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ベルトナーの憂鬱


「じゃあな。俺は夜に備えて寝るから、適当によろしく」

「おやすみなさい、パーシヴァルさま」


 この船団の指揮官の一人、パーシヴァルさまが夜勤に備えて仮眠室へ入っていった。


(……まったく、なんでこうなったんだよ?)


 船の甲板から色鮮やかな南国の島を眺める。


「おい、何さぼってやがるんだ、ベルトナー」

「何って、俺の仕事は案内人であって、今はやることないだろ?」

「……ったく、減らず口叩きやがって、フルーツの積み込みぐらいなら出来るだろ?」

「……俺は体力無いから無理、以上!」


 早々に話を切り上げ、逃げるように場を離れる。


(……あれが半魚人族か……パッと見人間と変わらないんだな……)


 船に押し込まれてゆく奴隷たちを横目で眺めながら、ここが異世界なんだとあらためて実感する。



 この世界に転生してから17年。


(あーあ、こんなはずじゃなかったんだけどな……)


 ベルトナーは、長い溜息を吐く。



 猛勉強の末、勝ち取った海外留学の夢。


 飛行機が怖いからといって、船旅にしたのが間違いだった。船上火災に巻き込まれてあっけなく俺の人生は終わったのだ。しかも火災で死んだのではなく、慌てて逃げようとして、転んで頭を打って死んだのだ。かっこ悪!?


 死んだあと、思い残した無念が強かったからだろうか? 他の死者が一本道を進む中、俺だけ別の道が見えたのだ。興味本位で、その道を進んだら、なんかめちゃくちゃ綺麗な女神さまが異世界に転生させてくれるっていうから、俺は歓喜したね。


 まさかの異世界転生! 2度目の人生キター!!


 死んだ時と同じ歳スタートと赤ちゃん転生どっちがいい? って聞かれたから、俺は迷わず赤ちゃん転生を選んだね。だって、ちょうど読んでいたラノベが、赤ちゃん転生物だったんだよ。ふふふ、魔力を鍛えまくって、学園無双するのが今から楽しみだって、その時は呑気にそう思ってたんだよな。


 ところが、転生したのは貴族でもなんでもない一般庶民の末っ子。


 まあ、それは別に構わない。奴隷スタートじゃないだけマシという考え方も出来るし、どうせ成り上がるんだから、スタートは低いところからの方が盛り上がるぜ、ぐらいに前向きだったんだ。その時までは。


 でもさ、こんなのってないだろ? せっかく魔法や魔物がいる異世界に転生したのに、なんでチートじゃないんだよ? 女神さま……ひょっとしてスキル付与し忘れたんじゃないよね!?


 でも、俺は基本前向きだから、すぐに立ち直ったね。よく考えてみれば、前世の記憶と知識を持っているだけで十分チートといえるんじゃないかってさ。


 それに、残念ながら、格闘系の才能は全然だったけど、魔法に関しては、赤ちゃんの時から練習したおかげか、それなり以上の結果を出すことができた。戦うのは好きじゃないし、俺はスローライフが出来れば良かったからね。


 ただ、つくづく残念だったのは、せっかく赤髪なのに火系統の魔法が使えないこと。せいぜい生活魔法の点火ぐらいしか使えない。格好良く地獄の業火とかやりたかったのに……


 そして、人脈作りと、魔法で学院無双するために王立学院に入学。入学資金は、知識チートで稼いでいたから余裕だったし、魔法の成績が良かったので、授業料も無償に。


 ここまでは、順風満帆だったんだよな……はぁ……


 庶民出身の俺は、貴族社会のことを何も知らなかった。王位継承で派閥が分かれていることも知らず、利用され、巻き込まれた挙句、全責任を取らされて退学処分に。


 それだけなら良かったんだけど、国家反逆罪の容疑で処刑される直前まで行ったんだよね。


 最後に与えられた自己弁護の場で、どうせ殺されるならと、俺の秘密を暴露した。異世界の知識を持っていることとかね。


 信じてもらえるかは正直賭けだったけど、この世界の人々は、歴史上、異世界人がやってくることもあって、特に抵抗なく受け入れてくれた。すでに商売で知識チートを使って稼いでいたことも大きかった。え? なんの知識チートかって? そりゃ決まってるよ、マヨだよマヨ、マヨネーズ無双。


 結局、皮肉にも、俺を殺そうとしていた第一王子派に雇われる形で罪を許されたわけだけど、第一王子派は王位継承を確実なものにするために、目に見える成果を欲しており、そのために俺が必要だったらしい。


 そして俺はこの国で暮らすうちに、この世界と前の世界の共通点に気付いていた。


 そう、地形条件がほとんど同じなんだよね。キャメロニアは、海洋国家だけに地図が正確だったから、すぐに気付くことができた。だって、俺が留学しようとしていた英国と地形が同じなんだから、そりゃ気付くよ!? それと同時に、女神さまに感謝したよ。形は違うけど、夢を叶えてくれてありがとうございますってね。


 だから、俺は、新大陸の存在を進言した。父親が船乗りだったこともあって、船に詳しかったから、船の改良についてもアドバイスできたからね。


 おかげで、円卓の騎士の末席に名を連ねることが許されて、男爵の爵位までもらうことが出来た。強力な身分社会のキャメロニアでは異例の出世となって現在に至る訳だけど……



(何で俺が案内人やらされるんだよ?)


 そう、進言が受け入れられたのは良かったんだけど、なぜか俺が案内することに。よく考えたら当たり前の結果なんだけど、その時の俺は気付いてなかったらしい。


 まあ、成功したら子爵に出世できるし、領地ももらえるから、俺のスローライフの夢に大きく前進することができる。そしたら、綺麗で可愛い奥さんをもらえるかもしれない。この世界は多夫多妻OKだから、もしかしたらハーレムも夢じゃないかもね。



 もちろん、奴隷にされる人々を見て、酷いことしてるなあって思うけど、チートでもない俺が出来ることなんて何もない。案内人ということもあって、どこか傍観者面して、現実から目を背けて責任逃れしているのだろう。


 計画では、この島は、補給基地にしようとしただけで、勝手に略奪を始めたのはあいつらだけど、そもそも俺がこんな計画を進言しなければ、こんなことにならなかった訳で、俺の責任はないとは言えないのにな。

 

 そんなことを考えていたからかな。


 突然、黒目黒髪の美少女が現れて、パーシヴァルさまを含めてキャメロニア兵をあっという間に無力化してゆく中、俺は彼女の前に飛び出し土下座して頼んだんだ。


「どうかお仕置きしてください」ってね。


 ははっ、彼女の引きつった顔が忘れられない。この変態野郎って見下された感じが最高だったね。 


 

 

  

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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