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閑話 アデルの決意 前編


「アデル……本当に行くの?」

「はい、お母さん。私もう決めたんです」


 心配そうな母を少しでも安心させるために、強い決意を見せなければなりません。


「絶対にカケルさまにもう一度会いたいんです」



***



 両親に見送られ、家を出ると、近くの町まで歩く。このあたりでは一番大きい町だ。



 森でオークに襲われた私を助けてくれた王子様。


 あの優しい声と素敵な黒い瞳。今でも忘れるどころか、想いは募る一方なのです。


 せっかく助けてもらったのに、オークに穢されてしまった私をもらってくれる人など、残念ですがこの村にはおりません。であれば、カケルさまのお役に立ちたい。あの方のために生きたいのです。



 とはいえ、カケルさまのお屋敷があるプリメーラまでは、それなりに距離がありますから、私のような女一人の旅などできるはずもありません。


 あの時カケルさまからいただいたけれど、使わずにとっておいた見舞金を使って、冒険者ギルドに依頼をしたのです。プリメーラまで行く冒険者の方々に同行させてもらえるようにって。


 護衛ならば、とても高くなってしまいますが、この方法なら、相場よりもかなり安く引き受けてくれるのです。あくまで同行ですから、冒険者の方々にとっては、何もしないで稼げるというわけですね。



「おはよう、ハナ。依頼していた件、引き受けてくれる冒険者が見つかったんですって?」

「あら、おはようアデル。そうなの、聞いて驚きなさいよ? とんでもない大物が引き受けてくれたわ。貴女、持ってるわね」


 そういって興奮気味にまくしたててくるのは、幼馴染で親友のハナ。この町の冒険者ギルドの受付嬢をしている。何を隠そう、今回の裏ワザは、彼女に教えてもらったのだ。


「え? お、大物っていったい?」


「お、その子がアデルちゃんか? 俺はジャミール、よろしくな!」

「こんにちは、お嬢さん、ヴァレンティノです。プリメーラまでよろしく」


 アデルが突然の背後からの声に振り向くと、燃えるような赤毛の二人組の冒険者が立っていた。



 何でも、ジャミールさんとヴァレンティノさんは、A級とS級冒険者の兄弟で、バドルからプリメーラに戻る帰り道なんだとか。


 S級冒険者と言えば、この国にも一桁しか居ない、単独でドラゴンと戦える力を持つ存在だと聞いたことがあります。


 舞い込んだ幸運に戸惑ってしまいますが、安全はお金には代えられませんからね。素直に感謝することにしましょう。


「アデルです。どうか、宜しくお願い致します」 



***



「えええぇっ!? スタンピードを止めたんですか!? さ、さすが高位の冒険者さまは凄いんですね……」

「いや……俺たちはオマケみたいなものだったからな。やっぱり異世界の英雄は違うぜ」

「……そのお話、詳しく!!」

「お、おお、何だ、アデルちゃんもカケルのファンなのか?」

「……命の恩人です。あの方のお役に立ちたくて、プリメーラに行くことにしたのです」


「……アデルさん、良かったら、会えるように紹介しましょうか?」

「いいえ、とても有り難いお話ですが、まずは自分で頑張ってみます」


 すごく勿体ない気もしたけれど、それこそご迷惑になってしまいますからね。


「分かりました。私たちは当分の間、プリメーラの冒険者ギルドにおりますから、何かあったら相談して下さい」


 道中は、お二人のおかげで、危険らしいこともなく、無事、プリメーラに到着した。


「ふわあ……お、大きい街ですね……」


 実は、プリメーラに来るのは生まれて初めて。完全に舞い上がってしまって、これじゃあお上りさん丸出しです。


 とにかく、まずは商業ギルドへ行って、求人を探さないと。


 ……いきなり迷子です。こんなことなら、ヴァレンティノさんに教えてもらってから、別れるべきでしたね。


 適当なお店に入って聞いてみましょう。『夢の食卓』素敵な雰囲気の食料品店です。


「こんにちは〜、ちょっと道を伺いたいのですが……」 

「あら、いらっしゃい。可愛いお嬢さんね」


 うわあ……綺麗な人。色気があって、大人の女性って感じ。なんか目が離せなくなります。

 

「あの、商業ギルドへ行きたいんですが、迷子になってしまいまして」 


 親切な店主カミラさんに教えてもらい、商業ギルドを目指す。


「……大きいですね」


 3階建ての商業ギルドにびびってしまい、中々入れません。そもそも、複数階の建物なんて見たことなかったから仕方ないのです。


「あら、お嬢さん、商業ギルドに御用ですか?」


 声をかけてくれたのは、とんでもなく綺麗な女性。え? 都会ってみんなこんな綺麗な女性ばかりなの?


 

 その女性は、ミネルヴァさんといって、商業ギルドの受付嬢でした。貴族さまのご令嬢らしく、気品が溢れているのです。


「なるほど、カケルさまのお屋敷で働きたいのですか……」 


 ミネルヴァさんは、難しい顔をして考え込む。やはり難しいのでしょうか。


「今や、王家に嫁ぐよりも難易度が高いといわれてますからね。でも、貴女、持ってますよ! ちょっと特殊な仕事ですけど、今朝募集が来たばかりで、1人だけ枠が残っています」

「や、やります! 草むしりでも、下水掃除でも、何でもやります! お願いします!」


 こんなチャンス絶対に逃せないです。どんな仕事でもやってみせます。


「ふふっ、その意気やよし。わかりました。私も協力しましょう」


 なんかよくわかりませんが、ミネルヴァさんが一緒に付いてきてくれるらしいです。右も左もわからないので、正直とてもありがたいです。 


「ああっ!? ちょっとミネルヴァ、何処行くのよ?」

「ふふっ、ちょっとカケルさまのお屋敷に……」

「はああああ!? そんなの……私も行きます」


 ミネルヴァさんとは、タイプが正反対の受付嬢ローラさん。この女性もとんでもない美少女です。え? 一緒に来て下さるんですか? ギルドの受付大丈夫ですか?



***



「おーい、なんで受付こんなに混んでるんだ?」


 商業ギルドマスターのモウカルが叫ぶ。


「……ミネルヴァとローラがいません」

「は? あいつら何処行ったんだ?」

「……カケルさまのお屋敷に行きました。嬉しそうに」

「はあ……またか、頼む、戻ってきてくれミレイヌ」


 モウカルの魂の叫びが爆発するのであった。



***



「あの……お屋敷が見えないんですが?」


 巨大な門を抜けてからも、一向にお屋敷が見えてこない。


「ああ、敷地が広いですからね。もうじき見えてきますよ」

「あ、見えました。あれがそうですね! うわあ、大きい……」

「……あれは、門番の宿舎です」

「……そうですか」


 駄目です……すでに膝ががくがくいっています。だって巨大な角うさぎがそこいら中に寝そべっているんですから。あいつらは、見た目に反して、とても凶暴なのです。ミネルヴァさんたちは怖くないのでしょうか?


「大丈夫よ、あの子たちとっても大人しいの。触っても平気なんですよ」

「……いいえ、遠慮しておきます」


 

 私、無事にカケルさまにお逢い出来るんでしょうか?  

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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