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妖精の国ケルトニア


「なんと、大地の力が甦るとは……もはや神の領域だな。だが、これで祭も予定通り執り行うことが出来るだろう」

 

 呆れながらも、不作の心配が無くなったことを喜ぶ義父上。そして祭が予定通り開催されそうで歓喜の俺。


「ところで義父上、明日妖精の国を訪ねようと思っています。何かご存知でしょうか?」


 結局、みんなに相談したら、満場一致で妖精の国に行くことになったのだ。なぜだ……なぜ牛獣人じゃ駄目なんだ……まあ、妖精の国にも、牛の妖精とか、ミルクの精とかいるかもしれない。希望は捨てない。


 そしてよく考えたら、妖精の国のことを何も知らないことに気付いたのが今。


「なんと!? ケルトニアに行くのか? ならば手紙を届けてくれないか。現国王は、古い友人でな。互いに王となってからは、一度も会えていないのだ……」


 そうか、妖精の国はケルトニアというのか。名前からして、アイルランドにあるのかな? 


 懐かしさと淋しさが入り交じった表情で微笑む義父上の表情は少年に戻ったかのようで、ケルトニアの国王との関係の深さが俺にも伝わってくる。


「それなら義父上も一緒に行きましょう! 最悪日帰りも可能ですし、何かあれば、いつでも転移で戻れますから……」

「む……だがな……」


 責任感の強さは、時に頑固さに繋がる。特に、つい先ほどまで国が危機的な状況だったのだ。このタイミングで、のこのこ旧友に会いに行くのは憚られるのだろう。どうしたものかな。



「族長、国の事は我らにお任せ下さい。数日程度族長が不在だからとて、傾くようなホワイティアではないでしょう?」


 宰相ポジションの族長補佐クリムさんが背中を押す。グッジョブです。


「そうですよ、私も久しぶりに族長……いえ、父上と一緒にお出かけしたいです!」


 さらに、ハクアが必殺のおねだりを仕掛ける。娘を溺愛する義父上には、効果抜群だろう。


「ハクア……そうか……私とお出かけしたいか……分かった。婿殿、すまないが宜しく頼む」 

「はい、明日の朝迎えに上がります」


 最後は娘の言葉で折れたようだ。



 人の上に立つというのも大変だよな。周りに同じ立場の人がいない孤独の中で、すべて決断しなければならない。そして、その決断によって、多くの人命が失われたり、そこまで行かなくても、人生を狂わされる人々が出てくる可能性もあるんだ。


 それでも、決断しなくてはならない。嫌でも、わからなくても、選ばなくてはならない。誰も代わってなんてくれない。待ってなんてくれない。


 正解なんか無くて、どちらが良かったなんて誰にもわからない、教えてくれない。ただひたすら結果を、責任を受け止め続けるしかないんだ。



 責任感の強い義父上のことだから、ずっと公務を優先してきたのだろう。ハクアも父親に似ているから、きっと我がまま一つ言わないで、我慢してきたのだと容易に想像できてしまう。


 今回のケルトニア訪問が、父娘にとって良い息抜きになると良いな。



「ハクア、この機会にお前に話したいことがある。母親のことだ……」

「……母上のこと?」

「ああ、ずっと黙っていたが、実はケルトニアにお前の母、リーニャが居る」


「えええぇっ!? 母上は生きていたんですね……ずっと死んだものとばかり思っていましたが……」

「すまない……成人するまでは秘密にすること。それがお前の母リーニャとの約束だったからな……」


 なるほど、何でハクアの種族が半妖精なのかようやく分かったよ。母親が妖精だったんだな。


「てっきり、先輩に取られないように、族長が隠しているのかと思ってたよ……」


 美琴がとても失礼な事をおっしゃる。


 それ、俺も思ってたけど、第三者から言われると、なかなか来るものがあるから止めて!? 言い訳させてもらえば、全部公認だからね? 全然言い訳になってないけどさ。


『ふふっ、久しぶりの里帰りか……楽しみだの』


 えっ? ルルさまも来るんですか? ああ、故郷なんですね。はい、もちろんご一緒しましょう。え? ブラッシング? はいはい、こっちに来てください。ふふふ。


「もちろん、私も行きます。ケルトニアと一番交流が多いのは我が領地。ヴァイスには定期便もありますから、一度視察を兼ねて行きたいと思っていたのだ」


 北方騎士団長ネージュも当然のごとく名乗りを上げる。


「ち、ちょっと待ってください、団長だけズルいです!」


 副団長のオルファが頬を膨らませる。


「何を言う、トップが行かなければ相手に失礼だろう? それにお前たちは国を守るという使命がある。私が不在の間は、お前が団長代理だ。ヴァイスの街と騎士団を任せたぞ」


 嬉しそうにオルファの肩を叩くネージュとジト目のオルファ。


「オルファ、ちゃんとお土産たくさん見つけてくるから今回は我慢してくれ」

「本当ですか! じゃあ英雄殿、できれば婚約指輪とか、もしなかったら婚約指輪でも大丈夫です!」


 ……婚約指輪一択なのね。わかった、妖精の指輪でも見つけてくるよ。


「ところで婿殿、ケルトニアにはどうやって行くつもりだ? 海を渡るだけでも、足の速い船で丸一日かかるが……」

「大丈夫です。彼女に乗って行きますので」


『クロドラだ。主の頼みだからな、特別に乗せてやろう。感謝するんだな』


「……婿殿!? どう見ても一人乗りなんだが!?」


 ですよね……でも大丈夫。


「クロドラ、竜化してくれ、ただしサイズはこの部屋に入る範囲でな」

『……承知』


 みるみる2メートルほどの黒竜に変身するクロドラ。ちなみに人型の時に着ていた服は、首輪型のリボンに変換されるので破れたりしない。


「こ、これは……」


 驚愕の表情で、義父上が語り始める。


『その者黒き竜にまたがりて白き大地に降り立つべし。失われた大地と妖精との絆を結び、人々を大いなる幸福へと導かん』 


「先輩、これってこの地に伝わる言い伝え的な?」

「おお……なんかすごい運命を感じるな」

「旦那様であれば当然のことだ。言い伝えぐらい残っているだろう」

「ナイトさま素敵です!」

 

 セレスティーナとノスタルジアのキラキラした眼差しが恥ずかしい。



「……初めて聞きましたけど?」

「……え? そうなのか、ハクア」


 もしや族長にだけ受け継がれる言い伝えなのか?


「……義父上?」

「ん? ああ、すまん。感動したので即興で今詩にしたのだ。なかなか良く出来ているだろう?」


「……」

「……」

「……」

「……」

 


 さあ、晩餐会が始まるぜ。キャメロニアに帰ろう! 

 

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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