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聖剣王ヴァーミリオン


「初めまして、異世界人の英雄カケルです。いきなり押しかけたにも関わらず、お会いいただき感謝いたします」

 大分陛下を待たせてしまったので、かなり気まずいが、ここはスキル『威風堂々』で乗り切る。

  


「うむ。余がキャメロニア王国国王ヴァーミリオンである。よくぞまいった英雄殿」

 さすがは国王陛下、何事も無かったように堂々としておられる。器が大きい。キャメロニア人特有の燃えるような赤い髪がライオンのたてがみのように逆立ち、獲物を狙う肉食獣のような翡翠色の瞳がギラついている。


「それでは陛下、早速ですが、捕虜の件――――」

「しばし待て、その件は聞いているが、先に確認させてもらおう。エレインに手を出したのは本当か?」

 う……まずい。陛下はエレインを溺愛しているんだったな。うまく刺激しないように伝えないと……


「はい、伯父さま、後ろから前からそれはもう激しく……」

 頬を染めて報告するエレイン。うわああああ!? 間違ってはいないが、言い方おかしくないですか、エレインさん?


「ぐはあっ!? な、なんだと……くっ、英雄色を好むと云うが、まさかここまでとは……」

 わなわなと震えていらっしゃる陛下。これはもう手遅れかもしれない。

「陛下、エレインとカルラとの結婚をお許しいただければありがたく」

「なんだと!? エレインだけでは飽き足らず、カルラにまで……うぬぬ、面白い。余と勝負をして勝ったなら認めてやろうではないか!」

 陛下が剣の柄に触れると、腰に下げている聖剣が輝きを増す。あれが、聖剣エロスカリバーなのか?


「へ、陛下、お止めください」

「ええい、下がっておれ」

 必死に諌める家臣たちだが、陛下は止まらない。このままでは王宮に被害が出ると、慌てて宮廷魔導師たちが結界を張り始める。



「俺は構いませんよ。むしろ分かりやすくて助かります」

「はははっ、よくぞ言った。安心しろ、手加減はしてやる」

 聖剣の力で陛下の能力が跳ね上がる。なるほど……これはたいしたものだな。単純な比較はできないが、ステータスだけなら四聖剣や七聖剣を上回っている。


「伯父さま、止めてください」

「なんだエレインまで。殺しはしないから、黙って見ていなさい」

「違います。伯父さまでは歯が立ちません」

 あの……あんまり煽らないでね、エレイン?


「……前言撤回だ。手加減は英雄殿に失礼だったな。全力で殺しに行く」

 手加減してくれても全然構わないんですよ!?


『目覚めよ聖剣、古き盟約により邪悪なるものを討果たせ!』

 引き抜かれた聖剣が輝きを増し、ヴァーミリオンの身体が燃えるようなオーラに包まれる。


 くっ、俺から邪悪エロを取ったら何も残らなくなっちまう。恐るべし聖剣。


「死ねえええええええ!!」


 速いな。そして重い。竜種であろうと一刀両断できるであろう一撃。おそらく、視認できるものは多くない。だけど――――

 

「シグレ」

「がっ、ば、馬鹿な……!?」

 デスサイズで聖剣の刃を受け止める。


「くくっ、我が聖剣の一撃が受け止められたのは初めてである」


 謁見の間に、数え切れない剣戟の音が響き渡る。一体居合わせた者たちの何人が、闘いの実態を捉えられていただろうか。



「……もうよい。そなたの力、十分わかった。これでは認める他あるまいな」 


 突然、動きを止めると、聖剣を鞘に戻し、玉座に腰掛けるヴァーミリオン陛下。


「ありがとうございます陛下」

「ありがとう伯父さま!」

「ふふっ、良い婿をもらったな、エレイン。カケル殿になら、安心して任せられるというものだ」



(さすがは聖剣王ですね。実力の差を理解し、すぐに引き下がるなど、中々出来ません)

(そうだな。器の大きい素晴らしい王だと、俺もそう思うよ)


(皆の前で王に恥を掻かかせまいとしたお兄様、そしてその意図を正しく受け取り、自ら剣を引いた王。素晴らしい闘いであったとミヅハも思います)



***



 その後、捕虜の返還について話し合い、捕虜たちは、半年間新しいダンジョンで働いてもらい、その後、俺がキャメロニアに送り届けることになった。


 キャメロニアは、もう俺の家族でもあるのだから、もちろん無理な要求はしない。もともとそのつもりもなかったけどな。


 とりあえず、アストレア、アルカリーゼとのキャロイモやお酒などの貿易協定を結び、船による三国間の定期便の運行も決定した。実際のところ、アストレアは内陸の国だから、実質アルカリーゼとの交易となるが、キャメロニアの商人たちがアストレア国内で行商できるようになるのは大きい。


 また、頓挫した形の新大陸に関しては、俺が引き続き協力することとなった。実のところ単に行ってみたかっただけだ。ついでにベルトナーくんが新大陸調査の責任者に指名されたので、それに伴い、なんと身分が子爵にランクアップした。まあ、領地なしで肩書だけの爵位だけどな。


 それから、せっかくなので、国際条約会議にも参加してもらうことにした。キャメロニアが参加すれば、海洋も含めた広範囲が条約の影響下におさまることになる。


「ふふっ、でもそうなるとベルゼが嘆く姿が想像出来ますわね」

 クスクス笑うノスタルジア。


 そうなんだよな。俺が次々に参加国を増やすもんだから、宰相のベルゼさんには、毎回苦労をかけている。今度、ちゃんと御礼をしなきゃだよな。



***



 難しい交渉が終わって、これから王族との食事会だ。当然アーサー、ルーザー両殿下も参加するので、楽しみではある。


 食事会は、例の浮遊庭園で行われるらしい。そういえば、あんな高層に、どうやってあんな不思議庭園を造って、維持しているんだろうか?


「え? 浮遊庭園ですか? なんでも、大昔に伝説の錬金術師セツナ=シラサキという方が、設計したと伝わってますが」

 

 うちの可愛い天才どんだけ働いてたんだよ!? こんなことなら連れてくればよかったな。


 帰ったら目一杯、刹那を甘やかすことにしたカケルであった。


 

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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