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ユグドラシルの夜


「ふう……今日は本当に色んなことがあったな……」


 巨大なベッドの上に仰向けに寝転がり、うーんと手足を目一杯に伸ばす。


 樹粉症騒ぎから始まり、ブレイヴ義兄上の救出、白百合騎士団長リーリエさんと世界樹の精であるルシア先生、エンシェントエルフのシルヴィアさん、そして土の大精霊モグタンが新たにお嫁さんになって、帰って来た後は、サクラとリーゼロッテとミヅハを眷族にして、屋敷を建て直して、ついさっきまでは、婚約者たちに加えて、ベルファティーナさまとマーガレットさまが乱入して大変なことになっていたと。


 うん、だいぶ端折ったけど、ヤバいなユグドラシル。これは留守番組への説明が長くなりそうで頭が痛い。


 

 とはいえ、ようやく屋敷は落ち着きを取り戻し、今は風に揺れる世界樹の葉音がかすかに聞こえてくるだけだ。


 最近はほとんどの時間、常に誰かと一緒にいたから、深く考えたり、振り返る暇も無かった。睡眠時間の確保もままならないのは問題だと思うんだ。わりとマジで。


 使い過ぎだとは分かっているが、時空魔法を発動する。久しぶりのひとりの時間を思い切り満喫するためには、もはや手段を選んではいられないからな。 


 明日はいよいよアトランティアへ行く。


 アトランティアへは、一度リリスと時の回廊で行っているけど、リリスの家族と会うのは初めてだ。


 今でもチクリと胸が痛むのは、リリスとの間にもうけた幻の双子の事。


 決して口には出さないけれど、きっとリリスは待ち望んでいるはずだ。早く会わせてあげたいし、俺も同じ気持ちだ。


(……子どもか……)


 俺自身がまだ17歳だからか、親になるのはまだまだ先だと思っていたけど、この世界では立派な成人なんだよな。


 婚約者たちの中にも、早く子どもが欲しいと言っているメンバーはそれなりにいるし、経済的にも、環境的にもまったく問題は無い。


 あとはタイミングと俺自身の親になるという覚悟だけ。



 ……多分、2桁じゃ収まらないだろうな。ひとり生まれたらみんな欲しがるだろうし。想像すると苦笑いしか出てこないけど、絶対に可愛いだろうし、楽しいだろうな。


 俺の能力が、どの程度受け継がれるのかが気になるけど、あまりにも強すぎても、世界がめちゃくちゃになりそうだから、ほどほどが1番。


 せっかくだから、ついでに学校も作ってしまうのも悪くない。ふふっ、夢が広がるな。今は夢想しているだけだけど、近い未来に待っている現実でもあるのだから。


 

「うーん、しかし何かが足りない……そうか! 召喚ラビ!」


 そうだ、ここにはモフモフが足りなかったんだ。ふふふ、これで素晴らしい睡眠が期待できるな。


『主、お呼びですかうさ』


 遠くでカタリナさんの悲鳴が聞こえたような気がするが気のせいだろう。


 そんなことより、なぜ俺のベッドにセクシーなバニーガールのお姉さんがいるんだろうか?


「あの……どちらさま?」

『主……ラビうさ』


 くっ……やはりか……まあいい、ラビが雌だろうことは予想していたから、お姉さんなのは許そう。バニーガールなのもまあ百歩譲ってギリギリセーフだ。ウサギだしな? 


 だが……網タイツはおかしいだろ!? この世界で見たことないんだけど!? え? もしかして俺のせい? たしかに好きだけどね?


