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風呂上がりのコーヒー牛乳


「せ、先輩……これってまさか?」

「ああ、牛乳に見えるな。鑑定でもそうなっているし」


 風呂上がりに提供された白い飲み物に感激する俺たち。


 なぜか? 実はこの世界には、牛がいないのだ。似ている動物はいるが、乳を飲めるタイプがいない。


 なぜここに牛乳が存在しているのかは分からない。だが――――


「ぷはあっ! 美味い」


 しっかり冷やされた牛乳が、風呂上がりの乾いた身体に染み渡ってゆく。品が無いとはおもうけれど、思わず声が出てしまうのを許して欲しい。


「美琴、あれを出してくれないか?」

「ほいほい、コーヒーの粉~」


 以心伝心、美琴がお腹のポケットに偽装したアイテムボックスから、ヒルデガルド監修のコーヒーを取りだす。


 さすが美琴だ。言葉にしなくても伝わるのは嬉しいね。さっそくコーヒー牛乳を生成するとしよう。


 白い牛乳が、みるみる薄茶色に変化して行く。隠し味に少しだけローショを入れれば、特製コーヒー牛乳の出来上がりだ。


「飲んでみてくれ、美味いぞ」


 飲み比べて感嘆の声を上げる婚約者たち。


 リリムやサテラたちメイドにも、コーヒー牛乳は大好評だ。


 ヨツバは、大のコーヒー好きだったようで、久しぶりのコーヒーに涙を浮かべながら飲んでいた。



「初めて牛乳なるものを飲んだが、非常に美味だ。コーヒーを入れると更に飲みやすくなるな」

「これ、絶対アルカリーゼでも人気出ますよ、牛乳」


 ちなみに、プリンを作る時に使用しているのは、主に角うさぎのミルクと、ミルキービーンズという豆から抽出した豆乳だ。どちらも正直微妙だったので、これを使えば更にプリンが美味しくなるかもしれない。

 


「え? もしかして、外の世界には牛乳ないんですか……」


 困惑するヨツバの問いに、顔を見合わせる婚約者たち。


「残念ながら、アストレアには無いな」

「アルカリーゼにもないですね」

『魔人帝国にも無いですよ』

「っていうか、私も知らないんだけど?」


 リリスが知らないってことは、これも深海絡みかな? あの男、最低だが、割と良い仕事もしてるんだよな。罪を憎んで人を恨まず。評価すべきはきちんと分けて考えないといけないな。



「アルゴノートにはありますよ。牛乳」


 クロエの発言に俄然注目が集まる。


「本当か、クロエ?」

「はい、これ牛獣人の乳ですよね? ヨツバさん」

「うん。最初知った時は驚いたけど、もう慣れたわ」


 牛獣人……だと? 


 頭の中を牛柄の着ぐるみを着た巨乳美女が埋め尽くしてゆく。


「クロエ待ってくれ、なぜうちの屋敷には、牛獣人がいないんだ? あんなに沢山メイドがいるのに……」


 そういえば、街でも見かけたことが無いような? ひょっとしてレアな人々なんだろうか?


「ああ……それはですね、牛獣人は、性格がおっとりしているので、メイドには向かないんですよ。基本的に家の中でごろごろして、搾乳するだけの生活を好みますから、ほぼ外出しませんし」


 謎は全て解けた。そして牛獣人を雇うことも決定した。着ぐるみの美女のイメージは、おっとり系美女のケルベロスで確定した。


「クロエ、アルゴノートへ表敬訪問しようと思うんだが」

「……牛獣人ですね、分かりました」


「カケルさま、よろしければ、我が国の牛獣人たちにお会いになりますか?」


 おおっ、リリム! そうだよ。新鮮な牛乳があるんだから、そりゃあ、いるよな。



 新鮮な牛乳との出会いに胸がときめく。


「美琴、お前も行くだろ?」

「もちのろんだよ、先輩」


「わ、私も行くからね! 取材目的だけど」


 ヨツバ、分かっているさ。一緒に行こうじゃないか。ミルクパラダイスへ。 



「あ……ごめんなさい。牛獣人の方々は、日が沈むと同時に就寝されるのを忘れていました」

「…………そうですか。では明日の早朝にでも……」

「ごめんなさい、牛獣人の方々は、お昼過ぎまで起きてこないので……」


 終わった……明日の早朝にはこの国を出発してしまう。


「大丈夫ですよ、御主兄様。アルゴノートには野生の牛獣人が沢山いますから」


 ……野生ってなんですか? え、無職ってこと? ああ成程ね。それは良いことを聞いた。それなら雇い放題じゃないか!



『カケルさま、明日はエメロードラグーンの予定ですが、アルゴノートに変更いたしますか?』

「いや、その必要はないよ、ヒルデガルド。明日は予定通りエメロードラグーンへ行く」


 人魚……いや、半魚人族たちが、キャメロニアのせいで苦しんでいるというのに、牛乳に(うつつ)をぬかす訳にはいかない。

 

 そうだよ、牛獣人たちは逃げたりしない。引きこもりだし、焦る必要なんてないんだ。


「……明後日に予定を入れておいてくれ」

『承知いたしました』


 なのに、最短で予定を入れてしまう小心っぷりはいったい何なのか? それで英雄を名乗って恥ずかしくないのか?


 自問自答はするが、決して予定は変えない。初志貫徹。有言実行が俺の信条だ。安っぽい俺のプライドなど、ラビに食わせてしまおう。


 全ては牛乳プリンと新たなソフトクリームのために。天草が、寒天にもなることが分かったし、デザートのバリエーションがふえそうだな。


 



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i566029
(作/秋の桜子さま)
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