表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

358/508

大地の魔獣

 

 ギガン島へは、クロドラに乗って飛んでゆく予定だ。


 出発の準備を進めていると、けたたましい音がして、竜騎士団副団長のカルラが飛び込んでくる。


「た、大変です! 白の民が北の国境に押し寄せているとの報告が入っております」

「な、なんだと? まさか……ディヴィジョン山脈を越えて来たというのか?」

 

 エレインが顔面蒼白になる。白の民って確か……ラウラさんの種族だよな? それにディヴィジョン山脈? あんなところに山脈なんて無かった筈なんだけど、まあ多少は地球と違ってもおかしくはないのか?


「違います。信じがたいことですが、ディヴィジョン山脈が消えたというのです。それで白の民が国境地帯を易々と越えてきており、一部では、すでに侵入を許してしまっているとのこと」

「山脈が……消えた? そんなことがありえるのか?」

 

 信じられない様子でいるエレインだが、嘘をつく意味もないだろうし、実際にそうなのだろう。消えた山脈とか、すごーく嫌な予感がするが、とにかく原因の究明より先に、侵入してくる白の民を何とかしなければならない。


「エレイン、北の国境付近に水源はあるか?」

「は、はい、ミスリス湖という湖がありますが……」


 キャメロニアの北限は、丁度スコットランドとの国境辺りだったはず。普通に飛んでいったのでは、時間が掛かり過ぎてしまう。


(ミヅハ! 頼めるか)

(お任せください。いつでも大丈夫ですよ)


 神々しいほどのオーラを纏った精霊神ミヅハが現れる。最近の妹は、美しさが神がかっているので困るよ。ミヅハが可愛いくて仕方がないことを、可愛い精霊神に祈りを捧げながら報告する。

(も、もう……お兄様ってば、私のことを私に報告してどうするのですか……ふふっ)


「みんな! ミヅハが国境付近まで水源転移するから、一か所に固まってくれ」

 

 精霊神ともなると、パーティごと触れずに転移させることなど容易い。一瞬で俺たち全員、国境付近にあるというミスリス湖に到着する。


 すでにこの辺りには、白の民が大挙して押し寄せており、国境付近の町や村が襲われているのは明らかだ。遠目にも、火や煙が立ち昇っているのがわかる。


「みんな急げ、なるべく白の民を傷付けずに無力化するぞ。過去のような殺し合いの悲劇を繰り返すわけにはいかないからな」

「「「「はい!」」」 


「ミヅハとモグタンは、とりあえずでいいから、国境に仮の壁を作ってくれ。これ以上の白の民が流入してくるのを止めるんだ」

『わかりましたお兄様』

『分かったモグ』


 上位精霊の力は凄まじい。みるみる国境線数百キロにわたって地面が隆起し、頑丈な壁が出来あがる。しかも表面は魔法でも溶けないミヅハの氷でつるつるコーティングしてあるので、破壊することも、登って乗り越えることも難しい。少なくとも、時間稼ぎには十分だ。


「すでに侵入している白の民に関しては、エレインの指示に従ってくれ。俺は国境を越えて白の民の様子を確認してくる。出来れば山脈が消えた原因もな」


「美琴、セレスティーナ、ミヤビ、ベルトナーくんはノスタルジアを頼む。クロエとヒルデガルドは、みんなをサポートしてやってくれ」 

「「「「分かりました!!」」」」


 念のため、何体か召喚獣を召還してから、白の民の国へ向かうべく、飛翔スキルで空へ飛び――――


『待つのだ、主!!』

 鋭く声を発し、俺を制止するのは……


「どうしたんだ、リーヴァ?」 


 現れたのは、リヴァイアサンのリーヴァ。相変わらず召喚していないのに、やりたい放題、好き放題だな。せっかくなので、ブラッシングは欠かさないけどな。


『不味いぞ主、このままでは、まもなくこの国は終わる』

 

 ブラッシングされながら、いきなりとんでもないことを言い出すリーヴァ。彼女にしては珍しく焦っているようにも見える。ブラッシングは満喫しているみたいだけどね。やれやれ、嫌な予感が当たってしまったか。


「リーヴァ、どういうことだ?」 

『……ベヒーモスだ。奴か来る』


 ベヒーモス……前にリーヴァが言っていた原初の魔獣の一角。大地を司る存在だったな。たしかにそんな奴が来たら、この国は簡単に踏み潰されちまうんだろう。そんなことはさせないけど。 


「分かった。それで、ベヒーモスは何処から来るんだ?」


『……空だ。まもなく落ちてくるぞ』

「マジかよ!? ベヒーモスってデカイんだろ?」


 リヴァイアサンもとんでもない大きさだったからな。絶対ベヒーモスもデカいに決まっている。そんなのが落っこちてきたら、国どころか、この大地まで割れちまうんじゃないのか?


『ああ、おそらく消えたデヴィジョン山脈の正体はベヒーモスに違いない。我と主の力に反応して目覚めたのかもしれんな』


 うわあ……それじゃあ俺のせいみたいなものじゃないか!? 絶対に被害を拡大させないようにしないと。


「……ちなみになんで空から?」

『……寝起きの準備運動だな』

「……ものすごーく迷惑なんですけど」


 リーヴァによれば、目覚めたベヒーモスは、目覚めの遊泳飛行をするらしい。ああ、そうか、ベヒーモスは別名バハムートだったな。そりゃ飛べるわ。


「そのまま何処かへいってしまう可能性は?」

「無いな。必ず同じ場所へ戻ってくる。というか落っこちてくるから、この辺一帯は間違いなく壊滅だな」


 くそっ、山脈サイズの魔獣がはるか上空から落ちてくるとか、ヤバすぎる。さすがに受け止めるのは無理っぽいから、空にいる間に何とかしないと。


「……なあ、リーヴァ」

『……なんだ?』

「ベヒーモスは倒すしかないんだよな?」

『……ああ、それが我らが救われる唯一の方法だ。すまんな』 

「……いいんだよ。約束しただろ? だけど、もし俺がしくじったら、その時は悪いが頼んだぞ?」

『……万が一にもないと思うが?』

「……ずいぶんと評価してくれているんだな」

『ふん……ほれ、早く行かないと手遅れになるぞ』


「ああ、行ってくるよ、リーヴァ」


 いつになく顔が赤い彼女の頭を撫でてから、ベヒーモスを倒すため空へ飛び立つ。また寝起きを襲うのかと少しだけ申し訳なく思いながら。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i566029
(作/秋の桜子さま)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