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土の大精霊


 夢中でルシア先生の敏感な部分……いや、根っこを吸っているもぐら美女だったが、さすがに俺たちの視線に気付いたようで、面倒くさそうにこちらを向いた。



『……何の用モグか? いま忙しいモグ』 



 俺と美琴に戦慄が走る。



「せ、先輩……」

「ああ、美琴、わかるぞ、皆まで言わなくていい」


 正直ラビ以来の衝撃だ。そう考えると意外と大したことないのか? いや、ミレイヌにゃん以来の衝撃だ。うむ、これならすごそうだ。


「世界樹様、あれは一体……」


 リーリエさんが困惑しながらルシア先生に尋ねる。わかるぞ、あの語尾は衝撃的だからな。え? 語尾は気にならない? 馬鹿な……異世界おかしいよマジで!?


『ふーん、あれは土の精霊ね。それも大精霊。養分不足はあの娘の仕業だったのね……』


 いや……ルシア先生、逆になんで今まで気付かなかったの? 敏感じゃなかったの?



(お兄様、チャンスです。土の大精霊なんて滅多に出逢えません。契約して4大精霊コンプリートしましょう)  

(た、たしかにチャンスだな。どうやって契約すれば良いんだ?)

(決まった方法はありません。とにかく向こうが契約したくなるように、気に入られるしかないのです……)


 契約したくなるようにか……かなりの高難度だな。精霊は気まぐれだし、大精霊となればプライドも高いはず……ってうわあ!?


『お前……すごく良い匂いがするモグ。モグタンと契約するモグ』


 いつの間にか俺の魔力をその柔らかい唇でチュウチュウ吸っている土の大精霊。


 え? 契約してくれるの? マジかよラッキーだな。って、待て待て待て、も、モグタンだと!? まさか名前じゃないよな? 多分土の精霊独自の一人称だよな?


 よし、鑑定先生で確認だ――――


 モグタンキターああああああ!?


「み、美琴……た、助けてくれ……モグタンがキタ……」

「せ、先輩……ごめん、私も腰が抜けて……」


 青い顔でガクブルする俺と美琴。


『それで……チュウチュウ……モグタンと契約……チュウチュウ……するモグか? しないモグか?』


 くっはあ……駄目だ、モグタン耐性が俺には無かった。おまけに精霊なのにもふもふしているとか、けしからんにも程があるだろう!?


