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ギガン島と如意棒


 結局、キャメロニアの次期国王には、ルーザーが就くことで話はまとまった。とはいえ、ヴァーミリオン陛下はまだ若く、当分先の話にはなるのだけれど。


 そして色々と企んでいた宰相のドリトルであったが、彼の目論見通り、ルーザーが王太子となったこと、最大の手札であった筆頭宮廷魔導士のマーリンが派閥を抜けたこともあり、今はすっかり野心的な動きも鳴りを潜め、国のためにその能力を使ってくれそうだ。


 実際のところ、ドリトルがルーザーを推していたのも長期的な国家運営の観点からだし、有能で賢い男は嫌いじゃない。今度の国際会議に関しても、早速彼に丸投げさせてもらうことにする。


「将来立派な王となれるように、頑張って一杯勉強しますね、お義兄さま」

「ああ、期待しているぞ。困ったことがあれば、何でも相談してくれ」

 すっかり懐いたルーザーの頭を撫でる。キラキラした目で俺を見てくる可愛い義弟だが、パタパタ振る尻尾と耳が幻視できるよ。



***



 ところ変わって、俺たちはあてがわれた王宮のゲストルームでくつろいでいる。


「しかし、旦那さまは、実質このキャメロニアを支配しているようなものだな」

「ん? そんなことないぞ。確かに公爵位と領地は貰ったけど、それだけだ」


 セレスティーナは、呆れながら抱き着いてくる。実に器用なことをするなあと感心しながらも、しっかり受け止める。


「何を言っているんだ? 現国王の実質的な王妃で国の守護者聖剣エロスカリバーのエロースに加えて、次期国王の姉アーシェ、現国王の本当の娘で竜騎士団長エレイン、副団長のカルラ、宮廷筆頭魔導士のマーリンまで押さえておいて、よくもまあ……」 


 ……言われてみればそうだね。はい、俺が影の支配者です。でも、マーリンは婚約者じゃ……え? 時間の問題? くっ、否定できない。


 でも、その理屈で言ったら、ほかの国での俺の影響力も大概ヤバいけどな。まあ、それで安定するなら別にいいんだけどさ。



「ナイトさま、この後はどうなさるのですか?」

 器用にも小首を傾げながら抱きついてくるノスタルジアを抱きしめる。両手に花ならぬ両手に王女だ。

「カケル殿は私と一緒に領地の視察に行きますよ、ノスタルジア」

 殴り掛かると見せかけて抱きついてくるミヤビ。ただし、絞め技に移行しただけだったりするので注意は必要だ。もちろん抱きしめる。


「えええぇっ!? ミヤビ姉さまだけずるいです。私も行きます!」

 口を尖らせるノスタルジアだが、結構危険な場所……いや……今更だな。レベルだけはめちゃくちゃ高いし、むしろ離れている方が危険な気がして来た。

「よし、ノスタルジアも一緒に行こう!」

「はいっ!」



***

  


 陛下から賜ったのは、ギガン島という島だ。地球でいうと、イングランドとアイルランドの間にあるマン島だな。バイクレースで有名な淡路島くらいのサイズの島だ。


 ガウェイン卿の領地だったそうだが、彼は一度も島に足を運んだことが無く、実質的には放置されているそうだ。その理由は――――


「えええぇっ!? きょ、巨人族ですか?」

「はい、ノスタルジア姫。ギガン島は、百年ほど前から巨人族が不法占拠しており、上陸すらままならない状態なのです」

 おとぎ話にしか出て来ない伝説の巨人族に大興奮のノスタルジア。エレインも引くほどの迫力だ。


「っていうか、それって厄介払いで先輩に押し付けただけだよね?」

「そ、それは申し訳ないと思っている……」

 美琴のもっともな指摘に項垂れるエレイン。


「いや、せっかくのチャンスだ。宰相の思惑に乗ってやるさ。ようは巨人族と仲良くなればいいんだろ?」

「仲良くって……いくら先輩でも、サイズが違い過ぎるよ?」

 うむ、もっともな意見だな。だが大丈夫。

「心配するな、美琴。俺には如意棒がある」

「さすが先輩!! なら安心だね」



「ねえミヤビ姉さま、美琴さまたちはいったい何の話をしているのでしょうか?」

「ふえっ!? さ、さささあ? 何の話でしょうね? ミヤビわかんなーい」

 大雑把に誤魔化すミヤビ。


『身長の話ですよノスタルジア姫。巨人族と人族とでは、サイズが違い過ぎますからね』

「なるほど……ありがとうございます。ヒルデガルド。それで如意棒とはいったい?」

『……さあ? 聞いたことのない単語です。ヒルデガルドわかんなーい』


「ふふふ、ノスタルジア、そんなことも知らないのか? 異世界マニアなら常識レベルの問題だぞ?」

 自慢げに胸を張るセレスティーナ。異世界検定1級の彼女に分からないことなどまずない。

「さすがはセレスティーナお姉さま!! 私ももっと勉強しないと……」

 呪いの為にずっと病床で苦しみ続けてきたノスタルジアだ。世間のことをほとんど知らないのは仕方が無いこと。だがこれからは違う。彼女の未来は明るく、人生は今始まったばかりなのだ。



(……どうすんの先輩? なんか罪悪感が……)

(奇遇だな、俺もだ)



「ねえ、ナイトさま! 私にも如意棒見せて下さいな」

「へ!? 今ここで?」

 セレスティーナから、如意棒の説明を受けてはしゃいでいるノスタルジア。彼女の純真無垢な好奇心に抗うことなど出来ようか? いや出来ない。


 だが、すまないノスタルジア。お前の見たいのは表の方だ。だが俺の如意棒は裏、ダークサイドの如意棒だ。見せる訳にはいかないんだよ。くっ、やむを得ん。


『時空魔法!!』


 妄想スケッチで、如意棒を作る。ふははは、ありがとうイヴリース。お前の時空魔法は一番使用頻度が高い魔法になっているよ。


「ほら、これが如意棒だ、ノスタルジア。意のままに重さ、長さ、太さが変えられるんだよ。良かったらノスタルジアにプレゼントしよう」


 如意棒を受け取り、花が咲いたような笑みを零すノスタルジア。


 その純真無垢な笑顔に穢れた心が浄化されてゆくのだろう。彼女の周囲には、ご利益にあやかろうと、いつの間にか人の輪が出来てゆくのであった。 

    


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i566029
(作/秋の桜子さま)
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