海の女王
「何だって? 陛下たちがいらっしゃらないだと?」
サフィールが大声を上げる。
「どういうことだ? ベルトナーくん」
「ああ、それならすでに第1便が本国に向けて出航しているから、そこにいるんだと思う」
「ベルトナー……あんた、そんな大事なこと何で言わなかったのよ?」
「痛だあああああああああ!? ごめんなさいいいいい」
さすがに美琴のお仕置きを受けたくて黙っていた訳でもないだろうから、素で忘れていたのだろう。
「第1便が出航したのは何時だ?」
「よ、4日前だよ」
ほう、美琴のお仕置きを受けてまだ話せるとは……さすがだなベルトナーくん。
しかし4日前か……また微妙なタイミングだな。ちょうど海の上ど真ん中って感じだ。
「ベルトナーくん、航海ルートわかるかな?」
「それなら、ここに書いてある」
瞬時に航海ルートと船の速度から、おおよその位置を推定する。
(リーヴァ、出てきてくれ!)
『ふわあ……ブラッシングの時間か?』
眠そうに目をこすりながら現れた絶世の美少女、いや美幼女は、リヴァイアサンのリーヴァ。海の女王だ。
「リーヴァ、悪いんだが、船を探して欲しいんだ。お前にしか頼めないんだよ」
手早くリーヴァの髪をブラッシングしながらお願いする。もちろん手抜きはしない。
『船? ククク、容易いことだな。だが、広い海でそんなことが出来るのは、我ぐらいのもの。さすがは主、賢明な判断じゃ』
「ありがとうリーヴァ、じゃあ情報を渡すからな」
『ふぇっ!? ち、ちょっと待て、んむむむぅ……』
リーヴァにキスをして情報を渡す。平行動作でブラッシングしながらでもキス出来るのだ。
『うはあ……ブラッシングしながらのキスは駄目えぇ……おかしくなってしまうからあああ!』
ヘロヘロになったリーヴァは、ふらふらしながら転移して行った。リヴァイアサンは、海であれば、どこへでも自由に転移出来るのだ。
「か、駆くん、まさか、あんな幼女まで? もしかしてロリコ――――」
「おっと、そこまでだ、ベルトナーくん。違うな、俺はオールラウンダーだ」
「お、オールラウンダー!? な、なんか格好良いな!?」
「ふふっ、そうだろう、そうだろう」
「俺もなれるかな……そのオールラウンダーってやつに……」
「うーん、こればかりは生まれ持っての適正もあるからな。俺が知る唯一のオールラウンダーは、美琴だけだ。それだけでもいかに困難かわかるだろ?」
「そうだよ、そもそもベルトナーには必要ないじゃない。どうせお一人様なんだから」
「くっ、たしかにそうかもしれない。でも……最初から可能性を諦めたくはないんだよ……」
「ベルトナーくん……」
「ベルトナー……」
「あの、ところで陛下たちは大丈夫なんだろうか?」
心配そうなサフィールたちを見て反省する。オールラウンダー議論をしている場合じゃなかったよな。
「ああ、サフィール、大丈夫だ。もう発見したらしいから行ってくるよ」
「も、もう見つけたのか!?」
実は、リーヴァに情報を渡した時点で、発見していたのだが、そこまで言わなくてもいいだろう。
***
「なあ、少しぐらいいいだろ?」
「……仕方ない奴だな。初物は駄目だぞ? 商品価値が大幅に下がるからな」
「ちぇっ、俺たちは命懸けで海を渡ってるってえのに湿気た話だぜ。わかったよ……おっ、そう言えば人妻がいるじゃねえか!! 人妻ならいいだろ? 半漁人族の見た目は俺の好みど真ん中なんだよ。ぐへへ……」
「うわあ……この変態野郎が。構わないが、傷はつけるなよ? 利用価値は高いんだからな?」
「へへっ、わかってるって」
船を任せられている指揮官の一人、ジアンは半漁人たちが囚われている船室へと向かう。
「ぐへへ、ジアンさま、俺たちも混ぜてくださいよ」
ジアン直属の部下たちが集まってくる。長い船旅で船員たちも色々とたまっているのだ。ここは士気を高めるためにはやむを得ないだろう。
「しょうがねえな……いいか、他の連中には内緒だぞ?」
「わかってますって、さすがジアンさまです。一生ついていきます」
***
「ぐふふ……楽しませてもらうぞ」
「お待ちください! 私が全て引き受けますので、他の者には手を出さないで下さい」
「これはこれは、王妃さまのお願いとあっては、断れませんな。ぐふふ」
王妃シェラザードは、気丈にも全ての辱めを自らが引き受ける覚悟を決める。
もちろん、それが一時的な先延ばしに過ぎないことは分かってはいるが、目の前で愛する国民が虐げられる様子を見てはいられなかったのだ。
「この人数だ。せいぜい壊れないでくださいよ?」
他の半漁人族の絶叫もむなしく、男たちは王妃に襲い掛かる。
だが――――
「うおっ!? な、なんだ一体?」
船が大きく揺れたかと思うと、完全に停止する。慌てて外の様子を見に行った兵士が、あまりの光景に絶句する。
「な、なんだ……これは……?」
百近い大船団を丸ごと囲むように突如現れた山。高さは数百メートルはあろうかという巨大なものだ。
「じ、ジアンさま、大変です。と、突然海に山が現われました。完全に囲まれています!」
「は? 何を言っているんだ? 分かるように言え!」
「……リヴァイアサンだよ。知らないのか?」
「だ、誰だお前は!?」
突然現れた黒髪の青年に驚くジアンたち。
「俺はカケル。異世界から来た英雄さ」