表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

312/508

堕天使の涙


 神界から戻って来たけど、当然のように全く時間が経過していない。少なくとも、1週間は居たはずなんだけどな。


 邪神に関しては、神界に残してきた深海が、頑張って呼びかけているけど、世界間の時差があるので、向うが認識するまで、早くても1週間はかかるそうだ。


 イソネ君にはキタカゼたちが付いているから安心だし、まだ決戦まで時間に余裕はある。


 邪神と戦う以上、万一ということもあるし、先にこの世界でやるべきことは、最低限済ませておくつもりだ。邪神にどこかへ飛ばされるとか、テンプレ展開になるかもしれないし。




「義兄さま? 私を部屋に連れ込んでどうするおつもりなんですか?」


 赤い顔で上目遣いするリリア。元々幼い容姿が更に若返って、もはや犯罪臭がしますよ?


 ……くっ、イリゼ様、なんでリリアの記憶消したんです? ありがとうございます。


「ふふっ、そんなこと決まってるだろう? お勉強の時間だ」

「もうっ……義兄さまのケダモノ♡」



 たっぷり義妹に勉強を教えてあげた後、イリゼ様から貰った漆黒の剣を取り出し眺める。


(これが、神剣クロレキシノート……)


 禍々しい輝きを放ち、見ているだけで精神が削られてしまう。


 触れるもの全てを吸収してしまう邪神に、唯一ダメージを与えることが出来る剣だ。


 正直ありがたい。邪神と戦うのにイソネ君のスキルに頼りっぱなしというのも、申し訳ないと思っていたからな。



『でも、無理したら駄目だよ?』

「うわあ!?」


 突然の声にベッドから転がり落ちる。


『酷いなあ、そんなに驚かれると傷付くよ?』

「り、リエル……なのか?」


 ベッドの上にちょこんと座るシルバーブロンドの幼女。身体こそ幼いが、ヴァイオレットの瞳には確かな知性が宿っている。


『うん……他の誰に見えるのかな? やっと逢えたね……カケル君』


 リエルは、背中の翼を軽く動かしながら妖艶に微笑む。


「人化……出来たんだな」

『もうっ、前に言ったよね? スケッチブックスキル確認してって?』


 リエルによると、スケッチブックスキルの『擬人化』を使って器を作ってもらうつもりだったらしい。ごめんなさい。色々忙しくて。


『でも、カケル君が神気を使えるようになったから、いつでも逢えるようになったんだよ』

「神気?」

『あれ? 気付いてなかったんだ。まあいいや、さぁ始めよう、もう我慢出来ない……』


 にじりよるリエル。目が怖いんですけど!?


「くっ、無理だ。いくらオールラウンダーの俺でも、わずかにストライクゾーンを外れている」

『……なるほど、でも、わずかなんだね!? この……変態♡』


 呆れつつも嬉しそうなリエル。くっ、褒めても何も出ないからな?


『大丈夫だよ。僕に魔力……いや、神気を注げば、その分成長するからさ』


 何だって!? そんな都合の良い話が?


 早速リエルに魔力を注いでみるが、なるほど、これが神気か……。似て非なるものだな。神気とは創造のエネルギーそのもの。人間たちが使っている魔力は、その力のほんの一端に過ぎないことが良く分かる。


『くっ、来た……はうあああああ……駄目……もっと優しく……そう、さすがだね』 

 

 最初は少し戸惑いがあったけど、神界で鍛えたおかげかすぐに調整できるようになった。


『……ねえ、カケル君、なんかあんまり変わっていないような……』


 リエルが自分の身体を見てジト目してくる。失礼な、ちゃんと変わってますよ?


「だから、言ったじゃないか。()()()に外れてるって」

『ごめん……聞いた僕がバカだったよ……変態オールラウンダー君』


 呆れるリエルを抱きしめ押し倒す。


『んふふ……意外と積極的なんだね? ドキドキしちゃうよ……ってうわあああああ!? お、堕ちる……堕ちちゃうからあああああ!?』



 

『……あのさあ、速攻で堕天使になっちゃったんだけど、どうしてくれるのかな?』


 え……? 堕天使ってそういう意味じゃないと思うんだけど!?


「何言ってるんだリエル? お楽しみはこれからだぞ」

『ふえっ!? それってどういう……』

「せっかく成長させられるんだから、1歳ずつ楽しませてもらう」


 きっと今の俺は、さぞかし悪い笑顔をしているんだろう。戦慄するリエルの両翼をがっしり掴んで離さない。


『あの……カケル君? 僕、まだ受肉したばかりだから……ね?』

「大丈夫だ。ケルベロスで慣れてる」


『うえっ!? 僕は犬じゃない……あ、翼……弱いから駄目えええええええ!?』



 一つだけ言わせてもらおう。深海……天使は取り込むものじゃないぞ。愛でるものだ。


『……カケルくん。深海がなんで神になる資格をはく奪されたか知ってるよね?』

「ああ、たしか迎えに来た天使を吸収したからだろ?」


『うん……それって誰のことだと思う?』


 悔しさと悲しさが混じったような表情で俺を見つめるリエル。


「誰って……まさか、それって――――」

『そう、僕だよ。辛うじて魂だけは分離して逃げることが出来たけど、こんな身体じゃ天使としての役目も満足にできやしないからね。どこにも僕の居場所はなかったんだ』


「……リエル」


『だからね、ミコトさまが声をかけてくれた時は嬉しかったんだ。僕にも出来ることがあるんだって。こんな僕も存在していていいんだって思えたんだ』


 リエルの頬を涙が伝う。天使の涙はとても綺麗だけど、俺は二度と見たくはない。


「大丈夫だリエル。俺が必ず邪神を滅ぼして、リエルの身体を取り戻してやる。だから……もう泣かなくて良い」

『……ありがとう。でも無理したら駄目だからね? 君は……僕の最後の希望なんだから』

  

「わかった……絶対無理はしない。約束するよ」


(ふふっ、それにね。もう僕は十分幸せだから、このままでもいいかもって思い始めてるんだよ)


「なあ……リエル」

『なんだい?』

「そんな天使の微笑みを見せられたら我慢が出来ないんだけど、そんな俺って邪神に近いかもな?」


 我ながら呆れるほどの強い欲求。一体どこまで傲慢なんだよ俺は。


『ぷっ……あははは、それで良いんだよ? そんな君に僕はぞっこんなんだから。でも、邪神というより変態神の方が近いよ?』


 呆れ半分、嬉しさ半分。


 カケルに飛び込んでゆくリエルであった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i566029
(作/秋の桜子さま)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