い。ぶよぶよした体とか、生理的に無理。
「わあ……ワームって可愛いですね。初めて見ました」
……何故だ、異世界ではキモカワイイが正義なのか? カタリナさんに視線を送ると、ため息をつきながら首を横に振る。良かった。どうやら全員がゲテモノ趣味というわけではなさそうだ。
一体だけ近くに呼んでもらうと、ズリズリ体を削りながらこちらへ這ってくる。
『肉体再生を記憶しました』
ワームは、削れた体を再生しながら移動する。痛覚がないのだろうが、見ていて気持ちのいいものではない。
見た目はともかく、ワームの能力は、俺たちにとっても有用だ。出来れば使役したいが、使役の上書きはできないらしい。ということで、不本意ながら、本当に不本意ながら、俺がレアゴブリンを使役することで、間接的にワームをコントロール下におくことになった。
その後、みんなが周囲の調査をしている間に、ゴブリンキングと、グリフォンのスケッチ契約を完了させる。
「召喚! 【ケーニッヒ】【フリューゲル】」2体を呼びだす。
【ランク】 A
【名 前】 ケーニッヒ
【種 族】 ゴブリンキング
【年 齢】 15
【状 態】 契約
【レベル】 70
【体 力】 6985
【魔 力】 1982
【攻撃力】 6947
【耐久力】 6965
【素早さ】 6466
【知 力】 394
【スキル】 魔物強化 威圧 統率 魔法耐性 物理耐性 土魔法【上級】
【ランク】 A
【名 前】 フリューゲル
【種 族】 グリフォン
【年 齢】 25
【状 態】 契約
【レベル】 70
【体 力】 12985
【魔 力】 9982
【攻撃力】 12947
【耐久力】 12965
【素早さ】 12466
【知 力】 9430
【スキル】 飛翔 風魔法【上級】威圧 加速 毒爪 剛腕 魔法耐性 物理耐性
「ふたりとも、このトンネルがどこへ繋がっているか知っているか?」
『もちろんだ、主、この先は、アストレアの王都セントレアに繋がっている』
ケーニッヒが片膝をつき答える。やはり、そうか。早くセレスティーナに教えてあげないと。
「貴方様! この地底湖に精霊が住んでいます。契約してもらえるかもしれませんよ」
おおっ、精霊がいるのか。精霊魔法は、個別に精霊と契約しないと使えない。いまのままだと、スキルの持ち腐れなのだ。地底湖だと土の精霊か水の精霊のどちらかだろうか?
地底湖の湖畔で精霊を探す。見当たらないので、湖面に触れてみると、微かに精霊の波動を感じる。とりあえず、湖の中に潜ってみることにした。
身体強化しているので、30分ぐらい息継ぎ無しでも余裕だ。魚のようにぐいぐい泳いでいくと、精霊の声らしきものが聞こえてくる。
『……けて……けて』
声の聞こえる方へ泳いでいく。
『たす……けて きえ……たくない』
今度は、はっきり聞こえた。助けを求める声だ。
声を頼りに湖底へ向かう。精霊の波動が見えてきた。注意していないと気付かないほど、弱々しい波動だ。
湖底には、大きな石があり、声と波動は、その石の隙間から聞こえてくる。
湖底に降り立ち、そっと石を持ち上げてみると、涙型で半透明のものが、ぷるぷる震えている。サイズは、親指大で、今にも消えてしまいそうだ。
『助けて……消えたくない……』
もはや、うわ言のように、同じ言葉を繰り返す、核のみとなった精霊。
そっと両手でつぶさないように包み、湖から上がる。
サラとシルフィが、駆け寄ってくる。
「貴方様、いかがでしたか?」
黙って保護した精霊核を見せる。今にも消えそうな精霊の姿に、サラの表情が曇る。
「これは酷いね……サラマンダー!」
サラが、火の精霊を呼び出す。当たり前だが、精霊のことは、精霊に聞くのが1番だ。
『サラ、ここまで衰弱していると、もはや精霊として、存在を保てない。可哀想だが、手遅れだ』
サラマンダーが、悲しそうな波動を放つ。
シルフィも、シルフィードを呼び出して、聞いてみたが、やはり同じ結論だった。
助けようにも、属性が異なる精霊に出来ることはない。
「水の精霊の力を取り戻すには、どうすれば良いんだ?」
『通常であれば、穢れのない水が必要だが、この湖の水は、魔物によって穢れておる。だが、この状態で湖を離れたら、五分と持たないだろう』
サラマンダーが言う通り、この湖の水は穢れていて使えない。かと言って、ここから動かすことも出来ない。くそっ、完全に詰んでるな。ん? いや……待てよ、もしかしたら……
リュックから水筒を取り出して、精霊核に神水をかける。これ以上ないほどの聖なる水だ。きっと効果があるに違いない。
