28 最高戦力 集結
カケルたちがギルドに入ると、冒険者たちの視線が一斉に集まる。
『おい、あれがオークジェネラルを倒したっていう新人冒険者か?』
『白銀の悪魔とA級のウサネコパーティーが一緒だったんだから別におかしくないだろ?』
『いや、到着したときにはすでに終わっていたらしいぜ。一体どんな魔法をつかったのやら』
『それに見ろよ、クロエ以外にも、とんでもない美女揃いじゃねえか……』
ざわつく冒険者たちの注目を浴びながら、受付カウンターに向かう。
応対してくれるのは、人気NO1のあの受付嬢だ。
「遅くなってごめん。無事依頼完了したよ。確認お願いできるかな、クラウディア?」
「カケル様……本当に依頼をしていたのですか? 一緒にいるお嬢様方と随分距離が近いようですが……」
クラウディアがジト目で睨んでくる。美人はどんな顔しても可愛いから困る。
「ち、違うんだクラウディア! 別にやましいことは何も――」
「冗談です……お帰りなさい。もちろん確認させていただきます……はい、確かに。では残りの報酬がこちらになります」
クラウディアは、くすくす笑いながら報酬を差しだす。くそっ、なんか恥ずかしいぞ。でも、こうやって報酬を貰うと、仕事をしたっていう達成感が湧いてくるな。
「カケル様、次はギルドカードをお借りします。今回の依頼のデータを入力いたしますので」
ギルドカードを差し出すと、クラウディアの動きが一瞬止まる。
「カケル様、ギルドカードがシルバー(C級)になっているんですが……昨日までF級でしたよね」
「ああ、そうみたいだな。なにか問題でもあったか?」
「……いえ、ではお預かりしますね」
***
どうなってるの? クロエでさえ、C級に上がるまで半年近くかかったのよ。しかもプリメーラ最短記録で。カードが壊れているとは思えないし……うそ、昨日だけで、オークジェネラルに、ハイオーク30体、オーク235体に角ウサギ300匹? 信じられないけど、レベルもステータスも馬鹿みたいに上がってるし。確かにC級に上がってもおかしくない内容だわ。
やっぱりクロエの目に狂いはなかったってことね。しかも予想の上をいくなんて嬉しい誤算。
しかも、やけに男らしく魅力的になって帰ってくるし……私も頑張らないとダメかしら。
「はい、手続き完了です。カケル様は今日からC級冒険者ですので、受けられる依頼の幅も増えますし、指名依頼を受けることも可能になるので、頑張ってくださいね」
「おお、C級冒険者になれば、一人前の冒険者と認められるんだっけ? これでクロエと同じ依頼を受けることが出来るし、東門を通って、魔物の領域にも行くことが出来るんだよな。ふふっ、一気に世界が広がった気がするよ」
少年のように目を輝かせるカケル様が可愛らしくて困ってしまうわ。はぁ。
「あ、それから、魔石や素材の納品は、後でお願いします。ギルドマスターたちが待っている――」
「カケルくん!! お帰り、遅かったじゃない。心配していたのよ……」
横槍を入れてきたのは、A級冒険者パーティー「ウサギの耳」のリーダー、カタリナ。
くっ、なにいきなりカケル様に抱きついてるのよ!? しかもあの女、薄手の魔導師服しか着ていないから、カケル様にダイレクトに感触が伝わっているはず。
カケル様もあんなに嬉しそうな顔をして!!
「カタリナ……今大事なことを話していたんだけど……」
「カケルくんは貴女のものじゃないでしょう? そうよね?」
さらに押し付けるように密着するカタリナ。
「うえっ!? カタリナさん、当たってる。色々当たってるから!? ちょっとクラウディア? 何で俺、そんな睨まれてんの?」
まったく困った人だわ。私も抱きついた方が良いかしら?
***
カタリナとクラウディアが火花を散らす一方で、ギルド内の冒険者たちも穏やかではいられない。
『おい、あの新人君、カタリナまで手懐けてるぜ……』
『うむ、クロエにカタリナ……おそらく猛獣使いのスキル持ちで間違いない!』
「御主人様……ちょっと失礼します」
「ごめんねカケルくん、ちょっと用事が出来たの」
背筋が凍りつきそうな殺気をまとい、無表情で歩き出すクロエとカタリナさん。
『ぎゃー!!!!』
ギルド中に響き渡る悲鳴……まあ、口は災いの元っていうよね。自業自得ともいうか。
***
俺、クロエ、シルフィ、サラ、エヴァ、クラウディア、A級ウサネコパーティー、全員が揃ったところで、ギルドマスターの元へ向かう。
「みんな御苦労だったな。ギルドマスターのベルナルドだ。よろしくな。カケル」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ギルドマスター」
「早速だが……窮屈なんで、部屋を変えようか」
ですよね~。良かった……この暑苦しい中、話をすることになるのかと思ったよ。皆ほっとした表情で部屋を出る。
移動した先は、50人程入れそうな会議室。うん、ここなら大丈夫そうだ。
「さてと、仕切り直すが、オーク集落の発見と殲滅、実に見事だった。人的被害も最小限に抑えられたし、重要な情報も得ることが出来た。ギルドマスターとして、あらためて礼を言わせてくれ」
ギルドマスターから、特別報酬を出してくれるというので、ありがたく頂戴する。
「カケルと一緒にいるお嬢様方についても、色々聞きたいところだが、先にオークの件を聞かせてくれないか」
ギルドマスターに今回の一連の流れと、オークジェネラルから得ることが出来た情報を伝える。
「……つまり、精霊使いを苗床にして、オークキングを生み出そうとしていたってことか。今までオークキングの生まれる条件はわかっていなかったが、これは貴重な情報だ。しかし、あやうくオークキングが誕生していたと思うと、ぞっとするな。やつらの計画を未然に防げたのは実に大きい」
ギルドマスターは、報告を聞き、唸りながらも、安堵の表情を浮かべる。
「しかし、ギルドマスター。これほど計画的な作戦です。西の森の件も含め、敵は本気でエスペランサ砦、そして、このプリメーラを落とすつもりでしょうね」
クラウディアは浮かない様子で意見を述べる。
「まあな、だが、カケルのおかげで、計画の一部が破綻したのも事実だ。しかも予想外に強力な戦力が集まった。まさか、あの有名な紅蓮の魔女と暴風の魔女、そしてトラシルヴァニア公国の姫君まで一堂に会するとはな」
ギルドマスターが、愉しそうに笑う。
シルフィとサラは、冒険者ではないが、単独でA級、二人揃うとS級冒険者に匹敵する実力者なんだとか。エヴァも、登録して日が浅い為、冒険者階級こそD級だが、武勇で名高いトラシルヴァニア公国の歴史に残るほどの才能と噂されているらしい。
「これだけの戦力が、一度に集まることなど滅多にない。これならば、計画の前倒しが出来るかもしれん」
「ギルドマスター、計画の前倒しとは、もしかして――」
クロエが期待の表情で尋ねる。
「その続きは、私から説明しよう」
会議室に、金髪のイケメンとプラチナブロンドの美女が入ってきた。絵画を切り抜いたような二人に、視線が集まる。
「おう、来たな。アルフレイド、セレス団長殿」
プリメーラの双璧、四聖剣のアルフレイド伯爵とプラチナの破壊者セレスティーナ騎士団長の到着で、会議は大詰めを迎える。




