アトランティアの夜
部屋に戻った俺は、ひたすら牛柄の着ぐるみを作っていた。
未練がましく見えるかもしれない。でも良いんだ。だって事実、未練たらたらだし?
(よし……完成だ)
出来上がった着ぐるみを見て、思わず笑みがこぼれる。我ながら会心の出来だと思う。
想いがほとばしり過ぎて、角とカウベルまでセットで作ってしまったよ。我ながら業の深いことだ。
(さて……誰が一番似合うかな?)
俺は自他ともに認める微乳好きだが、牛コスとなれば話は別だ。最低でもCカップは欲しいところではある。
残念ながら、サキュバスは優秀種族ゆえ全員候補から外れてしまう。実に残念だが。唯一の例外は、ハーフサキュバスのカミラさんで、なんとDカップもある。
後は、セレスティーナと美琴がCカップで候補入り。
意外なところでは、ミレイヌとリノが、隠れ巨乳でDカップといったところだろうか。
脳内会議で激しい議論が交わされるが、中々結論は出ない。これでは小田原評定となってしまうな。
やはり真実は会議室ではなく、現場にあるということか。徹底的に実地検証することを決断する。
***
「ふふっ、似合ってるかしら? 私もいい歳だからちょっと恥ずかしいけど……」
牛の装備一式を身につけたカミラさんが、少し恥ずかしそうに谷間を強調して、モー烈にアピールしてみせる。
紫色の髪色と、牛柄の絶妙なハーモニー。これは高得点待ったなし。
「最高ですよカミラさん。理性が吹き飛びそうです」
「あら、嬉しい。もしかしたら、牛乳出るかもしれないわね。試して……見る?」
もし、カミラさんから牛乳を調達出来れば、より安定的な供給が期待できる。
供給元の分散化は、エネルギー戦略の基本だからな。試さないという選択肢は無いですよ?
「えっ!? 嘘っ!? 何で牛乳が……あはっ、飲んじゃ駄目ええええ!?」
ふふふ、俺が作った着ぐるみが、ただの着ぐるみな訳がない。出るんですよ牛乳が。え? それなら牛獣人要らないんじゃないかって? それとこれとは話が違う。一から勉強をし直してくるんだな。
カミラさんの牛乳をたっぷり試飲させてもらったので、次の候補者を呼ぶ。
「あの……旦那様? は、恥ずかしいんだが……」
死んだ……神界なら油断して死んでいただろう。可愛さの暴力。ギャップ萌え極まるとは、まさにこのことだ。可愛さならぶっちぎりで優勝だろうが、やはり牛とは言えない。人生思うようにならないもんだ。
麗しの姫騎士が、牛騎士となり、しかもリクエストに応えて、ビキニアーマーのコンボを繰り出してくる。こうなれば、いかな耐性も何の役にも立たない。セレスティーナの可愛さの暴力に蹂躙されるだけである。
「へ? だ、旦那様? な、何を……んふう!? ぎゅ、牛乳吸っちゃだめえええええ!?」
セレスティーナの新鮮な牛乳を一気に飲み干すと、次の候補者が入ってくる。やれやれ、我ながら忙しいことだな。
「にゃ、にゃあああ……私は猫なんだけど……?」
ヤバい。めちゃくちゃ似合っている。
黒猫の獣人であるミレイヌと白黒の着ぐるみは違和感なくマッチしていて、もはや猫の面影はない。
推定Dカップの隠れ巨乳も、ミレイヌの乳牛感をいかんなく引き出している。しかもだ、彼女にはモフがある。つまり、ミレイヌは、隠れ巨乳もふもふ乳牛ということになる。字面だけ見れば、彼女が最強ではないかと思えてくるが、この審査は、やはり試飲が大きなウエイトを占めているのは間違いない。
「ミレイヌ、お前の新鮮な牛乳を味合わせてもらうぞ」
「は? カケルさま、それはどういう意味……にゃはあああ!? 止まらないにゃあああ!」
……大変美味しゅうございました。
しかし、だいぶお腹がたぷたぷしてきた。いくら美味しいとはいえ、さすがに飲みすぎたか。だが、審査はまだ終わっていないのだ。ここで投げ出すわけにはいかない。
次に入ってきたのは、着ぐるみクイーンのリノだ。彼女ほど着ぐるみが似合う女性はおそらくいないだろう。間違いなくダークホースになるだろうと予想している。
「……カケルさま、また着ぐるみですか? たまにはドレスも着たいのですが」
「リノ……可愛いぞ。我慢できない!」
あまりの可愛さに有無を言わさず抱きしめてしまう。
「ふえっ!? え、えへへへへ。か、可愛いですか? じゃあ、いつもこの格好しようかな……」
「悪いがそれは駄目だ。リノの着ぐるみ姿は、他のやつに見せたくないんだ」
リノは可哀想なぐらい真っ赤になってぷるぷる震えている。背が低くて小柄だから、小動物感が半端ないけど、隠れDカップ巨乳なので、すごい存在感がある。エルフはたいてい微乳だけど、リノはハーフエルフだからな。
リノといい、カミラさんといい、ハーフになると巨乳化する法則でもあるのだろうか? 研究して学会で報告したいところだが、ハーフだらけになっては困るので、闇に葬ることにしよう。
「ふえっ!? ちょっと待って、カケルさま……出ませんから……ええ!? 何で? いやああああ! 飲みすぎですって、んふううう」
ふう……ちょっと興奮しすぎて飲みすぎたかもしれない。うぷっ!? まずいな……このままではリバースしてしまう。よし、前にスライムから記憶したスキル『消化』を使おう。
『消化』を使うと、あっという間にお腹がもとの状態に戻った。素晴らしいスキルだ。これならいくらでも飲めるじゃないか。
最後は美琴か……奴はコスプレをさせたら神レベルだからな。正直耐えきる自信がない。
「先ぱーい! モーモー牛みこさんが来ましたよ」
ぐはっ!? み、美琴……お、お前は神か?
「ふふーん、悩殺されちゃった? ほれほれ、触ってもいいんだよ……って吸っちゃダメええええ!?」
すまん……我慢できずにいきなり試飲してしまった。
「はあ……はあ……ま、まさか牛乳が出るとは……ぐふふ。これを刹那に着せて……」
「……死にたくなければ止めたほうがいいぞ?」
「ええ~、じゃあ親友のリーゼロッテにする。おままごと中なら許してくれそうだし」
「待て、ぜひ俺も混ぜてくれ、そのおままごとに」
「にひひ。先輩も好きだねえ。じゃあ片方ずつね」
「わかった。俺は右側がいいな」
「ええっ!? 駄目だよ、私が右!」
「仕方がないな……わかった。俺が左で、美琴が右だ」
「ハックシュン!?」
「大丈夫? リーゼロッテ?」
「うん、なんか悪寒がしたんだけど気のせいみたい」
知らないところで勝手に話が決まってゆく可哀想なリーゼロッテであった。