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モフをするためには手段を選んではいられません


「英雄殿、どうして貴方はそこまでして下さるのですか? 白の民とは縁もゆかりもないのに」

 そんなことを言うのは失礼だってわかっている。けれど聞かずにはいられなかった。


 だって、食糧支援をしていただけるだけでもありがたいのに、バイキン族の撃退、農地改良まで協力して下さるなんて、とても信じられません。


「ハクア、縁もゆかりもないわけじゃないよ。だってラウラさんの故郷なら、俺の故郷のようなものだからな。それに、貴女は彼女によく似ているんだ。とても放って置けないよ」

「ラウラさんって、まさか……あのラウラさまですか?」

「ああ、キャメロニア初代王妃のラウラさんだ。彼女の姿は、俺の頭の中にはっきり記憶として残っているんだ」

「そう……ですか。うらやましいです。私はお話で聞いているだけで、姿も知らないのですから」


 ラウラさまと私が似ているなんて考えたこともなかった。すごく誇らしくて、とても嬉しい気持ちになります。


「もし良かったら、ラウラさんの記憶を見せてあげることも出来るけど?」

「英雄殿、ぜひ、お願いします! 何でもしますので、どうかお願いします!!」

 

 見たい、触れたい。どんな些細なことでもいい。ずっと憧れていた女性だから。そんな夢みたいなことを本当に出来るかなんて疑いもしない。だって英雄殿が出来ると言えば出来るのですから。気付けば、彼の胸元にすがりついていました。私としたことが何とはしたない。


「お、おお、分かった。だが、記憶を渡すには、頭部の濃厚接触が必要になる。覚悟は出来ているか?」 


 と、頭部の濃厚接触!? な、なんて卑猥で魅惑的な響きなのでしょう。おでこ? それとも……きゃあああ! だ、駄目です、そんな……出逢ったばかりではしたない。くっ、でも、おでこでは物足りない……そうだ!! ならば間をとって……


「は、はい、大丈夫です! では、鼻にお願いします」

「……鼻!? わ、分かった」

 あれ? 何でそんな反応するのですか? 私、変なこと言ってはいないですよね?



 あ……来ます。英雄殿が近い! うわあ、近すぎます。とても良い香りで、早鐘のような鼓動がバレてしまいそう。うぅ……恥ずかしい。やっぱりおでこにしておけば良かった。


 カプッ!!


 ふぇっ!? え、英雄殿? な、何で鼻をカプッってしているんですか!? お、美味しくないですよおおお!? うはあああああ! き、気持ち良い……頭に色んな記憶が流れ込んで……



***



「大丈夫か?」

 静かに瞳を濡らすハクアの肩をそっと支える。


 その金色の瞳はまるで狼の金眼のようで、勇敢で誇り高い彼女そのものを体現しているように思える。

 

「はい、ありがとうございます。ラウラさまの御姿、御声、想いに触れることが出来るとは、夢にも思いませんでした。でも、本当に似ていて驚きました。最初、私自身が出てきたのかと勘違いしたくらいです」

「ハハッ、だろう? 鼻をカプッってして欲しがるところも同じだから驚いたぞ?」


「……英雄殿? 私は鼻に軽くキスをして欲しかっただけなんですが!」

 ジト目で抗議してくるハクア。

「え!? そ、そうなの!? 俺はてっきり……」

「も、もうそれは良いのです。それより、何故英雄殿がラウラさまの鼻を? そ、それに……あ、あんなことまで……は、ハレンチです!!」


 し、しまった!? 余計な記憶まで見せてしまったか。


「ハクア、それは、ラウラさんの魂を解き放つために必要なことだったんだ」

 

 うむ。嘘は言っていない。我ながら完璧な言い訳であるな。なぜ言い訳しているのか分からないけど。


「ふーん……ルルさま?」

『うむ、嘘は言っておらんな。嘘は!!』


 くっ、このルルさまは、クロエ並に鼻が利く。何とかせねば。


「ルルさま、良かったらブラッシングしてあげよう」

『ブラッシング!? ほ、ほう……それはまた……だが我はハクアの守護者……』

「頼むよルルさま! その美しい毛並みをブラッシングしたいんだ。乱れたままにしておくなんて俺にはとても出来ない。世界の損失だと思うんだ」

『はううっ!? し、仕方ない。そこまで言われたら、させてやらんでもない。美味い肉とハクアを助けてくれた礼だ』


 めっちゃ尻尾を振っているルルさまが可愛いくて辛い。



『うはあああああ!? 気持ち良いのだああああ! も、もっと首周りも頼む!』


 ふふふ、すっかりブラッシングがお気に召したようで……よし、この勢いでモフろう――――


『モフは駄目だぞ!』

 くっ、やはり駄目か……仕方あるまい。こんな手は使いたくはなかったんだが……


『分裂!』


 ククク、4人同時にブラッシングだ。あのクロエですら仔犬以下になるほどの威力。とくと味わうが良い。


『きゃふーん! にゃ、にゃんだこれは……にゃ、にゃぜ止めるんだ?』

「続けても良いけど、やはりモフが無いとやる気が……」

『わ、分かった、モフって良いから! は、早くブラッシングを!』



「あ、あのルルさまが、まるで借りてきた猫のように……凄いです、英雄殿!!」 

 ありがとうハクア。なぜか口調まで猫っぽくなっているのかは不明だけどな。

 

「くっ、私が御主兄様の専用狼なのに……うらやましい」

 ふふっ、安心しろクロエ。次はお前の番だからな。

『それでは、我はその次だな』

 ふふふ、クロドラはいい娘だ。クロエの次はお前な。

『主、我はちゃんと順番を守るぞ。ドキドキワクワク』

 お待たせして申し訳ない。了解したぞ、リーヴァ。

『主、姉さまの次は我という理解で構わないか?』

 ああ、お前の場合は、ブラッシングだけだが……うえっ!? 泣くな、分かったから、産毛モフしてやるからな?


 ははは、まったく商売繁盛で困ったな。


 ほらほら、押さないで並んでくれよ? でもまいったな。モフをするために手段を選ばなかっただけなのに、モフ率低すぎだろ!? あと、ドーラさん? 貴女ワイバーンですよね? ブラッシングも、モフも出来ないんだけど? え? 鱗モフ? くっ、やってやろうじゃないか。 


 もはや、モフの定義がわからなくなってきたカケルである。

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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