 早速契約しよう、そうしよう。


「俺はカケルだ。モグタン……俺と契約してくれ」


 焦げ茶色の髪に不思議な白い瞳のモグタンを見つめる。


『分かったモグ。じゃあモグタンに魔力を注いで契約の儀を完了するモグ!』


 ああモフモフしたい。たまらなく気持ち良さそうな、手触りが良さそうな、ビロードのようなキメの細かい体毛だ。


 だが、獣人と同じように精霊もいきなりモフるのは不味い気がする。ここでやらかして契約出来なくなったら元も子もない。


 まずは契約、モフモフはその後でお願いしてみよう。


「分かった。魔力はどこに注げば良いんだ?」

『ここに注いで欲しいモグ』


 そう言って俺の手を取り自身にあてがうモグタン。うん、柔らかい。


「だが良いのか? 俺の魔力は刺激が強すぎるかもしれないぞ?」


 俺は嬉しいが、モグタンが危険な気がする。


『大丈夫、ドンと来いモグ』


 あくまで強気なモグタン。やむを得ない、やるか。


「行くぞ、モグタン」


 両手のひらから魔力を注ぐ。死ぬなよモグタン。


『あ、ああ、あああ、ああああああ!?』


 身体を痙攣させ、白目をむくモグタン。いや、白目は元からだった。


『い、一生付いていくモグ……し、しゅき……お前が大好きモグ……』


 すっかり懐いてくれたモグタン。よし、今ならいけるかもしれない。 


「も、モグタン、ちょっと相談なんだが、そのビロードのような美しい体毛をモフらせてくれないか?」


 契約してすぐお願いすることではないが、魔力をたっぷり吸わせたのだから問題ないだろう。


『モグ? モフるって何?』


 くっ、そんな穢れのない瞳で見つめないでくれ……大丈夫、モフることに邪念は無い。


「体毛を撫でたりスリスリしたり、顔を埋めたり、匂いを堪能……いや、これは違うな。まあ、そんな感じだ」


 くっ、言語化すると完全に変態の所業だな。もう少しオブラートに包むべきだったかもしれない。


 後悔先に立たずだが、精霊に嘘は通じないから、これで良いんだ。


『ふーん? マスターはずいぶん変態なんだモグね? 別に構わないモグ』


 モフモフお許しキタああああああ!? 変態認定されたけど、気にしない聞こえない。


 ついでに憧れのマスター呼びキタああああああ!?


 モグタン、お前は土の精霊なんかじゃない。夢を叶えてくれる神に違いない。


「も、モグタン? わ、私もモフりたいんだけど?」


 さすがは勇者、抜け目がない。慎重に機を伺い、隙あらば一気に攻める。このカケル、感服いたしましたぞ。


『別に構わないモグ。ひとりもふたりも同じモグ』

「うおおおお!? ありがとうございます、ありがとうございます!」


 感涙に咽ぶ彼女と顔を見合わせ頷く。良かったな美琴。これで俺も遠慮なくモフることが出来そうだ。


『そこのエルフと世界樹はモフらなくて良いモグか?』


 馬鹿な……周囲に気配りまで出来るとは……最強ではないかモグタン。


「え? いいえ、私は結構です」

『私はノーマルだから興味ないわ』


 馬鹿な……リーリエはともかく、ルシア先生がノーマルだと……いや、そこじゃあない、モフモフに興味ないとか異世界間ギャップを感じてしまう。


『じゃあ服を脱ぐからちょっと待つモグ』

「「へ?…………服?」」

 

 ち、ちょっと待て、モグタンは服など着ていないはずだ……ま、まさか……や、止めてくれ……精霊ジョークだと言ってくれ!


 俺たちの祈るような想いをあっさり踏みにじり、モグタンはモグラの全身着ぐるみを脱いだ。ストライクゾーンど真ん中の慎ましやかな肢体が露わになる。


 嫌ああああああああああああ!?


 分かってる、勘違いした俺たちが悪いんだ。精霊が全裸な訳ないよな。ちょっと考えれば気付いて当然。


『ん? どうしたモグ? やっぱりこんな貧相な身体じゃ駄目モグか…………』


 悲しそうに項垂れるモグタン。


 いかああああああああああん!?


 何をしているんだ俺は? 頼んでおいて勝手に失望して、モグタンを悲しませて……それでも英雄かよ、マスターと呼ばれる資格があるのかよ。


「美琴……モフるぞ」

「う、うん。でも……」


 美琴の困惑もわかる。なにせ、体毛といっても髪の毛を除けば、脇と下の方しかないからな。下はさすがにヤバいので、脇毛一択。駄目だ……絶望的な絵面しか想像出来ない。


(お兄様……うぶ毛なら全身に生えているではありませんか)


 それだ! さすがミヅハ、我が有能な妹にして相棒。精霊にうぶ毛があるのかは知らないが、ミヅハがいうなら有るのだろう。


「美琴、うぶ毛だ、うぶ毛をモフるぞ」

「そうか、その手が……でも先輩、うぶ毛モフは超難度だよ?」

「怖じ気づいたか?」

「ふふっ、まさか! 私は勇者美琴だよ?」

「ははっ、頼もしいぜ」



『は、はううう!? き、気持ちいい……これがモフモフ……』 


 俺と美琴のうぶ毛モフに恍惚の表情を浮かべるモグタン。



「あの……モフモフってあんなんでしたっけ?」

『……私もまだまだ修行が足りなかったようね……悪くないじゃない、モフモフ』


 困惑するリーリエと目を輝かせるルシアを尻目にモグタンをモフるカケルと美琴であった。

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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