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微妖精


「ところでミヅハ、さっきから周りを飛び回っている、微妖精っていうのはなんなんだ?」


 小さい紋白蝶ぐらいの大きさで半透明の羽を使って飛び回る小さい女の子。俺の鑑定には微妖精としか表示されないので、ミヅハに聞いてみる。


『さすがはお兄様、普通の人間には見えないはずなのですが』

「ほほう……そうなのか」


 そう言われると悪い気はしない単純な俺である。


『微妖精は、精霊の……そうですね、上手く言えないのですが、感情の発露から生まれる存在です』


 言葉にするのは難しいようだが、ようは、精霊が怒ったり、喜んだり、感動したりして、感情が高まると生まれるらしい。その時の精霊の感情によって、微妖精の性質も異なるのだとか。まあ、そりゃそうだよな。


『感情から生まれた存在ですので、精霊より人間に近く、好奇心旺盛なところがあります。微妖精だけに、人間に対して微妙な嫌がらせやちょっかいを出すのが玉にキズですが…」


 なるほど、微妙というのが、どの程度なのか分からないのが不安だが、危険な感じはしないな。むしろかわいい……


 たくさん近寄って来たので、掌の上に乗せて愛でる。ふふっ、まるで巨人になった気分だよ。


『お兄様……精霊や妖精に触っては駄目だと以前から申し上げているのですが?』


 げっ!? そういえばそうだったな。時すでに遅し、触りまくってしまったよ!?


 触れてしまった微妖精たちが、俺の契約状態になっている。


『マスター、契約してくれてありがとうございます! 頑張って働きますよ』


 ふんすと鼻息荒くやる気を見せる微妖精たちが可愛らしい。


『お兄様、微妖精に限りませんが、妖精に名前と衣服を与えることで、より力が増し、忠誠心が上がるのですよ』


 ほほう……それは良いことを聞いた。さっそく名を付けてあげよう。姿が見えない微妖精なら、出来ることはたくさんある。ふふふ。


 赤い髪の子が、アカリ。

 青い髪の子が、アオイ。

 黄色い髪の子が、カレン。

 緑の髪の子が、ミドリ。

 桃色の髪の子が、モモ。


 うん、なかなか可愛い名前になったと思う。


『マスター、かわいい名前ありがとうございます~』


 おお、みんな気に入ってくれたみたいだな。


『……お兄様、なぜ黄色だけカレンなのですか?』


 さすがはミヅハ、やはり気づいたか……


「イエローはカレーだからな」

『…………さすがお兄様です』


『マスター、カレーってなあに?』

「世界一美味しい食べ物のことだ、カレン」

『うええええ!? 私、マスターに食べられちゃうんですか? エッチなんですね!』 


 いかん、大いなる誤解を招いてしまったか。まあ、エッチなのは事実だが。


『お兄様、カレーが食べたくなってしまいました。作りましょう』

「そうだな、材料はだいぶ集まってきたんだが、出来ればあと一、二種類集めたい植物があるんだよな。今のままでも美味しいとは思うんだけど……」


『それなら、モグタンに聞いてみたらいかがです? あれでも一応、土の超精霊なのですから』


 モグタンか……嫌な予感しかしないが、駄目もとで聞いてみるか。



『何モグ? 探している植物があるモグか? ふふっ、聞く相手を間違っているモグ。モグタンにわかるわけないモグ』


 くっ、このモグタン、いったい何の役に立つというのか? いや……違うな。聞き方が間違っていたんだ。


「モグタン、この味の植物を知らないか? 今イメージを伝えるから」

『もぎゅっ!? ま、まったくマスターは、実はモグタンにキスしたいだけじゃないのかモグ?』


「……それは否定しないが、それでどうだ? ありそうか?」

『否定しないもぎゅ!? あわわわ……マスターがデレたもぎゅ……』

「……モグタン?」

『えっと……知っているモグよ』

「本当か!? どこに生えているんだ? 教えてくれモグタン、美味いカレーを食べさせてやるから」


『ふふっ、マスターはせっかちモグね。今取り出してあげるモグ』


 モグタンの胸元から、お目当てのものが出てくる。一体どうなっているのかいつも不思議に思っていたので、チャンスとばかりに、手を突っ込む。あくまで研究目的であって、他意はあるが、多くはない。


『うはっ!? だ、駄目モグ、あんまり動かさないで欲しいモグ』


 ふふふ、大量の食材ゲットだぜ。モグタンの胸元から、掴めるだけ掴み取る。


「おおっ、これこれ、コリアンダーとナツメグ、ありがとうモグタン」

『はあはあ……まったく酷い目にあったモグ、これじゃあお嫁さんになれないモグ』

「ん? 何言っているんだ、モグタンは俺のお嫁さんじゃなかったのか?」

『もぎゅっ!? や、やややっぱり、デレたもぎゅ、デレマスもぎゅ!?』


 盛大に照れるモグタンはやっぱり可愛いな。


「なあ、ミヅハ、なんでこの辺りは微妖精が多いんだ? 今まで見たことないんだけど?」

『妖精の国が近いからです、お兄様。もともとこの土地は多くの精霊が住まう場所でした。そこに人間がやってきたことで、多くの妖精が生まれ、やがて国を作るまでになったのですよ』


 ミヅハの説明によると、厳密には形のない精霊が人と触れ合うことで妖精が生まれ、その妖精に名が付けられたことで、様々な妖精種族に分かれて行ったらしい。なるほどね。元は同じでも、概念というか、定義づけされることで、存在や性質が固定化されたんだな。となると――――


『ふふっ、お兄様のお好きなモフモフの妖精もちゃんとおりますよ?」


 そうか……やはりいるか。


 もはや、妖精の国を訪ねることに何のためらいも迷いもない。


 だが、問題が山積しているのも事実。特に一番問題なのは、明日の予定が決まっていることだ。すでに予定より遅れてしまっているアルゴノート表敬訪問という名目の牛獣人ハントをまたずらすことになってしまうのは悩ましい。


 どちらを優先するべきか……おっとり美女の牛獣人とモフモフ妖精の狭間で揺れ動くカケルであった。 

 

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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