神水をかけた途端、精霊核が、青く輝き出す。輝きはどんどん増していき、地下空間全てが、光に呑み込まれた。
やがて、光が徐々に収束していくと、そこには、透き通るような水色の髪と瞳の美少女が佇んでいた。
『……ば、ばかな、水の大精霊だと……』
『びっくり……カケル、なにしたの?』
サラマンダーとシルフィードが驚き、唖然としている。
じっと俺を見つめていた美少女、水の大精霊が口を開く
『助けていただきありがとうございます。お兄様』
「……へっ? いや君みたいな妹いないけど!? っていうか俺、一人っ子だぞ」
呆然とする俺に、水の大精霊(妹?)はにっこりとほほ笑む。
『身体を再構成する際に、お兄様の身体の一部を取り込ませていただきました。ですから、私たちは家族も同然なのです。あるいは……お父様と呼びましょうか?』
「いや、それはちょっと、わかった……お兄様でいいから! うーん、なんか複雑な気分だな」
『ご心配なく、兄妹でもちゃんと結婚できますので』
「そんな心配してないよ!?」
なんか、この世界の女性ってぐいぐい来るよね。誰とは言わないけれど。
『……お兄様』
「どうした?」
『私に名をください』
「名前か……水にちなんだのがいいよな……よし、お前の名前は ミヅハ だ」
『ミヅハ……とても良い名です。ありがとうございます。お兄様』
よかった。気に入ってくれたようで何よりだ。
「あー、それで、ミヅハにお願いがあるんだが、俺と精霊契約してくれないか?」
『……お兄様! 契約なんて他人行儀なもの必要ありません。私とお兄様は、すでに魂で繋がっております」
ミヅハがプリプリ怒りながら叫ぶ。
「え、そうなのか? じゃあこれで、俺も精霊魔法が使えるんだな」
『いいえ、お兄様は、精霊魔法なんてつまらないものではなく、精霊そのものを行使できるのです』
「おお……よくわからないが、なんか凄そうだな。そういえば、ミヅハはどんなことが出来るんだ?」
『ふふふ、お兄様、でしたら、私の力の一端をお見せしましょう。水質浄化!』
地底湖が輝き始める。大精霊の力により、穢れた水は一瞬にして浄化されてゆく。
「あ……ちょっと待てミヅハ――」
あわてて止めるが、手遅れでした……
『ぐぎゃああああああああああ』
湖から、声にならない叫び声を上げてワームがぞろぞろ這い出てくる。皮ふがどろどろに溶けてやばい、めっちゃグロイ……おええ。まあ、そうなるよな。
『……お兄様、この醜い虫どもを消し去ってもよろしいでしょうか』
「ごめんな、気持ちはすっごくわかるんだけど、使い道のある虫だから、消さないでくれ」
『……なあ、サラ。あのカケルという男、いったい何者なんだ? 大精霊と魂の契約など聞いたことがない』
驚愕に目を見開く火の精霊サラマンダー。
「うん、貴方様はすごいよね。ボクも早く貴方様と魂で結ばれたいな~」
『やっぱりカケルはおもしろいね、シルフィ。私があなた以外に興味のある唯一の人間……』
熱い視線で黒髪の異世界人を見つめるシルフィード。
「ええ、なんたって私たちが選んだお方なのですから当然です」
遠くから、調査組が戻ってくる。頼もしい仲間も増えたし、みんなに紹介しないとな。
***
38話終了時点でのステータス
【名 前】 カケル=ワタノハラ(男)
【種 族】 人族
【年 齢】 17
【身 分】 自由民
【職 業】 冒険者(B級)
【状 態】 良好
【レベル】 70
【体 力】 8423
【魔 力】 35952
【攻撃力】 8423
【耐久力】 8423
【素早さ】 8423
【知 力】 35952
【幸 運】 90
【スキル】 瞬間記憶 スケッチブック<1> デスサイズ<1> 精霊行使(水)精霊魔法(風)(火)火魔法(上級)水魔法(上級)風魔法(上級)土魔法(上級)武器マスター 身体強化<2> 鑑定<10> 変化 飛翔 跳躍<2> 魅了 剛力 剛腕 肉体再生 魔物使役 魔物強化 統率 威圧 加速 毒爪 絶倫 繁殖 精神耐性 魔法耐性 物理耐性 気配遮断 洗体 料理 言語理解
【加 護】 死神の加護 大精霊の加護
いつも本作をお読み頂き誠にありがとうございます。
これで3章は終わりとなります。
ここから序盤のクライマックスへと物語は進んでいきます。カケルの活躍をお楽しみに。お話はまだまだ続きますので、今後も引き続き宜しくお願い致します!
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