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新たなる聖剣


「ところでエロース。一体どうなっているんだ!?」

 声を荒らげる俺。実は深刻な事態に気づいてしまったのだ。

「あの……なんのことかわからないのですが?」

 困惑するエロースの胸元あたりに視線を落とす。

「……まな板が無くなっているじゃないか!」

 そう、美しいエロースの中でも最強かつ唯一無二の存在が失われていたのだ。これは捨て置けない。

「…………そういえばそんなことを仰ってましたね」

 これ以上ない呆れ顔の彼女に言いたい。そんな悠長なことを言っている場合かと?


「頼む……これ以上失いたくないんだ」  

「……そんなシリアス風に言われても……あ、でもご主人様、たぶん一気に注いだからバランスがおかしくなっているだけだと思います。ほかの場所にも均一に注げば元に戻りますわ」

 なるほど、一理ある。たしかに集中的に注いでしまったのは俺のせいだ。くっ、自分の責任を棚に上げて彼女を責めるなんて、俺はどうしようもないご主人様だな。


「エロース、こんな至らない主人だが、一緒にいてくれるか?」

「……もちろんですわ。絶対に離れたりなんてしません」

 当然失なわれるものがあれば、得るものもあるのがこの世の摂理。堂々と存在感を主張するその感触も俺は決して嫌いなわけではない。むしろ好きまである。だが、やはり物事は本来の姿に戻るべきなのだ。二兎を追うもの一兎をも得ず。つまりはそういうことだ。


「じゃあ、いくぞ。満遍なく注いでやるから」

「ふぇっ!? い、今からですか? さっきあんなに……もうっ、ご主人様ったらせっかちなんですから……」



***



「というわけで、契約は変更されて、彼女は俺の剣となった。みんなよろしく頼む」


「御主兄様がまた刃物を……」

 クロエ、彼女は刃物じゃない。まな板だ。

「先輩、まさか私のエクスカリバーも狙ってるんじゃ!?」  

 やめるんだ美琴。そんなことを言われたら意識してしまうじゃないか。



「英雄殿、感謝するのである。聖剣の力を失うことにはなったが、初代様、王妃様の想い、そして我ら家族の未来もこれで救われた。本当にかたじけない」

 頭を下げる聖剣王だけど、俺はたいしたことをしてませんよ。はっきりいって、注いだだけですから。ははは。


「そのことなんですが、代わりにといっては何ですが、これを使ってください。俺なりに想いを込めて作った剣です。効果はエロスカリバーを参考に遜色ないと思います」

 燃えるような赤い刀身に、真っ白な柄。ガリオンさん、ラウラさんをイメージした。


「こ、これは……素晴らしい剣だ……聖剣カケルシオンと名付けよう!」

 興奮して叫ぶヴァーミリオン陛下。

「なっ!? それはダメです!! 我がアストレアの神剣カケルシオンと被ってしまう」

 慌ててセレスティーナがダメ出しをする。

「むう……セレスティーナ姫がそういうのなら諦めよう。それでは、聖剣カケルノではどうであるか?」

「駄目です陛下。それでは、我が国のカケルノと被ってしまいます」

 ノスタルジアがすかさずダメ出しをする。どうでもいいけど、この世界の人たち、カケルノ大好きだよね!? なんで?

「ヴァーミリオン陛下、実はその剣、もう名前があるんですよ」

「……最初に言って欲しかったのである」

 ですよね……すいません。


「それで、先輩、その聖剣の名前は?」

「ああ、名付けて聖剣キャメロディアスだ。格好良いだろ?」

「……いろいろ危険な名前だけど大丈夫かな?」

「問題ないだろ。たぶん」

「おおっ、素晴らしい名前である。我が国の国宝にするぞ」

 陛下にも気に入っていただけたようで何よりだ。



「なあ、英雄殿、それではもう私が王になる必要はないのだな?」

「ああ、もちろんだ。アーサー王子として王になりたいなら応援するけど?」

「いや、身体は男だが、心の中は女性のままなのだ。王妃を迎えることもできないし、とても王は務まらんよ。私は生涯ルーザーとこの国を守るための剣として生きようと思う。こんな身体では、お嫁さんにもなれないしな……」

 淋しそうに小さく笑うアーサー王子。


「心配するな。世界樹の実で男性化したなら、もう一度世界樹の実を食べれば元に戻る」

「理屈ではそうかもしれないが、無理だ。世界中を探してようやく奇跡的に一つ手に入れられたんだからな」

 確かに世界樹のお膝元のガーランドでも国宝級の扱いを受けていたからな……でも、


「ルシア先生!」

「ふふっ、なあにカケルくん。やっと呼んでくれたと思ったら、おねだりかしら?」

「ああ、悪いんだけど、1個だけもらえるかな?」

「……いいけど、条件があるわ」

「……条件?」

「……カケル子になってちょうだい」

 なんだそのかわいくない名前は!? もう少し……いや駄目だな、カケルは女の子の名前と絶望的に相性が悪い件。結局カケル子が一番マシなんだと納得。

「……1回だけだぞ?」

 べ、別に、前から興味があったとかじゃないんだからね!? アーシェのために仕方なくなんだからね!? う、我ながら気持ち悪いな。

「やった! じゃあ、はいこれ世界樹の実よ」

 大喜びのルシア先生。大きなパイナップル……いや、世界樹の実を胸元から取り出す。いったいどんな仕組みになっているのやら。興味深いので早速調査してみる。

「ち、ちょっと、カケルくん……こんな人前で……」

 そんなことを言いながらも、抵抗しないルシア先生。調査にご協力感謝いたします!!


「あ、あの……そちらの方はいったいどちら様なのでしょうか?」

「ああ、彼女はルシア先生。世界樹の精霊で、俺のお嫁さんだ」

「へ? 世界樹の精霊? お嫁さん?」

 混乱するアーサーだが、無理もないか。見た目エロいお姉さんにしか見えないし。

「大丈夫、少なくともその実は本物だから。さあ、食べてみて」

 聖剣エロースで手早く皮を剥き、アーサーに手渡す。

「わ、わかった。食べてみよう」

 おずおずと手を伸ばし、世界樹の実をほおばるアーサー。小さな口には収まりきらずに、果汁があふれ出てしまう。大き目にカットしたのはもちろんわざとだ。


 アーサーの全身が淡く輝き始めると、俺は祈るように胸元を見つめる。そして完全に女体化が完了したとき、俺は深い安堵のため息とともに、天上の女神へと深い感謝の祈りを捧げるのであった。


  

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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