「まあいいや……添い寝モフを頼むよラビ」


 せっかくの一人の時間だ。より充実させるために添い寝モフは欠かせない。モフりながら眠りにつく。これぞ至高にして究極の贅沢だろう。


『わかったうさ。これでいいかうさ?』


 俺の隣に添い寝するラビ。


「そうそう……これこれ……って違うよ!? 獣形態になってくれないと、バニーガールのお姉さんと添い寝してるだけになっちゃうからね? そもそもなんで人型になるとモフモフ無くなっちゃうの? おかしいよね?」


 唯一残るモフは丸い尻尾のみ。これはこれで素晴らしいのだが、今欲しいのは添い寝用モフだ。


『わがままな主うさ……獣形態』


 仕方なさそうに、角ウサギに戻るラビ。これこれ、温かくてふわふわもこもこでモフモフのラビ布団。なんだか急に眠気が襲ってくる。


「おやすみ……ラビ」


 返事は聞こえない。すでに眠ってしまったのだろうか? 俺はそのまま夢の世界へ旅立っていった。



***



『……おやすみなさい。カケルくん』


 イリゼの力で眠りについたカケルは、たとえ死んだとしても目を覚ますことがないほど深く熟睡している。


『珍しい……イリゼが大人しくカケルを寝かせるなんて』

『人聞きの悪い……カケルくんの魂がとても疲れていたからね……』

 

 体の疲れは簡単に癒せても、魂の疲れは蓄積するとなかなか厄介なことになる。


『うん……カケルは短期間に強くなりすぎたから……』


 何段階も飛ばして進化を続けた代償は決して小さいものではない。心配そうに頭を撫でるミコト。


『まあ大丈夫よ。たまにこうやって休ませればいいんだからね』


 イリゼもカケルのおでこにそっとキスをする。


『……ところで、なんでイリゼがここにいるの?』

『えへへ……アリエスに転移して来てもらったのよ』

『まったく……そもそもカケルの消耗は、イリゼのせいでもあるんだからね!』


 親友をにらむミコト。


『ま、まあいいじゃない。細かいことは、さあ私たちも一緒に寝ましょうか?』


 そういってカケルの隣に潜り込むイリゼとミコト。


『『おやすみなさい……カケル(くん)』』



「御主兄様? 起きてらっしゃいますか? うふふ、可愛い寝顔。ってなぜアリエスさまと美琴さまが? ……仕方ありませんね。失礼します」

 

 両脇は空いていないので、仕方なく右足に抱き着いて眠るクロエ。



『クロエ……一体いつまで……ってやっぱり! 全く油断も隙も無い……失礼します』


 戻ってこないクロエを不審に思い呼びに来たヒルデガルドだが、そのまま左足に抱き着いて眠る。



「カケルさん……美琴見なかったかしら……ってここにいたのね。でも場所が……仕方ないわね」 


 カケルの脇で眠る親友の美琴に抱き着いて眠るリーゼロッテ。



「ソニア、本当にみんなここに来てるの?」

『間違いありませんサクラ。私の諜報能力を舐めないでください』


 ソニアの情報を元に寝室にやってきたソニアとサクラ、そしてリーリエ。


「……本当ね」

『ふふふ、そうでしょう?』

「……でも場所がないですね?」

『…………不覚』


 仕方なく、両足の裏に触れながら眠るソニアとサクラ。リーリエは迷った挙句、髪の毛に手を差し入れて眠りについた。




『行かなくて良かったのですか、ルシア?』

『……ええ、ご主人は今日一日、とっても頑張っていましたから……』


 少し離れた場所からカケルたちを見守るルシアとシルヴィア。


 ユグドラシルを永きに渡り見守ってきた優しき大樹。喜びも悲しみも、出生も死別も。


 ガーランドが興り発展するときも、外敵により存亡の危機にある時も、変わらずそこに在り続けて来た世界樹。  



『……でも、私たちは見てるだけというのも……少々淋しいものですね……』

『そうですわ! 行きますわよルシア』



 スヤスヤ眠るカケルの頬には、木の葉になったルシアとシルヴィア。首にはネックレスに姿を変えたモグタンも。



 大変だったユグドラシルでの一日。静かに夜は更けてゆく。月は一層明るく照らし、星たちは懸命に輝く。まるで彼らを労るように。



『……まるでじゃなくて、労っているんだけどね、僕が。担当じゃないと言ってるのに、まったくイリゼさまは……』


 仕方ないなと言いながらも、嬉しそうに見守る若い神。


『おやすみ、駆。よい夢を見てね』

 

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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