33 カケルの真価
「皆様、この度案内役を務めさせていただく、アンドレアです。よろしくお願いいたします」
私はプリメーラ騎士団第三師団情報部隊隊長のアンドレアだ。
今回、西の森の異変に関する調査を担当していたが、突然の方針変更により、冒険者パーティの案内をすることになった。
なんでも、異世界から来た黒目黒髪の冒険者のおかげで、東領域の調査をすすめる目途が立ったためらしい。我が国にとっても、大変喜ばしいことではある。あるのだが……
我々騎士団員にとって、女神にも等しいセレス団長が、どうやらその冒険者に御執心だというのだ。
なぜだ……これまで浮いた噂も無く、気高く孤高の存在だった団長がなぜ……。しかも、すでに旦那様などと呼んでいるという情報も掴んでいる。職権乱用だが許して欲しい。これは騎士団にとって最重要事項なのだ。
幸いにも、今回その冒険者の案内役となった以上、本当に団長を任せられる男なのかどうか、しっかり見極めさせてもらうぞ!
「冒険者のカケルです。こちらこそ、宜しくお願いします。アンドレアさん。頼りにしていますね」
なんだ、単独でオークジェネラルを倒したというから、どんな化け物かと思ったら、礼儀正しい青年ではないか……。印象は悪くない。
「では、早速出発しましょう。ここからは、時間との勝負ですから」
やらなければならないことは多い、すみやかに現地まで案内することが、私の任務だ。
「貴方様、ボクが一番乗りだよ」
「御主人様、申し訳ないのですが、もう少しかがんでもらってもよろしいでしょうか?」
「エヴァ、もう少しつめてくれない?」
「ダーリン……そこは敏感なのじゃ、もっと優しく」
「…………あの、カケル殿? 一体何をしているのでしょうか?」
「え? あー、なんていうか、移動するときはこんな感じ? になってるんだ」
くっ、美女4人と密着しながらの移動とは、うらやま――いや、けしからん!
前言撤回だ。やはりこんな奴に団長は任せられん。いや……まてよ、移動中も身体を鍛えているという可能性もあるか? いや、むしろそうでなければ説明がつかない。
実際、カケル殿は、4人を運びながらも、他のA級冒険者や、我々選抜された騎士団メンバーに遅れることなくスピードを保っている。正直信じられないほどの身体能力だ。
さらに驚いたのは、カケル殿が、我々全員の顔と名前を完璧に覚えているということだ。我々情報部隊は、任務の特性上、顔に特徴のないメンバーが集められているはずなのにだ。
移動中、カケル殿には、色々なことを質問された。三日前にこの世界に来たばかりで、この世界の事をもっと知りたいのだそうだ。
地理、歴史、文化、風俗にいたるまで、カケル殿の質問は尽きることがなかった。
「カケル殿は、なぜそんなに細かい情報まで集めているのですか?」
我々の名前もそうだが、カケル殿に直接関係なさそうなことまで、関心を寄せる姿を疑問に思い、直接たずねてみた。
「これ以上、俺の目の前で、誰一人死なせたくないんです。仲間も、街の人たちも、もちろんあなたがた騎士団も。俺に足りないのは、情報と時間ですからね。一刻も無駄にしたくないんですよ!」
カケル殿は、それがまるで当たり前のことだというように笑う。
頭を殴られたような気がした。誰も死なせない……いつも団長がいっていたことじゃないか。
何が団長にふさわしいかどうか見極める、だ。くだらないことにこだわっていた自分が恥ずかしくなってくる。
決めた。私は全力でこの男の力になる。この男を支えることが、団長を守ることにもつながるのだと信じてみたくなったからな。
「御主人様、あーん」
「貴方様、こっちもあーん」
「貴方様~ちゅっ」
「ああ! サラ! 口移しは駄目っていいましたよね!」
「ダーリン、妾にも食べさせておくれ」
…………まだだ、もうちょっと情報をあつめてからでも遅くない。団長! 本当にこんな男で良いのですか?!
「アンドレアさん、このソーセージ美味いですよ。俺が作ったんですけど、どうぞ」
う、美味い! 料理まで一流とか、悔しいけれど、そりゃモテるわけだな。納得したよ。
「カタリナ……アンドレアのやつ、さっきからころころ表情変えて忙しそうだな」
「そうね、どんなこと考えてるか大体分かるけど……それより、セシリア、私たちもソーセージ貰いにいかないと無くなっちゃうわよ?」
「やっべ、そりゃ一大事だ。カケル~、まだ沢山あるんだろうな?」
「大丈夫ですよ。今回は、試作品作ってみたので、感想聞きたいです」
「まかせとけ! おおっ、ウサギとオークの合い挽き肉をつかっただと……こいつは凶悪だな」
野営地には、肉の焼ける香ばしい香りと、冒険者たちの談笑の輪が広がる。見れば騎士団メンバーも加わり新たなソーセージを焼き始めている。
ウサギの耳とネコの尻尾といえば、プリメーラでも有名なA級冒険者パーティだが、他の冒険者とは決して慣れ合わない変わり者の集団だったはず。
カケル殿の真価とは、戦闘力ではなく、周りの人間を引きつける魅力なのかもしれないな。
これから敵の本拠地に乗り込むという緊張感も、いつの間にかすっかり消えていることに気づき、内心苦笑いする。
「カケル殿! 私にも合い挽き肉ソーセージいただけますか!!」




